証明写真







2009年・10月。
絶対悪魔・ガダンゾーアとの戦いが終わり、日本はめざましい復興を遂げていた。
一連の戦闘の被害を受けた東京・静岡はある程度再建し、それに伴う日本に対する信頼回復は4年前に起こった連続原発事故の被害地の一つである島根に新しい発電施設の建設を予定する形で実を結んだ。
また、最初の被害地である弥彦村では中心地の瓦礫が自衛隊の尽力によって殆ど取り除かれ、破壊された店や家屋も建て直しの目処が立ち始めた。
村には再び活気が戻り、弥彦村はその息を吹き返しつつあった。





「兄貴、どうしたんっすか?」



そんな中、事件後暫くして無事復校した弥彦村立弥彦中学校の屋上に、健の姿があった。
今はちょうど昼休みで、いつもなら見回りがてら、学校中を回っている筈の健がいつまで経っても迎えに来ない事を怪しんだ翼は健がよく行っていた屋上に行き、案の定健を発見したのだった。
健は屋上に座り込んで右手に持った何かを見つめており、翼ですら見た事が無い程に穏やかな表情をしている。



「おっ、翼か。呼びに行ってねぇのに俺がここにいるって、よく分かったな。」
「兄貴は何も無い日はいつもここに来てるっすから。今日は見回りしないんすか?」
「う~ん、なんか今日はそういう気分じゃねぇんだよな。こう、喧嘩するよりゆっくり空を見ていてぇ感じ。」
「今日の兄貴、珍しいっすねぇ・・・あれ、それはなんっすか?」



翼がふと指差したのは、何かを持っている健の右手だった。
健はそれを一瞬手の中に仕舞おうとするが、すぐに諦めると渋々手を開き、翼に見せる。
健が持っていたのは自分と将治・みどり・シエルが写ったプリクラであり、これはシエルが未来へ帰る1時間前に撮られた物だった。



「これって、あの時のプリクラじゃないっすか。これを見てたんすか?」
「ああ。ずっとこれ持ってんの、あんましバレたくなかったんだけどなぁ・・・」
「うーん、いつ見ても羨ましいっす・・・おれっちも行きたかったっすよ。」
「仕方ねぇだろ?母さんや美歌も連れてってねぇんだぞ?これだけは麻生にみどり、シエルと行きたかったんだよ。」
「そうっすよね。麻生さんに姐さんはまだ日本にいるっすけど、シエルちゃんは未来へ帰ってるっすから・・・」
「まぁ、プリクラくらいならまた麻生が来た時に東京を案内させるからよ、そんときまで勘弁してくれ。」
「分かったっす。来年になったら兄貴もここを卒業しちゃうっすから、それまでにおれっちも兄貴と形に残る思い出を作りたいっすよ。」
「・・・そっか、来年は卒業かぁ・・・」
「兄貴は来年からどうするんっすか?」
「それが・・・まだわかんねぇや。」



ふと健は翼にプリクラを渡すと、今度は上を向いて空を見つめ始めた。
先程までの穏やかな表情とは一転し、鋭い眼差しで空を見上げるその様子は、健がいかに翼の問いに悩み続けていたかが窺える。



「しかし、シエルちゃんって本当に可愛いっすよね~。ちょっとしか話せなかったっすけど、それだけでも何だか幸せだったっす・・・」
「・・・」
「麻生さんも兄貴と同い年と思えないくらいかっこ良かったっすし、みどりの姐さんもいつ見ても素敵で・・・あ、兄貴?」
「・・・へっ?す、すまねぇな。確かにシエルはすげぇ可愛いよな。」
「そっ、そうっすよね・・・」



慌てて間に合わせの回答をしつつ、再び未来への考え事を始める健。
またしても黙り込んだ健に翼は声を掛けようとするも、健の真剣な様子にそれを止め、目線をプリクラに戻した。



――俺の進路、か・・・
麻生にみどり、今どうしてんだろうな・・・
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好釦