黒(ブラック)の予感











6日後、日本に帰国した志真と遥は瞬の退院祝いをする為、自衛隊本部の宿舎前にいた。
この間に月面にてキングギドラはゴジラに倒され、ゴジラとチャイルドはNASAの発射した回収用ロケット「W‐GⅦ」で無事地球に帰還した。
それから2人はイースとウェイスの計らいで日本の羽田空港まで送って貰い、そこから宿舎へ向かったのだった。



「そういえば遥ちゃん、当たり前みたいに来てるけど・・・学校は大丈夫なのか?」
「学校には旅行に出掛けていると言っています。それに期末テストは来月からなので、友人にノートを見せて貰えば大丈夫ですよ。」
「そうか・・・」
「えっと、志真さんで言う『有休』みたいな感じですよ。私、学校は去年の10月の時しか休んでいませんし。」
「アンギラス事件の時か・・・しかし有休なんて、俺にとったら2年くらい遠い話だなぁ・・・」
「どうしました?」
「い・・・いや、こっちの話。」



軽く雑談を交わしながら、宿舎から瞬が出てくるのを2人は待つ。
自衛隊関係者の宿舎である都合、部外者は宿舎の中に入る事は出来ないからだ。



「しかし、あいつも中々遅いな。」
「確か、ギドラ一族と戦って怪我したのでしたね・・・本当に大丈夫なのでしょうか・・・」
「俺達がゴジラを待ってた時に退院したらしいけど、それでも3、4日しか入院してなかった事になるし・・・あいつってほんと、人間か?」
「一応、人間だ。」



志真の何気ない問いに答えた声、それは腕を組みながら志真を見つめる瞬本人だった。



「瞬さん!」
「しゅ、瞬!?」
「なんだ、病み上がりを呼び出した本人が一体何を驚いている。」
「いっ、いきなり背部から気配消して来んなよ!びっくりするだろ!」
「ふっ、気を抜いていた証拠だな。」
「あの・・・瞬さん。体は大丈夫ですか?」
「軽い全身打撲で済んだから、特に心配は無い。打撲程度ならもう慣れている。」
「そうですか・・・大事に至らなくて、よかったです。」
「・・・気遣いの言葉、感謝する。」






しばらくして3人は近くにある喫茶店に移動し、近況を報告し合っていた。
無論、話題は2週間前に地球へ襲来したギドラ一族に関する事だった。



「えっと、モスラは確か一族の『女王』と闘ったんだよな。」
「はい。何度か頭に映像が入って来ましたが、まさに女王の名にふさわしい貫禄ある姿でした。」
「貫禄か・・・俺とバランが戦った『帝王』は、まるで抑え付けられる様な威圧感を感じた。皮肉だが、俺が撃墜される事によってバランが怒りを抱かなければ勝てなかったかもしれない・・・」
「俺はゴジラから聞いただけだけど、『王』は力も賢さも兼ね備えてる奴みたいだ。ゴジラは奴が仲間より先に地球へ来た時に遭遇したらしいし、そうじゃないとゴジラの弱点とも言えるチャイルドをわざわざ拉致しようなんて考えないよな。」
「戦力低下の為か・・・だが、そのチャイルドがゴジラの抑えられた力を解放する鍵である事には流石に気付けなかった様だがな。」
「そうですね・・・あっ、すみません。ちょっとお手洗いに行って来ますね。」



そう言って遥は席を立ち、店の奥に消えた。
それと同時に志真はまるで遥が遠くへ行った事を確認するかの様な動作を見せ、直ぐ様顔を瞬の方向に戻す。



「・・・よし、遥ちゃんは行ったな。」
「どうしたんだ?妃羽菜に知られたくない事でもあるのか?」
「それがそうなんだよ。これから話す事は、遥ちゃんに内緒にしといてくれよ。」



志真は両膝を机に立てて前屈みの体勢になり、声を細め瞬に話を続ける。



「実はな・・・日本に帰って来る前からなんか、遥ちゃんの様子がおかしいんだ。」
「妃羽菜の様子が?」
「ああ。俺がNASAにいる時の話だけど、暇になって向こうの新聞を読んでたら遥ちゃんが話し掛けて来て、今読んでる記事には何が書かれるか聞かれたんだ。それでアメリカ大手政党の自主党が裏金を使って秘書に多額のボーナスを支払ってた事が書いてあるって言ったら、いきなりこう言い出してさ・・・」



『・・・えっと、ほっ、ほんと国民の事を考えていませんよね!本来なら世の中の為に使うお金を私利私欲の為に使うなんて、さ・・・最低です!わ、私だったら頭を丸めさせて、反省の記者会見を開かせますよ!・・・はい。』



「・・・その言葉、本当に妃羽菜が言ったのか?」
「嘘みたいな、けど本当の事なんだよ。これ以外にも帰りの飛行機に乗ってた時にいきなり・・・」



『しっ、志真さん。先程イースさんから聞いたのですが・・・昨日あの「はづきとじゅんの家」に放火した犯人が捕まったそうで、その理由が「ストレス解消の為」らしく・・・も、もう、呆れて物も言えませんよ!そんな事をや・・・するくらいなら、少しは世の為人の為に努力をして・・・しろって話ですよ・・・ね?』



「・・・それも、妃羽菜の台詞なのか?」
「じゃあ逆に、俺がわざわざ遥ちゃんのイメージをダウンさせる嘘を言うと思うか?」
「・・・無いな。」
「だろ?あの遥ちゃんが突然こんな事を言い出すなんて、絶対何かあったよな・・・」
「これに関しては本人に聞くしか無いが、やはり・・・」
「聞きずらいよな・・・だからとりあえず、今は別の話にするか。じゃあ、お前的に遥ちゃんって女性として見てどう思う?」
「い、いきなり何を言い出すかと思えば・・・!俺が妃羽菜をどう思うかなど、お前には関係無いだろう!」
「まぁ、互いに恋愛感情は無いと思うけど、こう・・・遥ちゃんを見てて思う事くらいあるだろ?ああいう娘を最近見なくなったなぁ、とか。」
「・・・確かに妃羽菜は品がある上に気遣いも出来る娘だ。それに・・・だから、放っておけない所があるのは事実だ。」
「そうそう、お前は非常に正しい。昨今の女性が強い分、遥ちゃんみたいな女性は・・・」
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好釦