拍手短編集







2021年・2月某日。
ここは、何処かに存在する波止場の倉庫裏。
普通なら特に近寄る用事も無いこの場所に、1人佇む瞬の姿があった。
以前遥に作って貰った、バランの表皮をイメージした赤茶色のマスクを付けた瞬は、いつも通りだが周りの風景とはやや不似合いの軍服姿で、腕を組みながら不機嫌そうな雰囲気だ。



「・・・これが、デジャヴか?何年前の記憶だ・・・?」



そう思案している内、瞬の元へやって来たのはここに彼を呼び出した張本人・志真と、やはり彼に呼び出されて共にやって来た遥だった。
「フェアリー」体のモスラをイメージした光のシルエットの小さな蝶が舞う、黄緑色のマスクを付けた遥はいつもの彼女とは違う印象を与える灰色のスーツを着ており、見るからに困惑さが隠せない様子だ。
一方で、ゴジラの放射熱線をイメージした青白いマスクを付けた志真は2人とは正反対に普段通りのラフな服装をしていたが、その表情はマスクを付けていても固くなっているのが分かり、両手の拳を握って沈黙したまま志真は瞬に歩み寄る。



「こんにちは、瞬さん。もうお分かりだとは思いますが、私もここに来た理由は説明されていなくて・・・」
「・・・」
「どう言うつもりだ、志真。確か、約13年前の年末もこうして俺を呼び出し、妃羽菜と共に俺に散々言い掛かりを言っていたな?今回は何が目的だ?」
「た、多分志真さんはまた何か悩みがあって、それを私達に聞いて欲しいのだと思いますよ。志真さんはジャーナリストですから、このご時世だと余計に難しい事が多いと思いますし・・・」
「悩み事か・・・だとするなら、俺達を再びこんな所に呼び出す以上、今度こそ相当な事なのだろうな?いい加減口を開いたらどうだ?」
「・・・なぁ、瞬。遥ちゃん。」
「どうしました?」
「2021年も、早速色んな事があったよな。」
「ああ。」
「新型コロナウィルスはやっぱりまだまだ世界で猛威を振るってるし・・・」
「その話題は、避けられないですよね・・・だからこそ、あの時と違って今私達は距離を置いているのですが。」
「漸くワクチンが開発されたが、ウィルスの変異種が現れたり、日本での一日の感染者が一向に減少しない事で緊急事態宣言が延長されたりと、未だ予断の許さない状況だな。」
「『ゴジラvsコング』の予告と正式公開日が、やっと発表されたり・・・」
「まさに『全世界待望』でしたよね!予告だけで気になる事が多いですし、早く日本で見たいです!」
「俺は本当にメカゴジラが出るのか、その点が最も気になる所だな・・・」
「森元総理が女性軽視発言をしてアイムソーリーぐらいの軽い謝罪会見をしたり、パシリムのアニメの配信がやっと決まったり・・・」
「・・・待て。お前は、始まったばかりの2021年を振り返る為だけに、俺達をここへ呼び出したのか?なら、こんな話をここで聞く必要はない。俺は帰らせてもらう!」
「しゅ、瞬さん!?」



以前と同じくもどかしい志真への怒りを露にしながら、瞬はその場を去ろうとする。
だがそんな瞬を、志真の手が止めた。



「何だお前は、今度こそ何がしたい!」
「今回もちょっと遠回しにしちゃったけど、俺がお前に言いたいのはここからだ。最後まで聞いてくれって。」
「・・・本当だな?」
「本当だって。じゃあさ、さっき今年起こった事を色々と言ったけど・・・俺達にとっての今年最大の出来事って、何だ?」
「今年最大の出来事?いや、まだ一ヶ月位しか経っていないが・・・」
「その中で、志真さんが言った事以外の出来事は・・・」
「うあぁーっ!!瞬も遥ちゃんも、やっぱり忘れちゃったのかよ!」
「「えっ?」」
「出演しただろ!『Z ‐「G」 own path‐』!」
「「あっ・・・!」」



出てくるとさえ思わなかったその名に、瞬と遥はつい驚愕の声を上げる。
だが、志真の表情は未だ真剣そのものだ。



「このびっくりな事を、忘れちゃいけないだろ!?」
「た、確かに凄い事でしたよね。まさか、『「G」が導く未来』で再度完結したと思っていた『Next「G」』の新作が発表されるなんて。」
「想定外ではあったが・・・そうだろうと、別にここで話す事では無いと思うが。」
「今回も、お前だけに言いたい事なんだよ・・・そうだ、瞬!またしてもお前って奴はなぁ・・・!」



