めざせポケモンマスター







「ようし、いけっ!モンスターボール!」



東京都・あきる野市に建つ、とあるマンションの一室。
部屋の中ではここの住人である志真がゲーム機のボタンを連打しながら、画面に向かって叫んでいた。
彼がプレイしているゲーム、それは世界各国で発売されている日本を代表するゲームシリーズの一つである、ポケットモンスター。
通称「ポケモン」で通るこのゲームは1996年に発売されて以来、爆発的なヒットを飛ばし、その勢いは今も継続している。
また、世間から見ればポケモンは子供向けのゲームなのだが、作り込まれたバトルシステムと採集要素が大人からも人気を博しており、志真もまたその1人である。



「・・・よっしゃ!ホウオウゲット!ったく、ハイパーボールが無くなるまで粘りやがって・・・でもこういう伝説のポケモンって、案外モンスターボールで捕まえられたりするよな。」



根拠は無いが、ファンなら頷くであろうジンクスを呟き、志真はゲーム中のメニューから「ポケモンずかん」を選ぶ。
「ポケモンずかん」は今まで捕獲・目撃したポケモンが一覧出来る物であり、全てのポケモンを捕獲し図鑑を完成させるのが、このゲームの目的の一つだ。



「え~っと、あと捕まえてないのは・・・」


――・・・あっ、そうだ。
ゴジラをポケモンに例えたら、どいつになるんだろうな・・・?



ふと、頭に浮かんだその疑問に志真は操作も忘れて本気で考え始める。
今や400を軽く超えるポケモンの中からゴジラと外見が似たポケモンを絞り出し、ゴジラと照らし合わせる。



「うぅん、やっぱあいつか・・・それとも・・・んっ、待てよ。それなら・・・」





『もしもし・・・んっ、志真か。何の用だ。』



一旦考察を止めて志真が電話した相手、それは瞬だった。



「今度の日曜、暇?」
『俺のスケジュールに暇など・・・』
「あるだろ?分かってんだよ。お前の所は有事で無い限り日曜は絶対空いてるってな。」
『くっ・・・それを何処で知った。』
「企業秘密。まぁ、さっきの反応だったら確実だな。大事な話があるから、いつもの喫茶店に来てくれ。あと、遥ちゃんも連れて来るから。じゃあな~。」
『お、おい志真!どういう・・・!』



瞬が言い終わる前に、志真は電話を切った。
その顔は、少々不敵な笑みを浮かべている。



「遥ちゃんが来るって言ったら、あいつも来ざるを得ないだろ。さて、次は遥ちゃんにっと・・・」



志真は携帯のアドレス帳から、今度は遥に電話を掛け始めた。









そして迎えた日曜日、いつもの喫茶店のオープンテラスに志真と遥が座っていた。



「志真さん、大事な話ってなんですか?」
「まぁ、それは瞬が来た時に・・・おっ、来た来た。」



と、そこに瞬がやって来た。
志真は瞬に向かって手を振り、それに気付いた瞬は喫茶店の出入り口からオープンテラスに入り、2人のいる机に向かう。



「よぉ、来たか。」
「瞬さん、こんにちは。」
「あぁ・・・しかし、大事な話とは何だ。携帯で話せばいい事では無いのか。」
「それがそうもいかねぇんだよな、今回は。」
「直接会わないと分からない事・・・ですか?」
「そうそう。じゃあ本題だけど・・・瞬、遥ちゃん。ゴジラをポケモンに例えたら何だと思う?」
「えっ・・・」
「ポケ・・・モン?」



予想も出来なかった志真のこの問いに、瞬と遥は驚きの反応しか出来なかった。
特に瞬は半分、志真の言っている事が理解出来ていない様子だ。



「いやぁ、昨日ポケモンやってたらふと思ってさ。それで瞬と遥ちゃんにも聞こうと思って。」
「た、確かにポケモンって今は凄い数ですから、名前だけ言われても分からないですよね。」
「・・・待て、ポケモンはそんなにも多いのか?」
「えっ、初代くらいならやった事あるだろ?その時点で100超えてたじゃんか。」
「それは・・・そうだ、昔歌で聞いた事がある。だが、ゲームボーイなど持っていなかった俺が出来るわけが無い。それにピカチュウと・・・ニャース以外にどんなポケモンがいるんだ?」
「そういや、そうだった・・・ほんとお前、ゲームには疎いんだな・・・」
「あぁ。俺は脳を鍛えるゲームしか・・・」
「わかったわかった。それは大体予想してたから、これ見て今勉強しろ。」



そう言って志真が鞄から取り出したのは、表紙に沢山のポケモンが書かれた百科辞書並みの太さの本だった。



「お、おいこれは・・・」
「ポケモンの攻略本。ちょっと古いけど、これにポケモン全部載ってるから、見とけ。」



瞬の前に攻略本を置き、志真は最新版と思われる違う攻略本を出して今度は遥と話をする。
不本意な顔をしつつも、渋々瞬は攻略本のページを捲り始めた。



――・・・一つのゲームにこんな辞書のような本を出すとは・・・
ポケモンとは、どうなっているんだ?


「そういえば遥ちゃんって、どれだけポケモン知ってる?」
「ポケモンはまだやった事は無いですけど、私の友達にポケモンが大好きな子がいまして、その子からよく話は聞いています。」


――・・・待て。
この本、大半がポケモンのデータしか載っていないでは無いか!
何だ、この数の多さは!


「へぇ~。だったら、やってないけどちょっとくらいは知ってるって事?」
「はい。でも知ってるのは可愛いポケモンばかりですけど・・・」
「まぁ、女の子は基本的に可愛い物好きだしね。なら遥ちゃんは自分の知ってるポケモンの中で、どのポケモンが可愛いと思う?」
「えっと・・・プリン、トゲピー、エネコ・・・あと、ポッチャマです!」


――・・・通信、石、特定の技に場所・・・
進化だけでここまでバリエーションが多いとは、凄いゲームだな・・・
子供のゲームと侮っていたが、それは間違いだったようだ・・・


「まさに可愛いポケモンのメジャーって感じで、よく分かるな~。」
「本当はもっとお気に入りのポケモンはいるのですが、世代別に絞ってみました。」
「その『世代』がはっきり分かるって時点で、やってない人より知ってるって。これなら、遥ちゃんもついていけそうだな・・・おい、瞬。大体読めたか?」
「こんな量をこんな短期間で読破出来ると思っているのか!・・・だが、触り程度なら読んだぞ。」
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好釦