拍手短編集








2020年・元旦。
令和初めての新年の幕開けの日に、志真・瞬・遥はいつもの喫茶店にいた。
今日に合わせて瞬が黒い礼服、遥が宙を舞う極彩色の蝶が左胸の辺りにあしらわれた水色の振袖を着ているのに対し、志真は至って普通のカジュアルな服装である所が、三種三様の個性を示している。




「そういや、瞬と遥ちゃんはどんな初夢見た?俺は中々めでたかったぜ?」
「『一富士二鷹三茄子』を見たとでも言うのか?そんな俗説で威張るな。」
「そう言わずに、瞬さん。私は、モスラに乗って鷹と一緒に飛ぶ夢を見ました!」
「俺は・・・バランと共に大豪雪の富士山を歩く内容だったと思う。夢はレム睡眠に入った脳が記憶を整理する際に起こる現象だ。恐らく、大晦日に『パシフィック・リム アップライジング』を見た影響だろう。」
「あっ、そうなんだ・・・確かにあれ、ラストはやたら雪が積もった富士山が出て来るよなぁ・・・」
「では、私は大晦日にプレイしたポケモンシールドでウォーグルをゲットしたからでしょうか?シールドには出て来ないので、マックスレイドバトルでゲット出来て凄く嬉しかったんです。」
「だよねぇ・・・他の人のマックスレイドなら、バージョン限定のポケモンもゲット出来るし・・・」
「それで、お前はどんな目出度い夢を見たんだ?志真。」
「・・・会社で焼きなすび食いながら、残業してました・・・」
「だろうな。」
「で、ですが茄子は出て来ていますから、おめでたい事に変わりはありませんよ!志真さん!今年もきっと、いい事が待っていると信じましょう!」
「あ、ありがとう、遥ちゃん・・・俺、今の遥ちゃんが弁財天に見えるぜ・・・」
「『三茄子』を見たくらいで俺と妃羽菜より目出度いだろうと嵩(たか)を括った、お前の見通しの甘さの結果だ。それよりも、この流れは本題があるんだろう?なら、早く話せ。」
「おう・・・じゃあ、瞬と遥ちゃんって今日ここに来る前、ゴジラから妙な質問されなかった?」
「妙な質問・・・むっ?」
「どうして、私が今日ゴジラから質問された事を知っているんですか?まだ誰にも話していませんが・・・」
「やっぱりか・・・俺も今日、ゴジラからいきなり質問されたんだよ。」
「妙と言うよりは、何故奴がその事を知っているのかが分からない質問内容だったな。」
「瞬さんもですか?私も同じ感じです。まさか・・・」






ーー・・・なぁ、はるか!
「初音ミク」って、だれなんだ?知ってるなら、教えてくれよ!


「えっ?ゴジラ・・・と言うか、初音ミクちゃん!?ええっと・・・ボーカロイドって言う、パソコンって言う道具を使って色んな歌を歌わせられる架空の女の子・・・で、いいのかな?ちゃんと説明出来てるか、自信はないけど・・・」



ーーそっか~、分かった!
ミクも、どっかのせかいにいるんだな!
ありがとな、はるか!じゃっ!


「う、うん・・・でも、ミクちゃんはどちらかと言うか、データの存在なんだけど・・・分かったのかな?」






「「初音ミク?ゴジラが?」」
「は、はい。本当です。」
「妃羽菜が嘘を言わないのは俺も分かっているが・・・あまりに突飛な質問だな・・・」
「モスラに吹き込まれたとか?でも、それなら遥ちゃんに初音ミクって誰?って聞かないか・・・つうか瞬、お前もミクちゃんの名前くらいは知ってたんだな?」
「俺が最近の物事には無知、と言うワンパターンな考えはいい加減止めろ。俺も知名度やメディア露出が高い物事なら、最低限調べはする。」
「まーまー、そうムカムカすんなって。お前もやっと情報の視野が広くなったんだって、腐れ縁ながら感心してんだからさ~?」
「余計なお世話だ。」
「ま、まぁミクちゃんはキティちゃんみたいに色んな所でコラボしていますから、博識な瞬さんなら知っていますよね。それで、瞬さんはどんな質問を?」
「俺は・・・」






ーー・・・なぁ、しゅん!
「エヴァンゲリオン」って、どんなやつなんだ?知ってるなら、教えてくれよ!


「なに?いきなり何を言い出すかと思えば・・・エヴァンゲリオン?俺はマニアと言える程では無いが、解説してやろう・・・
「黒き月」より現れる正体不明の異生物『使途』に対抗する為、「国際連合直属非公開組織 特務機関『NERV(ネルフ)』によって開発された『人型汎用決戦兵器』。それが『エヴァンゲリオン』だ。よくロボットと勘違いしている者がいるが、あれはプロテクターで制御された巨大な人造人間であって、パイロットは・・・」


ーーあれ?おれが見たのは確かにロボだったんだけどな・・・まっ、分かったからいいや!
ありがとな、しゅん!じゃっ!


「待て、まだ解説は終わって・・・何なんだ、一体?」






「「エヴァ?ゴジラが?」」
「嘘も記憶違いも一切無い。話せる事は全て話したぞ。」
「瞬さんも、絶対に嘘は言わない人なのは十分分かっていますけど・・・私も驚きです・・・」
「俺はこれが本当なら、ゴジラがエヴァを知っていた事より、ガチでエヴァを解説しようとしたお前に驚きだけどな?明らかに途中で話を切られてんじゃねぇか。」
「教えろと言われたから、俺が知りうる事を教えようとしただけだ。しかし、人に質問しておきながら途中で強引に話を終わらせるのは感心しないな。」
「いやいや、老若男女誰でも深く聞く気無いならそうなるだろ。どうせお前の事だから、『まごころを、君に』のラストまで喋る気だったよな?」
「まぁまぁ、志真さんも追求はそれくらいに・・・ところで、志真さんはゴジラから何と質問されたのですか?」
「そうそう、俺も話さないと。俺はな・・・」

[この車両は、「次の拍手短編・後編」行きです。]
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