シエルと睦海




気がついた時、"私"は防衛軍の医療テントにいた。
目覚めは、誰かの怒声であった。

「落ち着いて下さい!」
「うるせぇ!アイツをこんなところに遺せるか!……連れていく!」

その直後、轟音が轟き、やがて遠ざかって行った。
看護士の女性が"私"のところにやってきた。

「目が覚めちゃった?」
「うん。……それより、お姉さんは?みんなは?」
「………みんな亡くなってしまったわ。彼女も、あなたのいた孤児院の人達も……。」
「え………。」
「悪魔の下敷きになって……。あなたをかばったあの方は救助した時には既に亡くなられてた。」
「そぅ……。」

その瞬間、"私"の胸の中で何かが燃え上がった。



翌日、天気は生憎雲が一面に張られ薄暗くなっていたが、"私"はテントから出て孤児院の跡にいた。
手近にはタンポポ程度の花しかなかったが、"私"はそれをかつて我が家であった瓦礫の山に手向けた。

「絶対、アイツを………。」

"私"は絞りだす様に、憎しみを呟いた。
その時、再び地響きが起こった。
"私"は立ち上がった。
既にテントは移動し、街に人気がなく、朽ちた兵器が廃墟に囲まれて無数に転がる。
そこに、地響きとなる悪魔の足音が轟く。



「危ないわよ!」

物陰から見知らぬ女性が叫ぶが、"私"は躊躇する事なく、わずかに物陰に並べられていた兵器からライフルを掴みとり、悪魔の方を睨む。
その瞬間、"私"は頭上に気配を感じた。

「待て、あいつは俺が殺る。」

瓦礫の頂には、肩に大型ライフルを担いだ一人の青年が腰掛けていた。
それが、"私"と健の出会いであった。
3/13ページ
好釦