めざせポケモンマスター
「さて、最後にバランだけど・・・地味に難しいんだよな。」
「そうなんですか?」
「いや、だって膜使って飛ぶポケモンって、グライガーとその進化系のグライオンしかいないんだけどよ・・・」
「無いな。」
いつの間にか該当するポケモンのページをチェックし、瞬は即答する。
グライガーとグライオン、どちらも皮膜を持っているのは事実なのだが、デザインはむしろサソリに違いものであり、皮膜以外に特に共通点は無い。
「だ、だから膜は諦めて他の特徴が似てるポケモンも探したんだ。例えばサイドンとか・・・」
「・・・違うな。」
「ニドキングとか・・・」
「違う。」
またしても素早くページを参照し、瞬は志真の候補を淡々と否定する。
ページを参照する事については、もう達人だ。
「そ、そんなに早く答えなくてもよ・・・」
「仕方が無い。似ていないからだ。」
「私は結構似てると思ったのですが・・・」
「似て非なる、と言っていいだろう・・・まず、サイドン。一見すれば似ているが、全然違う。バランはもっとしなやかな体であり、それにタイプや技にも共通点は微かにしか無い。背中も棘では無く、むしろ背鰭だな。ニドキングも同じく。バランに毒性は無い。」
「じゃ、じゃあジュカイン・・・」
「・・・しなやかなだけだ。それ以上の共通点は無い。」
まるで容赦無く、志真の意見を切り捨てる瞬。
彼のバランに対するこだわりもそうだが、どうも若干先程のモルフォンの件を根に持っている節があるようだ。
「しゅ、瞬さん、完璧に似てるポケモンは流石にいませんし、ある程度は妥協した方が・・・」
「・・・あぁ~っ!さっきからなんなんだ、お前はよ!仕方ねぇじゃん、バランみたいな形した生き物の方が珍しいんだからよ!ムササビかモモンガ以外に普通、あんな所に膜なんか付いてねぇよ!バラノポーダがマイナーな奴なんだから、ポケモン作ってる人もいちいち知ってるかよ!」
瞬のあまりに冷淡な言葉と態度に、志真の堪忍袋の尾が遂に切れた。
コーヒーブレイク中の他の客と視線も忘れ、瞬に向かって志真は怒りにも似た叫びを上げる。
「さっきお前も言ってたけどよ、もう体が似てればいいじゃねぇかよ!バンギラス譲るから、それにしとけ!」
「志真、俺に妥協しろと言うのか!」
「ああ、そうだ!例えばバンギラスは山に住んでんぞ!」
「確かにそこは似ているが・・・」
「岩を地面から出す技も覚える!」
「『ストーンエッジ』、か。」
「周りを気にしない、ふてぶてしい性格!」
「お、おい、今それは特に関係・・・」
「ってか、ここまでバランに似てるポケモンはもういねぇよ!出して欲しかったら、もう新作出る前にデザイン送れ!」
「だ、だが、体色やそれ以外の技、あとはやはり皮膜が・・・」
「まだ言うか、お前は!これだけ似てれば、もう満足だろ!」
「・・・しかた、ないな・・・」
まるで仲が悪かった頃の舌戦を思い出させるかの様な、志真と瞬の激しいやり取り。
遥は得意のフォローすら出来ず、ただその様子を見ている事しか出来なかった。
「ふぅむ・・・」
数分もして2人はようやく落ち着き、志真は渇いた喉を潤そうと一気にミルクティーを飲み干し、瞬は攻略本のバンギラスのページをじっと見つめ、バラン=バンギラスと自分の頭に認識させようとしていた。
2人が冷静になった事を察した遥は、すかさず2人に話し掛ける。
「あ、あの、志真さんに瞬さん・・・」
「あっ、ごめんごめん。完全に遥ちゃんの事、置いてけぼりにしてたな。大丈夫、俺の方はもう落ち着いたから。」
「そ、それなら良かったです・・・瞬さんの方は、どうですか?」
「・・・心配無い。今、ようやく58%程度バンギラスがバランに見えた所だ。」
「は、半分行きましたね。瞬さんもひとまず納得して頂いて、安心しました。」
「ってなると、ゴジラはグラードンか。別にこっちも似てるからいいけど。帰ったらこのポケモンでメンバー組んでみようかな。じゃあ、次の問題は技か・・・」
「私も明日、今日の事を友達に話してみますね。 いつも話題を振る側だから、きっと喜んでくれるだろうなぁ・・・」
「・・・俺も多少だが、興味が出て来た。ゲームまで買うかは分からないが、何か他にポケモンについて知れるものは無いか?志真。」
「えっ?そんな事言われても・・・うーんっとな・・・」
瞬の難しい問い掛けに、志真は腕を組んで色々と考える。
膨大な種類があるポケモンのメディアミックスの中から、志真が選んだ物は・・・
「・・・じゃあ、劇場版でも借りてみたらどうだ?」
「劇場版?」
「もうかれこれ10年以上、夏になったらやってるだろ?漫画にアニメは最初から見るのは大変だし、劇場版は単発だから気軽に見れるし。まぁ、出て来るキャラとかポケモンとかが分からないのが嫌なら、予習しろよ。」
「・・・分かった。次の休みに借りてみよう。」
「ポケモンの劇場版って、凄いですよね。去年の夏に例の友達と見に行った事がありますけど、もう画面に釘付けでした!」
「去年のやつは特に面白かったからな・・・遥ちゃんはいい時に観に行ったよ。ちなみに俺、毎年欠かさず観に行ってんだ。パンフも全部持ってるぜ。」
「最初からですか!?それは凄いです!」
「パンフのコンプリートはちょっとした自慢だな。映画観たなら、パンフは買っとかないと。それでさ・・・」
ここから志真の独壇場に変貌した雑談は夕方近くまで続き、遥はひたすら志真の話を聞き、瞬はその間ずっと攻略本を読み続けていた。