シエルと睦海




数週間が経った。

「もうすぐ退院ね。」

"私"の車椅子を押しながら、亜弥香は言った。院内の観葉植物に囲まれた庭園は、悪魔がいない平和な世界である事を"私"に伝える。

「貴女は帰らないの?」
「睦海がこの時代に適応するまでが私の任務なのよ。貴女がこの世界を貴女の世界と思えれば、歴史の歩みはこのまま続くわ。」
「……まだ生まれたての歴史だから、繊細なのね?」
「そういう事。でも、大丈夫。時が緩やかに進もうとする力も、睦海の心も、とても強い。」
「知ったような事を言って……。」
「違うの?」
「教えて。私はどうなるの?」

"私"は亜弥香を見上げて聞く。亜弥香自身、"私"が有無を言わさぬ程の美少女であるとは予想していなかった。少し照れながら、亜弥香は"私"に顔を近付けて囁いた。

「それは貴女が決める事よ。」
「睦海!」

健が"私"達に向かって歩いてきた。今日は制服を着ている。

「その服は?」
「あぁ、今の睦海は見るのが初めてだったな。Gフォースのゴジラ観察員をしているんだ。先任は、三枝さんと翼のお袋さんだ。」
「青木梓さん?」
「あぁ。そして、今は俺がゴジラを見守ってる。」
「そうなんだ……。」

"私"は空を見上げた。
かつてゴジラと同意語として扱われたガダンゾーアと最期まで戦い続けた健。その彼は今、ゴジラをゴジラと呼び、その友人を見守っている。

「よかったね。えっと………。」
「健おじちゃんままでいいよ。」

健は優しく言った。
年齢は変わらないはずなのに、"私"にはこちらの健の方が老けて見えた。
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好釦