黒(ブラック)の予感











それから3日、ギドラ一族の襲来に見舞われつつもゴジラの乗った反重力カプセル「H‐GⅣ」を宇宙へ発射し、志真と遥はケネディ宇宙センターでゴジラがキングギドラを倒すのを待っていた。
外は既にギドラ一族との戦闘が終わり、その骸が至る所に広がっている。



「ゴジラ・・・大丈夫でしょうか・・・」
「・・・俺は信じる。あいつは今まで、どんな敵にも勝って来たタフな奴だ。例え相手が宇宙怪獣の王でも、きっとあいつは負けない。それに月にはチャイルドだっているしな。」
「・・・そうですね。今は無事を祈りましょう。」
『おぉ~いっ!!』



と、そこにやって来たのは先程までギドラ一族と闘っていた、イースとウェイスだった。
無論、大声を上げたのはウェイスである。



「イースさん!ウェイスさん!よくご無事で!」
『いえいえ・・・我々は星条旗を守る軍人、絶対に負けるわけにはいきませんよ。』
「ゴジラを守って下さって、ありがとうございます。」
『気にすんな、シマ。あんなわけのわからねぇ奴らに、邪魔なんかさせるかよ。』
「お2人共戦って来た後ですのに・・・平気そうで凄いです!」
『まぁ、久々に刺激のある闘いが出来たと言った感じですね。』
『ところでオレ、ハルカにずっと聞きたかった事があるんだけどよ・・・』
「わ、私にですか?」



気楽な態度を一変させ、遥を見つめるウェイス。
これまで見せた事の無い彼の表情に、遥も緊張を隠せずにいた。



『そう、ハルカの・・・3サイズってどんだけなんだ?』
『・・・ファック!真顔でそんなくだらない事を聞くなぁ!』



ウェイスの呆れた質問にイースはついウェイスの胸ぐらを掴み、右手を振り上げ今にも殴り掛からんとする。



『じ、冗談に決まってんだろ!危機一髪の死闘の後でまさに「ヤマトナデシコ」なハルカに癒されようと・・・』
『何かを治して欲しいのなら、俺が今すぐ貴様の腐った性根を修正してやる!歯を喰いしばれ!』
「ふ、2人共こんな所で喧嘩しないで下さい!」
「そっ、そうですよ!私もウェイスさんの冗談が不快だなんて思っていませんし・・・」



すかさず志真と遥が2人の制止に入り、イースはウェイスの胸ぐらを掴んだ手を放す。
とりあえずは殴り合いの喧嘩にならずに済み、2人は胸を撫で下ろした。



『ふ、ふう・・・助かったぜぇ・・・』
「戦いの後で感情が高ぶっているのも分かりますが・・・極力穏便に。」
「殴り合いなんて、やっぱり良くありませんし・・・」
『了解しました。ですがまたあいつが失礼な事を言ったら、今度こそ修正しますので。』
「は、はい・・・」





ひとまずイースとウェイスと別れた2人はセンターを出て、ホテルの前に来ていた。



「そういえば志真さん、さっきイースさんが言っていた『修正』って何なんでしょうか?」
「えっとな・・・確か『殴ったね?親父にもぶたれた事無いのに!』って事だったと思うけど。」
「えっと、それって確か・・・」



遥が言い終わる前に、突然遥のペンダントが白く光った。
勿論、これは外で待機しているモスラが交信して来ている事に他ならない。



「あの、モスラが私を呼んでいるみたいです。」
「そっか。じゃあ、俺は先に中入っとくな。」
「すみません。では、行って来ますね。」



一旦志真と別れ、遥はモスラの待つホテル付近の荒野に向かった。
荒野にはモスラだけが佇んでおり、先程まで共に戦っていたバランの姿は無い。



「モスラ、来たわよ。」


――遥、よく来て下さいましたわ・・・


「・・・私を呼び出したのって、もしかして暇になったから?」


――それもありますわ。バランったら『用事は済んだ』と言ってすぐに日本へお帰りになりまして・・・本当につまらないお方ですわ。


「バランが交流を始めたのは最近だから、人付き合いはちょっと苦手なのかも。それで、他に何か用事?」


――ええ。さっき退屈でしたので外から遥の様子を伺っていたのですけど・・・何ですか、あの恥知らずな男は!羞恥心の欠片も無いではありませんか!


「・・・ウェイスさんの事?あれは冗談よ?」


――冗談でも限度と言う物がありますわ!女性に対して失礼にも程があるのでは無くて!遥も、そう思いませんの?


「別に嬉しいまでは思わないけど・・・だけど、凄く嫌とも思わなかったよ?」


――そういう所がいけないのです!いつまでも男に流されるだけの女では駄目ですのよ!


「じゃ・・・じゃあ私はどうすればいいの!いきなりモスラみたいに自己主張するなんて無理よ!」



前々から気になっていた事を言われ、遥は珍しく大声でモスラに対して反論した。
モスラもこれには意表を突かれたのか、驚いた様子で話を続ける。



――そっ・・・その調子でいいのですわ。自分が思った事をどんどんおっしゃれば、よろしいのです。


「そう・・・なの?」


――例えば・・・そう、『回覧板』で色々な情報を聞いた時、腹が立つ時もありますわね?その時の気持ちを声に出せばいいのですわ。


「か、回覧板?」


――と、とにかく!意識しているからいけないのです。意識せずに、心の底からの感情に任せるのですわ!


「心の底からの、感情・・・」


――それがきっと・・・えっ、今からですの?


「今から?どうしたの?」


――小美人がわたくしの事を呼んでいますの。急ぎの用事のようですけど・・・申し訳ありません、言い出しっぺながらお先に失礼しますわ。


「そう・・・分かった。行ってらっしゃい。」



小美人に呼ばれ、モスラは急いで飛び立ちながら擬態を行い、荒野を去って行った。
残された遥はやはり、自分の今までの言動を振り返っていた。



――心の底の・・・感情のままに・・・
私はやっぱり、もっと積極的になった方がいいのかな・・・?
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好釦