シエルと睦海




目を覚ました時、"私"は病院の一室にいた。
悪魔に破壊され、殆どの病院が野戦病棟となっている状態の中、そこは異常なまでに綺麗であった。
だが、それ以上に"私"は疑問を宙に投げかけた。

「私は生きてる……?」
「あぁ、生きている。」

"私"の側に座っている男が言った。

「貴方は?」
「俺は桐城健。君に命を助けられた男だ。」

健は瓦礫の頂にいた、悪魔に戦いを挑んだ青年であった。
青年と感じるが、室内で改めてみると、外見以上に歳をとっている事がわかる。

「良かった、生きてて……。私、助かったんだ。」
「いや、体は助けられなかった。最新型のアンドロイドに移植されて、今生きている。……脳移植みたいなものらしい。」
「じゃぁ、私は……一度死んだんだ。」
「そうとも言えるかな。鏡、見るか?」
「いい。後で自分で見る。………睦海よ。」
「え?」
「名乗ってなかったでしょ?私の名前は、睦海。」
「……そうか、よろしくな。」

健は切なそうな顔で、"私"に言った。

「どうしたの?」
「いや、似合わないなと思ってな。今の外見に。」
「……つまり日本人顔じゃないんだ。」
「綺麗な白人の少女だ、15、6歳に見える。」
「それじゃ似合わないね。……健さん。新しい名前、つけて。」
「いいのか?」
「私は一度死んだ。私にとっても貴方は恩人だわ。……だから、新しく名乗る名前が欲しい。」
「………シエル・シス。君の素体となった最新鋭アンドロイドボディの型式名M-6とここの施設を管理するCIEL社をあわせた。シスは6の意味がある。睦海の睦も6の意味がある。どうだ?」
「シエル・シス。……いいわ、気に入った。」

"私"は頷いた。新しい名前が決まった瞬間、"私"は気がついた。

「これから、どうしよう……。帰る場所がなくなっちゃった。」
「………君さえ良ければ、一緒に行くか?」
「え……?」
「理由は2つある。……君の今の体は図らずも現在奴を倒す可能性がある最後の希望となりうる力が秘められている。そんな身に君を立たせた俺の責任を果たしたいという事、他の者に君を託す事への不安が一つだ。」
「……続けて。二つ目は?」
「……このまま命を救われた恩を返せないのは辛い。失った者は返らないが、失わない様に共に生きる事はできる。」
「……いいの?」

"私"が聞くと、健は静かに頷いた。

「俺も大切な人を失った。」
4/13ページ
好釦