シエルと睦海




「……それが、"私"と健の物語。このままじゃ、私は健おじちゃんをお父さんとは言えない。」

病院の庭園で、"私"はシエルとして過ごした健との旅の日々について話し終えた。それは、出会いから、過去へと旅立った別れまで、全てだ。
聞いてるのは、亜弥香に健、そして彼の奥さんだ。

「やっと、話してくれたわね。………健、睦海ちゃん。私のお墓参りしてくれて、ありがとう。折り鶴の想い、ちゃんと私に届いたわ。」
「泣くなよ。……話してくれてありがとう。シエルの、睦海の辛い過去、わかってるようで、わかっていなかった……。」

夫妻は涙を浮かべて"私"に言った。

「辛い過去じゃないよ。……"私"には健おじちゃんがいたから。」
「睦海、伝えたいのはそれだけじゃないでしょ?」

亜弥香が優しく"私"に聞いた。
"私"は静かに頷く。顔が自然と紅潮する。

「健おじちゃん、"私"……ずっと好きだった。旅の相棒とか、保護者とか、恩人とかじゃなくて……一人の男の人として、好きでした!」

紅潮した顔を上げると、健と目があった。
彼は目を逸らす事なく、首をゆっくりと横に振った。
その瞬間、"私"の中で何かが切れた。大きな、とても大きな空洞が心の中に空いたような喪失感が続いて"私"を襲う。
しかし、不思議と後悔はなく、秋晴れの様な清々しい気持ちすらあった。
"私"は、初めて失恋をした。
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好釦