シエルと睦海




目が覚めた時、"私"は病院にいた。
それはまるであの時の様に。
その感覚を表現するのならば、やはり違和感だ。

「気がついたわ。亜弥香ちゃん、健を呼んできて。」

まだ完全に視界が元に戻っておらず、視界一面が白いモヤの様なもので覆われている。その先で、聞き覚えのある声が聞こえる。

「睦海!…気がついたか?」

今度の声の主はすぐにわかった。"私"が待ち焦がれていた大人になった健の声だ。
記憶がはっきりしてきた。激戦を切り抜け、悪魔を倒した"私"達は未来に帰ってきたのだ。
しかし、タイムスリップした瞬間からの記憶がない。

「シエル、まずあなたに説明しておく必要があるわ。」

"私"よりも遥か先の未来から来た女性、遠野亜弥香がやさしく語りかける。

「歴史を元に戻した結果、2009年に行った貴女はアンドロイドの事実からそれたのよ。ただし、過去に大きく干渉した貴女は無関係というわけにはいかない。停滞せずに進歩した技術によって、あなたは一度肉体からM-6の素体に意識をデータとして移植させたの。そして、過去に行き、デルスティアを操縦できるようになった。」


過程や時間が変わろうと事象の結果が同じなら歴史は変わらない、という事なのだろう。脳裏に健の最期の言葉が浮かぶ。

「つまり今、シエルは睦海に戻った直後って事よ。気分は?」
「……私にとっては、十数年振りの生身なのよ?違和感大あり。」

そして、"私"はぎこちなく、亜弥香に笑うと、慣れない体の為かすぐに眠りについた。
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好釦