黒(ブラック)の予感
これは2011年、月に姿を消したキングギドラを倒す為、ゴジラをNASAへ向かわせていた時の話である。
「ふあぁ~っ、暇だなぁ・・・」
太平洋を渡るゴジラの右手に寝そべりながら、志真はそう呟いた。
「そうですけど、またいつギドラ一族が襲って来るか分かりません。油断は大敵ですよ。」
同じく太平洋を渡るモスラの頭に乗った遥が、志真をいさめる。
「まっ、それもそうだけど・・・あっ、そういや最初に会った時から思ってたんだけど、遥ちゃんって本当に女性らしいよなぁ。」
「えっ、私がですか?別にそんなつもりは無いのですが・・・」
「何と言うか、一言で例えれば『清純』って感じかな。ほら、最近の女性は『たくましい』って感じだろ?男なんて情けない、今は女の時代・・・って思ってる人が多いみたいだし。別にそれが悪いとは言わないけど、そんな女性達が増えた中で遥ちゃんみたいな女性って見ないなぁ・・・と思ってさ。」
「そう・・・なんでしょうか・・・?私はただ、いつも相手の方の気持ちを考えるようにしているだけなんですが・・・」
「いやいや、そういう控えめで相手を立てる所がいいんだよ。強い女性に囲まれた今の男は、地味に遥ちゃんみたいな女性が好みだったりするし。」
「えっ、そ、そんな事は・・・」
志真の男性論に慌てる遥だったが、そんな遥のペンダントが突如光った。
光の色は白く、これはモスラが交信して来ている証だ。
「あっ、すみません。モスラが私に話し掛けて来ています・・・」
「おう、分かった。」
モスラによって話を中断された志真は背中のリュックサックを開き、持参して来たお握りを食べながら遥とモスラを見る。
リュックの中にはまだ数十個のお握りがあり、鍵島へ行く前に志真は遥の分も加えて長期の移動を想定した買い込みをしていたのだ。
「うーん・・・やっぱり、シャケ入りの握り飯が一番美味いよなぁ・・・」
しかしながら、怪獣の言葉を聞く術の無い志真にとっては遥とモスラの会話を予想する事すら出来ないでいた。
「・・・遥ちゃんとモスラって、いつもどんな話してんだろ・・・」
「どうしたの、モスラ?」
一方、遥はペンダントを介してモスラの声を聞いていた。
「結晶」の力で直接声が頭に聞こえて来るので、感覚的には最近になって補聴器等に導入され始めた「骨伝導」式と変わらない、とは遥談である。
――遥、あんな事を言われていて宜しいですの?志真の話を聞く限り、今の男は自分にとって都合のいい女が好みと言う事ですわ。
「そういう事じゃないと思うわ。女性が強い今の社会で、私みたいな女性をあまり見ないって言っただけよ。」
――それでもわたくしは納得いきませんわ。今の男が情けないのが事実だから、女が強くなったのではなくて?それを忘れて、自分に合わせる女の方がいいだなんて・・・猛省物ですわ!
「・・・多分、志真さんはそういう事を言いたかったわけじゃ無いと思うけど・・・」
――とにかく、やっぱり遥はもっと自分を主張するべきですわ!遥だって声に出して叫びたくなるくらいに腹の立つ事が一つや二つ、あるのではなくて?
「べ、別に私は・・・」
――そういう所が、男に舐められるのです!
いい事、遥。これからは不平不満をちゃんと口に出す様に心がけなさい!このままでは貴方、ただ男の言いなりになる人生ですわよ!
「う・・・うん。分かったわ・・・」
少々戸惑い気味ながらも遥はモスラの叱咤に頷き、水平線を見ながら自分の言動を見つめ直す。
この事は前々からモスラに言われていたからなのか、その様子はとても真剣であり、丁度昼食を終えた志真も遥に何を話していたのかと聞けずにいた。
――・・・なんだろう、これは話し掛けない方がいい感じ・・・だよな?
また、一応モスラの言葉を聞いていたゴジラはどういう事なのかとモスラに聞く素振りを見せるが、モスラは男には関係の無い話題だと言わんばかりに、ゴジラの質問に答える事はなかった。
――・・・私って、やっぱり自己主張が足りないのかな?
今の世の中、もっときっぱり物が言える女の人にならないといけないのかな・・・?