ソーシャルディスタンスを破りかねない程に凄まじい剣幕で迫る志真の迫力は、瞬をも自然に一歩後ろに下がらせた。
遥は更に困惑しつつも志真の右手を掴んで彼を静止し、2人の様子を見ながら事態の収拾を図ろうとする。



「し、志真さん!落ち着いて下さい!今の志真さんは、冷静さを欠こうとしています・・・」
「大丈夫、遥ちゃん。別にあいつをぶん殴ったりする気は無いから・・・ただ、俺は羨ましいってだけだ・・・!お前だけ、本編に最初から最後まで出やがって!」
「えっ・・・?」
「・・・やはりな。」
「よく考えてみろ、俺達は一応は前編でのゲストってだけで、この作品でも良ければ名前だけの出番だと思ってたんだ!なのに、お前だけどうしてその辺のサブキャラより出てんだ!」
「あの時と似た回答だが・・・俺は自衛隊側の代表であり、『項羽』の副艦長である以上は作戦に参加しなければならない立場だからだろう。要するに、『Next「G」』での佐藤清志司令補佐と同じだ。」
「なにぃ!他のゲストキャラはほぼ未登場で、遥ちゃんもカメオ出演だけで我慢してんだぞ!そりゃ、遥ちゃんの出番は例えるなら『ゴジラKoM』のブルックス博士的な感じの、MCUあるあるな最高のカメオ出演だったけど、それをお前は他人事みたいに・・・」
「あの、このお話の大前提は『桐城睦海の物語』ですし、睦海ちゃんが最初から最後まで主人公でさえいれば、それで良いのではないでしょうか・・・?」



まさに「言い掛かり」としか言い様の無い言葉を容赦無く瞬に突き付け続ける志真を、遥は必死に宥める。
が、ここで瞬は志真の「真意」に気付いた。



「・・・分かったぞ、志真。お前が今回も妃羽菜と共に俺を呼び出した理由・・・それは、自分だけ名前すら出なかったからだな?」
「えっ?」
「そうだよ・・・「‐」シリーズの主人公の俺が、影も形も無いなんてさぁ・・・せめて、所縁のある健君や寺沢さんと会うくらいはしたかったなぁ、って・・・」
「お、お気持ちは分からなくないですが・・・私も麻生君やみどりさん、美歌ちゃんと再会したわけではありませんし、瞬さんも副艦長としての責務を全うしただけですし・・・」
「それにお前が先程言っただろう、他のゲストキャラはほぼ未登場だと。三神夫婦や北川教授組、セバスチャン博士や遠野亜弥香もお前と同じ立場で、尚且つ三神夫婦は作者の自キャラなんだぞ。にも関わらず、お前だけ我が儘を言うのはお門違いでは無いのか?コンドウから何を唆されたのかは知らんが、これ以上見苦しい真似をするのは止めろ!」
「ゲストキャラ通り越して、メインキャラなお前が言うなぁ!それにコンドウがどうとかじゃなくて、俺が言いたいのは「‐」キャラ勢で俺だけいなかった、この俺の悲しみなんだよぉ!それでも、分かってくれないってなら・・・俺は今からこいつで、出番を直談判しに宇多・・・」






「いい加減に、しなさいっ!!」
「クラウマガッ!!」



スマホを取り出し、「第四の壁」を破りかねない暴挙に出ようとした志真だったが、それは突然の背後からのチョップによって阻止され、首元を強打されて失神した志真は地面に倒れ込む。



「安心して、峰打ちよ。」
「お前は・・・!」
「む、睦海ちゃん!?」



そう・・・件の物語の主人公である、桐城睦海だ。
再度の思ってもいなかった事態に、瞬と遥は唖然とするしか無い。



「お久しぶりです。瞬さん。遥さん。瞬さんとは本編で少し顔を合わせましたね。あの時は緊急時だったとは言え、挨拶も出来ずにすみませんでした。」
「あ、あぁ。俺は特に気にしてはいない。」
「遥さんとは・・・『アイスクリーム シンドローム』以来?今となってはパラレルワールドの記憶になりましたけど、あの時は楽しかったです!」
「そ・・・そうね。お互いに悩みが解消出来て、良かったね。」
「それにしても、志真さんのジャーナリストとしての行動力の高さはいいなって思ってたのに、悪い形で出るとこんなに面倒な事になるのね・・・大丈夫だとは思うけど、ジャーナリストの血を引いてる茉莉子にも一応言い聞かせとかないと。
さてと、私は早く嵯峨野さくらさんのポケモンのプレイ日記にコメントしなきゃ・・・
この星をまも、り~た~い♪
その、笑顔が見た~い♪
傷付き、たおれ、て~も~かま~わな~い♪
つよく~、や・さ・し・く~♪」






「「・・・そっちの方の『Z』?」」

[ご唱和下さい!ムツミンの名を!]
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好釦