My Life











午後10時前。
何をしていようとも時間は必ず過ぎ去り、彼らの1日も終わりが近付いていた。






「はぁ・・・」



志真はマンションの自室に戻り、ラジオを聞きながら次の記事の原稿を書いていた。
その表情は何故か浮かないもので、どうやら疲れから来ているわけでは無さそうだ。



――結局あの三毛猫、捕まえて調べてみたらメスだったし・・・
今日は時間あったから、久々に深~く掘り下げようと思ってたのに・・・
取材終わったってデスクに言ったら会議に付き合えって言われて観光も出来なかったし、栃木まで行ったのに何か骨折り損だったなぁ・・・



頭の中で不満を言いながら、原稿用紙に記事の構想を書く志真。
まるで先程の不満を原稿にぶつけるように、文字を書くその手は早いが、これもまた不満だけが理由では無いようだ。



「・・・まっ、いいか。次の取材は久々にやりがいのありそうなやつだし。『怪獣取材の専門家』の力、見せてやるぜ!」



と、ここで筆が止まり、志真の表情が綻ぶ。
原稿の右端に書かれたタイトルには、「オゴポゴを求めて」と書いてあった。






瞬は宿舎内の自室にて、観光雑誌を読んでいた。
雑誌に書かれているのは東京近辺の観光スポットで、表紙には東京タワーの夜景の写真が使われている。
無論、これは瞬が買って来たものでは無く、彼の弟子である東からの借り物だ。



「・・・本当に、どこも派手に光っている所ばかりだな。」



彼がこの観光雑誌を読んでいる理由、それは明日の休日を利用し、いつも頑張っている自分の上司を労おうと、瞬の部下達が日帰り観光旅行を企画したからであった。
最初乗る気でなかった瞬も部下達の熱意に押されてこの観光旅行を了承し、こうして観光先のイベントを確認する為に観光雑誌を読む事にしたのだった。



「全く、いきなりこんな事をしようなど・・・俺がこういった事に疎いのは知っているだろうに。」


――・・・まぁ、だからと言って悪い気はしないが、な。






遥は自宅の自室にて、パジャマに着替えてベッドに入り、今日の部活動について考え事をしていた。



――うーん・・・アイデアは通ったけど、問題はどういうものにするか、よね・・・
今日はデザインについて考えただけだし、使う素材とかそれを買う費用の捻出とかもちゃんと考えないと・・・
いいデザインにはいい素材が必要だけど、あまり良すぎても今度は経費が駄目になるし・・・



手芸部副部長であり、同時に良くも悪くも真面目である遥の頭は、様々な考えで一杯だ。
しかしながら、結果としてそれらを上手くまとめるその腕が、部員や後輩からの信頼を生んでいるのも確かである。



――・・・そういえば、1年のあの子からも「妃羽菜先輩は真面目な所が可愛い」って言われたけど・・・真面目なのってそんなにいいのかな?
むしろマイナスなイメージがあると思うんだけど・・・うぅん。






そうしている間に、時刻は午後10時となった。
彼らの1日の終わりであり、違う生活を過ごす彼らの終わりだけは、共通していた。



「あっ、もう10時じゃんか!さっさと寝るか・・・」



「・・・よし、寝よう。」



「とりあえず、この件は明日またみんなと話し合って決めよっか。じゃあ、そろそろ寝よっと・・・」





この何の変哲も無い1日は、彼らが生きて来た途方も無い数の1日の中の、切っ先程度にも満たない。
例え非日常な事がやって来ても、いつか必ずこの日常は戻って来る。
それを繰り返し、重ね、年月を刻み、彼らはこれからも生きて行く。
そして、貴方も。






「「「おやすみなさい。」」」






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好釦