Give me‐君の心を解き放つ物語‐
「‐」世界、2013年・春。
今日も他世界の怪獣達が「招待」を受け、各地で交流に勤しんでいた。
ゴジラ一族は東京で、モスラ姉妹はインファント島で。
そして・・・ここは岩手県・北上川上流の木々の中に佇む、とある廃村。
かつてここには排他的ながら、村人達にとっての「神」たる「‐」バランを外界の人間達から守っていた「岩屋村」と言う小さな村が存在していた。
無慈悲なまでに回り、変わって行く時代の波に呑まれるように廃れ、今や僅かに人がいた面影を残すのみとなりながら、今なお「‐」バランが「聖地」と呼び大切にしているこの地へ、一人の女性が向かっていた。
???『もうすぐ「聖地」ですね・・・他の世界の怪獣に、そしてバランにお会いするのが楽しみです。』
吹き荒ぶ吹雪を塗り込んだかのような、白と水色の着物。
風になびく、柔らかで長い白髪。
全体的なカラーに相反しながらも、さりげなく存在感をかもし出す朱色のグラデーションが成された爪。
一目見て分かる、着物に隠されない手足の先や首筋から零れ出る白い玉肌。
そして、見つめれば吸い込まれてしまいそうな琥珀の瞳を持った、誰もが溜息を付くであろう麗しく品格のある美顔。
彼女こそ、この日本を守る怪獣「四神」の西方守護「白虎」に位置する、バラノポーダの白い変種体(アルビノ)のアンバー。
アンバーもまた今回「招待」され、現在暮らしている愛媛県・久万高原の岩屋寺から遠路はるばる、ここまでやって来たのだった。
アンバー『もうすぐバランが言っていた、法師のような別世界のバランにお会い出来るのですね・・・別世界にもバランがいて、その輪の中にわたくしが入れる日が来るなんて・・・!なんと喜ばしい事でしょうか!』
――はっ、気分が高揚してわたくしとした事がつい・・・
この喜びは、ご対面の時まで抑えなければ・・・先を急ぎましょう。
常に礼儀正しく、穏やかであるアンバーには珍しい感情の高ぶりに自身が驚き、やや恥じらいを感じながら彼女は木々の中を歩いて行く。
アンバーが今いるのは幾つにも連なる小山の麓の林であり、木漏れ日を頼りに眼前の山へ進んで行けば目的地の「聖地」はもうすぐ、と言う所まで来ていた。
アンバー『ここまで来れば、あとは・・・!』
と、その時。
目の前に現れた「何か」に、アンバーの足は止まった。
彼女の動揺をよそに、それはアンバーを目に捉えると少しずつ、彼女へ近付いて行く。
???『・・・!』
一方、「聖地」には既に「‐」バランと僧バランの姿があった。
もう互いに語れる事は語り尽くし、あとはアンバーの到着を待つのみとなっていたのだが、予定の時間になっても一向に現れないアンバーに困惑していた。
ちなみにこの場にいそうな護国バランがいない理由は、いつもの一人行動による「消息不明」で招待が出来なかったかららしい。
僧バラン「うーむ・・・拙僧の待ち人は来ず、か。」
「‐」バラン『誤解を生む言い回しは止めろ。然し、既に予定の刻は過ぎて要ると言うのに遅いのは事実だな・・・』
僧バラン「そのアンバーと言うおなごバランは、本当に遅刻をした事は無いのか?かなり遠い所から来ているようだが。」
「‐」バラン『事実だ。シュンがニンゲンの手本為らば、アンバーはカイジュウの手本の様な者。遅刻等する筈が無い。』
僧バラン「そうか・・・よし!それなら拙僧が迷っていないか捜しに・・・」
「‐」バラン『然うはさせんぞ。フェミニストか何だかは知らんが、然してアンバーを誑(たぶら)かす目論見だろう。丸分かりだ。』
僧バラン「くっ、流石は同志。勘が鋭いな・・・ははん、それともやはり・・・」
「‐」バラン『な、何だ。其の不敵な笑みは。』
僧バラン「女権拡張論者、つまり何事にも女性(おなご)を第一にするフェミニストの拙僧としては、お主もアンバーに惚れているな?」
「‐」バラン『っ!』
僧バラン「拙僧と会うたび必ずアンバーの話をしたり、彼女をカイジュウの手本と讃えたり、今もこうして拙僧と二人きりになるのを止めた・・・同志よ、お主こそ丸分かりだぞ?」
「‐」バラン『五月蝿い!アンバーは飽く迄同じバラン一族の同志と言うだけ!断じて違う!』
僧バラン「そうして声を荒げるのが、丸分かりだと言うのだ。自称冷淡(クール)キャラよ。なんだ、それを早く言ってくれれば拙僧も協力を・・・」
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