もしも・・・
「ば、馬鹿なっ!!」
何かの衝撃にそう叫び声を上げて後ろへ倒れ込む、謎の影。
影の前には3つの閃光が目も開けられない強さで光輝いており、その中には閃光の源である「結晶」を手に持った、志真・瞬・遥の姿があった。
「このわたくしの幻影から、まさか抜け出すとは・・・!」
「残念だったな!俺達はこの位で言いなりになる程甘くないんだよ!」
「あんなまやかしで俺達の精神を操ろうなど、愚の骨頂だな!」
「たとえ何があっても、この『結晶』は私達を導いてくれるんです!」
「結晶」が照らし出す謎の影の実体、それは全身銀色をした人の形の生物だった。
しかし鏡面体を思わせる全身の鱗と蛇に似た頭部は、この地球上では確認されていない生物である事を一目で示していた。
「くうっ・・・『神の器』を持っているからと言って、調子に乗りよって・・・だが、覚えておくのだ。わたくしが見せた幻は可能性の有る世界である事に。鏡の奥にある世界は、この世界の裏の世界。世界は一つでは無い、お前達の世界と違う世界は、確かに存在しているのだ・・・!」
そう言い残し、影は足元の水溜まりの中に消えて行った。
3人は急いで後を追おうとしたが、影を見つける事は出来なかった。
「くそっ、どっか行ったか・・・」
「付近に姿も見えませんし・・・本当にこの水溜まりの中に消えたのでしょうか・・・?」
「・・・鏡の奥の世界、この世界の裏にある世界・・・可能性のある世界か・・・」
「瞬、どうした?」
「いや、先程俺達が出くわした事の考察だ・・・お前達は、パラレルワールドと言う言葉を知っているか?」
「えっと、確か『もしもこんな事が起こったら?』と言った可能性として考えられる世界の事ですよね?」
「簡潔に言えばそうだ。もしも先程の生物がそのパラレルワールド、言うなれば『鏡の奥の世界』からでも来た存在ならば、奴が水溜まりに消えた事も、あの幻が可能性のある世界と言う事実にも若干の納得がいく。」
「水溜まりって鏡みたいだからな。鏡の中から来た人間・・・ミラーマンって感じか?」
「可能性としてあり得る世界・・・幻の中の私はおばあちゃんに酷い事を言ってましたけど、それもあるかもしれないって事ですよね・・・」
「俺だってそうだ。俺はあの幻で親父と一緒に暮らしてた。俺、実は親父とつい最近まで仲悪くて・・・仲が悪かった時は後悔なんてして無かったのに、いざそれが解決したら後悔ばかりで・・・そういうのも幻に出たのかなぁ。けど、その他の事はまるで絶望ばっかりだった気がする。」
「『もしも』の世界だからな・・・俺の幻は両親が生きていると言うものだった。両親は研究中の事故で亡くなっているが、俺の両親に生きていて欲しいと言う思い・・・それが出たのだろう。俺も志真と同じく、それ以外にいい事は無かったがな。」
「志真さんにも瞬さんにも、そんな過去が・・・そういえば、幻の中の私はこのペンダントをしていませんでした。小美人さんやモスラと会っていない、あの事故に遭っていない私が、あの世界の私なのだと思います。」
「・・・そう言う事か。志真、幻の中のお前は『結晶』を持っていたか?」
「いや・・・確か持って無かった。」
「俺も『結晶』を持っていなかった。3人に共通したこの事から察するに、あの幻の世界は俺達が怪獣達と出会っていない世界なのだろう。俺の場合はバランと・・・」
「私はモスラと・・・」
「俺はゴジラと会わなかったら、って事か・・・うーん、やっぱ俺は何度考えても今の世界の方がいいや。」
「確かに叶って欲しい、取り戻したい事はいくらでもありますけど・・・」
「それが現実。その事は決して変わる事の無い、受け入れなければならない事もある。」
「目を逸らしたらいけないんだ、悪い事なんて誰にでもある。だからこそ、良い事もまた訪れるんだ・・・」
同じ宿命を持ち、必然の元で巡り合った3人。
運命の悪戯などでは無い、出会うべくして出会った3人が歩んだのは怪獣と言う存在がいる世界。
しかし、もしも違った道を歩んでいたなら・・・今回の物語は幻で片付けられない、有り得なくも無い話なのだ・・・
「それにしてもさっきの奴、日本語を使ってまで俺達の所に来るなんて、一体何が目的だったんだ・・・?」
完
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