Give me‐君の心を解き放つ物語‐
それから時間は過ぎ、夕方。
別世界の怪獣達が帰還する時間になり、それぞれの地で怪獣達が別れを告げる。
その顔は少しの寂しさを湛えながら、仲間や友との友情を育めた事への満足感と、次の機会への期待に満ちたものだった・・・ここ、岩屋村跡地を除いて。
僧バラン「で、ではまた会おう。同志・・・琥珀の君。」
アンバーの告白から僧バランは失恋のショックでいつもの調子を失ってしまい、相づちを打つ事ばかりしか出来なくなってしまった。
「‐」バラン『あぁ・・・又な。』
「‐」バランもなるべく言動に出さないようにしていたものの、やはり内心ショックは隠しきれず、勘が良い者なら何かあったのかと思われてもおかしくはない様子であった。
ビオランテ『いい大人達がメソメソするな!お前らはまだ若いんじゃからまた新たな恋を探せばよかろう!』
僧バラン「お主に言われたら、もはや返す言葉など無いではないか・・・」
「‐」バラン『他人事だからと、言って繰れる・・・』
アンバー『あの、ビオランテ様。本当にこのままでよろしいのでしょうか?こうなると思ったので、わたくしはなるべく言いたくなかったのですが・・・』
ビオランテ『いいんじゃよ。失恋程度でこうなるようではまだまだ心の鍛練が足らんと言う事。こやつらには良い経験じゃ。それにしてもそこのマタギバランはともかく、お前までだんまりしよって・・・ショックのあまり、不満足期だった昔に戻りよったのか!』
「‐」バラン「不満足期?」
アンバー『あの、ビオランテ様。昔の法師様はもの静かな方だったのですか?』
ビオランテ『そうじゃ。怪獣界の怪獣が見た目によらず長命なのは知っておると思うが・・・こやつは100年程前までは誰とも口を聞かず、人間どころか他の怪獣にさえ興味を抱かず、いつも一人で島の外れに佇んでいる・・・このマタギバラン以上に冷淡な男じゃった。じゃが、微かに興味を持って地球へ赴き・・・その結果がさっきまでのこやつじゃ。』
アンバー『そうなのですか・・・』
ビオランテ『まぁ、さっきまでのこやつを見ておったら、到底信じられんと思うがの。』
レオゴン『ダガ、ヤツハ・・・ハジケタ。』
「‐」バラン『・・・其う言えば、前にラゴスが言って居た気が掏るな・・・彼の時は有り得ぬと一笑に伏したが・・・ふっ、其の風体と我が同志としては、不満足期の方が相応しかったのが分かる・・・』
僧バラン「昔の話だ・・・今の拙僧はこの世界の若者で言う『大学デビュー』を果たしたのだからな・・・」
ビオランテ『それでも今だ島の者から名前を忘れてられておるのは、そのデビューとやらをしても今度は帰って来なくなったからではないかの。』
アンバー――・・・もしかしたら、法師様が今になってバランやわたくし、他世界の怪獣との交流を求めているのは、その反動があるのかもしれません・・・
それなのに、わたくしは法師様の心を傷付けてしまった・・・
それなら・・・わたくしに出来る事は・・・
アンバー『・・・あの、ビオランテ様。やはりお二人のご期待を裏切ったわたくしにも責任があります。わたくしに、想い人さえいなければ・・・なので、今からわたくしのする事をお許し下さい。』
ビオランテ『むっ?そう言うが、それはそれでもっと面倒な三角関係の始まりじゃぞ?私からすれば、ここできっぱり断る方が絶対に楽なのじゃが・・・・・・って、お前は一体何をしとるんじゃ。』
と、不意にビオランテの目の前で繰り広げられたこの光景、常人なら叫ぶか空いた口が塞がらない所だが、異様な程の貫禄を持ったビオランテは図らずもアンバーの言う通り、やや呆れた口調で呟くに留まった。
僧バラン「・・・なん、と?」
それもその筈、今まさに帰ろうとした僧バランの体をアンバーが抱き締めていたからだ。
Wバランは予測外にも程があるこの光景に完全に硬直。
特に「‐」バランの叫ぶ事すら出来ずただただ目を見開き、口を開けるその様子は冷淡な彼に相応しくない有り様だった。
「‐」バラン『・・・!?』
僧バラン「あ・・・あれ?」
アンバー『法師様。折角わたくし達に会いにこの世界へ来て下さいましたのに、わたくしがご期待に添えられなかったのが原因で楽しい時間を過ごせず、申し訳ありませんでした。』
僧バラン「い、いやぁ、恋愛は自由でなければいかんよ・・・特にお、おなごの恋愛なら、尚更・・・」
アンバー『そう言って下さる法師様は、本当に素晴らしいお方です。わたくしにはこんな事しか出来ませんが・・・今、この時だけはわたくしを貴方の恋人として下さい。』
僧バラン「こ、恋人っ!?そ、そんな浮気男の様な真似は・・・」
アンバー『構いませんよ。今だけは、わたくしは貴方の恋人ですから。これで法師様の心が少しでも満たされるのなら、わたくしは幸せなのです。』
僧バラン「そ・・・そうか。なっ、なら遠慮なくいかせて貰おう、ぞ!同志!悪いがこれも琥珀の君の・・・いや、あ、あ・・・あん、ばーの頼みだからな!」
顔を真っ赤にしながら、僧バランはアンバーの背中に手を回そうとするが・・・その手は押して引いてを繰り返し、中々交差しない。
このむず痒い様子を、ビオランテはジトりとした目で見つめる。
レオゴン『ヨセテハ・・・カエル・・・ナミノヨウ・・・』
ビオランテ『なんじゃ、優柔不断め。アンバーがいいと言っとるんじゃから、早く抱き締めるなり口付けするなりせんか!フェミニストが聞いて呆れるわ!』
――まぁ、女に優しいと言うだけで経験はあまりなさそうじゃがな。
地球の山奥の村にばかり居座っておる以上、仕方ないかもしれんがの。
それにしても、自分の身をかけてまで相手の心を労るとは、アンバーもやりよるわ。
私には及ばんが、少なくともこやつらよりは長い時を生きとるから、かのう。