Who will know‐誰が知っているだろう‐
「・・・雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ、丈夫ナカラダヲモチ・・・」
同刻、家屋から聞こえて来る心地良い声(ボイス)の朗読。
昭和時代の作家・宮沢賢治の詩「雨ニモ負ケズ」の冒頭の一説だ。
「欲ハナク、決シテ瞋(つぶ)ラズ、イツモシヅカニワラッテイル・・・」
朗読しているのは、ちゃぶ台に置かれていた本を手に取っているシン。
人間世界を嫌う者が多い怪獣界の者としては珍しく、人間世界に強い興味を持つ彼女は日本語も勉強しており、現代文字に訳されたこの本程度ならばあまり問題なく読む事が出来る。
「・・・」
朗読を聞いているのは、再び部屋の中央で正座しているシン・ゴジラなる男。
表情は崩さぬまま、だが彼女の朗読を集中して聞いている様子だ。
この状況になったのは少々前、シンが「彼」の名を聞いた直後だった・・・
シン「そ、そんなのって・・・す、すごーーいっ!!
まさかあたしと同じ名前のゴジラがいたなんて!も~!!なんでJr.パパ達は言ってくれなかったのよ~!!
いや、もしかしたら新顔なのかも・・・とにかく、これはうちのゴジラに自慢出来るわね♪」
「・・・」
シン「あっ、ごめん!なんか一人で舞い上がっちゃって・・・けど、それだけ嬉しかったんだ。あなたの名前が、あたしのお母さんがあたしに最初にくれたこの名前と同じだったから。
でも、どっちも『シン』って呼ばれたらややこしいなぁ・・・だから、『鎌倉さん』って呼んでいい?なんか、一度だけ異世界の日本の鎌倉ってとこに行った時に、あなたみたいな感じのを見た事あって・・・」
冴え渡る、シンの賛否両論なネーミングセンス。
それに対し、彼は無言の頷きで答えた。
シン「ほんと!ありがとね☆
それにしても、鎌倉さんは喋りは苦手そうだからどうしよっか・・・」
すると「鎌倉さん」ことシン・ゴジラは再度立ち上がり、ちゃぶ台から本を一冊取って彼女に渡す。
宮沢賢治の詩集だ。
シン「んっ?宮沢賢治?鎌倉さんって、この人間が好きなの?あそこの本見たら全部にこの人間の名前が書いてあるし。それで、これを読めばいいの?」
シンからの疑問に、ただ本を見ながら無言の回答をする彼。
声は出していないが、彼が何を言いたいのかがシンには伝わった。
シン「あ、朗読して欲しいのね?日本語にはちょっと自信無いけど・・・やってみるわ。」
「・・・」
「ホメラレモセズ、クニモサレズ、ソウイウモノニ、ワタシハナリタイ・・・」
こうしてシンは朗読を始め、この一節を持って「雨ニモ負ケズ」の朗読が終わった。
いつも怪獣島で子供相手にやっている絵本の読み聞かせとは違う、日本語の文章の朗読は始めて経験するシンにとっては軽く体力を使う事であり、読み終わるやシンは一回深くため息を付く。
シン「・・・ふぅー。やっぱ日本語は難しいわ~。もっと勉強しとかないとなぁー。あっ、どうだった?変なとことか無かった?」
朗読を聞いたシン・ゴジラは俯いて微かに間を置き、再び彼女と目を合わせながら小さく拍手をした。
彼なりの、彼女に対する称賛の形だ。
シン「喜んでくれたみたいね!それはよかった♪じゃあ次は・・・」
シン――・・・あれ?
なんか、こんな感じの事がすごく前にもあったような?
喋らずに、あたしをずっと見つめてて・・・