My Life







「ふあぁ~っ・・・」



午前7時前。
目覚ましより少し早い、気の抜けた欠伸から遥の1日は始まった。
目を擦りながらベッドから出た遥は窓を開け、少し眩しい朝日を確認する。
その最中に目覚まし時計がやっと鳴り、急いで遥は目覚ましを止めた。



「うーん・・・私、本当に目覚ましいるのかな?」






それから少し経ち、薄い桃色のパジャマから高校の制服に着替えた遥は階段を降りて台所に向かった。
台所では祖母・佳奈他がもう朝食を作っている。



「おはよう、おばあちゃん。」
「おはよう、遥。もうすぐ朝食が出来るから、ちょっと待ってね。」
「うん、分かった。」



椅子に座り、机に置かれた日東新聞朝刊を読む遥。
志真と会う前から妃羽菜家では日東新聞を取っていたが、志真と会ってから遥が1ページも漏らさずに新聞を読むようになり、特に毎日執筆者が変わるコラム「日東の日光」は番組欄より早く確認している。



「へ~、そうなんだ・・・あっ、明日は志真さんだ!」
「遥も記者さんと会ってから、新聞を読んでくれるようになったねぇ。」
「もう、おばあちゃんったらそんな言い方して。私、前からちゃんと読んでたよ!他の子なんて番組欄以外、滅多に見ないんだから。」
「それもそうだわねぇ。さっ、朝食が出来ましたよ。」
「わぁ、卵焼き!ありがとう~。」



盆に乗ったふわふわの卵焼きを見て、遥はつい歓喜の声を上げる。
他には大根卸しが盛られた鮭の焼き物にきゅうりの漬け物、あとわかめと豆腐が具材の味噌汁に、炊き立てのご飯だ。
佳奈他の手でそれらは丁寧に机の上に置かれ、遥は箸やお茶の用意をする。
こうして準備は全て終わり、向かい合わせに座った2人のこの言葉で朝食の時間がやって来た。



「「いただきます。」」



手を合わせ、2人は朝食を口にした。
どの料理も熱が程良く通っており、口に入れても熱さが食事を邪魔する事は無い。
あっという間に料理が消えて行き、10分も経たぬ内に2人は朝食を完食してしまっていた。



「「ごちそうさま。」」






午前8時前。
朝食を終えた遥はテレビでニュース番組を見ながら佳奈他と雑談し、そろそろ家を出る事にした。
学校用の鞄を手に持ち、赤いシューズを履いて既に遥は玄関に立った状態だ。



「今日は雨の心配も無いから、ゆっくり帰って来ておいで。」
「うん!じゃあ、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい。」



手を軽く振って見送る佳奈他に手を振り返し、遥は家を出て行った。
ここから学校までは徒歩15分程の距離で、朝礼は8時半ちょうど。
十分に間に合う時間である。



「今日はいい天気ね~。体育が明日じゃなくて、今日あったらよかったのに。まっ、今日も頑張ろっと!」



鞄に付いた、「極彩色の守護怪獣」をイメージした赤・青・緑・黄・白の石が光るお手製の飾りを揺らしながら、遥は高校へ向かった。






「きりーつ・・・」
「礼。」



午前8時半。
遥のクラスにて、朝の挨拶が行われていた。



「えー、来週の月曜日に全校朝礼があるので、体育館シューズを忘れないように。あと期末テストも近いので、勉強を忘れないように。連絡は以上。」



担任が教室から出て行き、生徒達は慌ただしく一時間目の準備を始める。
しかし、登校時にもう今日の授業の準備を終わらせていた遥は特に慌てる事も無く、クラスメイトと雑談していた。



「ねぇねぇ、このアクセサリー可愛くない?」
「あっ、それRanRanに載ってた!」
「この高級な感じがいいわよね~。」
「緑色とピンク色って、可愛いな~。」
「遥の付けてるのも可愛いじゃん。どれに載ってたやつ?」
「えっと、これ実は自作なの。」
「自作って自分で作ったの!?すごいじゃない!」
「流石手芸部、腕が違うわね・・・」
「ちょっと時間の出来た時に、ちまちま作ってただけよ。そんなに・・・あっ、先生来た!」






こうして今日の授業が始まり、一時間目は歴史になった。



「はい、今日は『日本の独立後の国内再編』の続きから。では、教科書の228ページの8行目から妃羽菜、読んでくれ。」
「はい。『1954年・3月1日、静岡県焼津港から出航した遠洋マグロ漁船、第五福竜丸が中部太平洋のビキニ環礁にてアメリカの水爆実験に遭遇し、23名の全船員が被爆、内1人が死亡した。』」



遥が教科書を読み始めるのと同時に生徒達も教科書の同じ行を目で追い、教師も手に持ったノートを見て黒板に書く内容を確認する。



「『この事件を受けて、人々の間に原水爆禁止の運動が高まり、東京・杉並区の主婦達のサークルが起こした署名活動は、原水爆反対の全国組織が作られるきっかけとなり・・・』」






それから一時間目が終了し、二時間目の国語、三時間目の数学は難なく終わった。
だが四時間目、ここから遥の苦労の一時間が始まった。



――うーん・・・
『Hg』って、なんの記号だっけ・・・?



そう、遥が唯一苦手とする科学の時間だった。
今は元素記号の範囲を扱っているが、範囲も後半に差し掛かり、一目見ただけでは全く分からない元素記号が続々と登場していた。
現に遥の机に置かれた元素記号のテスト用紙は、成績は優秀な方の遥には珍しく空欄が目立つ。



――Au、Ag、Pt・・・
もう!全然頭に出て来ないよ~!
「スイヘーリーベ」の辺りなら分かるのに・・・あっ、でもこれだけは絶対に間違えちゃ駄目ね。



難解な元素記号後半の問題が並ぶ中、一番最後のある一問だけ、遥は自信を持って答えを書いた。



――「Rn」、ラドン!






「ふ~っ、終わったぁ。」



何とか科学の時間を乗り切り、昼食の時間になった。
遥の周りには女子が机を固めて集まり、弁当を食べながら色々な事を語らっている。
遥の昼食は勿論佳奈他お手製の、小振りな薄い白の二段弁当であり、下は卵ふりかけが掛かったご飯、上は野菜炒めやソーセージ、朝食の残りの卵焼きにデザートのサクランボが入っており、そのどれも見映えを損なわないよう見事に盛り付けられている。



「それでね、あいつったらみんなの前で思いっきりこけちゃったわけ!あのこけっぷり、見せたかったわ~!」
「ほんと、ウケる!」
「そんなに笑ったら駄目よ。話聞く限り、絶対痛そうだし・・・」
「もう遥、ここは笑う所なのよ。あいつだって、笑ってくれたら本望だって言ってたし。」
「えっ、そうなの?」
「やっぱり遥って、良くも悪くも真面目よねぇ。でもそういう所が可愛いぞっ!」
「えっ?あ、ありがとう・・・」





昼食後の昼休みを挟んで5・6時間目の選択科目が始まり、別の教室に移動した遥は特に苦労する事無く授業を終えた。
そして教室の掃除を終わらせ、いよいよ下校時間となった。



――今回の手芸部、私がアイデア係よね。
どんな案を出そっかなぁ・・・でも妖精系の案は1ヶ月前のあみぐるみでやってるし・・・あっ!「双子のふたばコースター」なんていいかも?
うん!これで決定!



こうして、遥の学生生活は部活動へと移って行った。
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好釦