もしも・・・







日も暮れようとしていた頃、ようやく志真は自分の家に帰って来た。
自転車を置き、降りてゆっくりと玄関へ向かって戸に手を掛ける。
そこまではここ何年の間全く変わらない行動だったが、その前に志真はとある事を呟いた。



「・・・今の俺、本当に人生してるって言えるのかな・・・」



志真が呟いた一言、それはここに戻って来てから全く思う事の無かった、今こうして毎日を無駄に浪費し続けている、自分への疑問だった。
それが当然の事実・・・日常になっていた以上、全てに妥協している志真が今まで思う事が無かったのも有り得なくは無い話ではあるが、今日は違った。
この問い掛けは偶然なのか、それとも必然だったのかは分からない。
しかしながら今日、志真がそう思ったのは確かな事だった。



「・・・まぁ、いいや。」



妥協の言葉で問いの答えを埋め、志真は戸を開けて家に入る。
望まない日常、こんな筈で無かったこの日常が、志真の・・・志真達の今の日常なのだ。
それはもはや運命に決定付けられた、抗う事の叶わないものなのかもしれない・・・










「・・・違う?」



と、ここで終わる筈であった物語は、志真のこの一言によって変えられた。



「「違う・・・?」」



同じく家の前に立つ瞬、旅館を目の前にした遥も同じ言葉を口にした。
その時の3人は、まるで「今いる自分で無い者」がそう言ったかのような様子であり、意図しない言葉だったのが窺える。



――な、何だ?今の言葉は・・・


「違う・・・俺が生きた世界は、こんな世界じゃない!」





――・・・俺は今、何を言っていたんだ・・・?



「ふざけるな・・・絵空事もいい加減にしろ!」





――えっ?私、今なんて・・・



「おばあちゃんに、あんな酷い言葉を言うなんて・・・ごめんね、おばあちゃん・・・」





――違う?違う・・・?・・・違う・・・!






「・・・ちがう!!」
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好釦