拍手短編集







「はぁ~い♪そう言うわけでお姉ちゃん、いきなりまた来ちゃいました~♡会いたかったわぁ~!レンくぅ~んっ♡」
「えっ、おねえ・・・はわっ!」
「・・・不意打ちを仕掛けて来るなんて、予想外ね・・・」



お姉ちゃんが突然帰って来た、あの正月から8ヶ月過ぎた夏休み。
紀子と一緒に、夏休みの宿題の自由研究の資料を探しに図書館に行こうとしていた今日の予定は、再び突然帰って来たお姉ちゃんによって、中止になりました。
こうして家の玄関で僕に抱き着くお姉ちゃんは、相変わらずいい匂いで、色々柔らかくって・・・
紀子も前の時にお姉ちゃんとちょっと仲良くなったので、睨むと言うか呆れているような感じなのは良いんですが・・・



「あの、亜衣琉お姉さん?確か前は春休みに帰って来ようって言ってませんでしたっけ?それから何の音沙汰も無かったので、当分来ないと思っていたんですが?」
「私もそうするつもりだったんだけど、向こうでやる事がたくさんあって予定が取れなかったのよ~。それに、夏って色々と盛んになる季節だから・・・♡レン君と進展があったのかなぁ、って思って抜き打ちで来てみました♪」
「残念ですけど、そんな邪(よこしま)な理由でレンと進展なんてしませんから。まだ手繋ぎです。」
「あらぁ、それは残念ねぇ。紀子ちゃんが本気出そうとか言ってたから、上手くレン君の寝込みを襲って夜這いでもしたのかと思ったのに~♡」
「よ、よば・・・!?」
「しませんから!ほんと、貴女って口を開けばいやらしい事ばかり・・・」
「私は私のやりたい事をしているだけよ?紀子ちゃんにも前に言ったじゃな~い♪だから、生き物の本能に従って、レン君と紀子ちゃんの子孫繁栄の本能が覚醒するように・・・」
「煩悩に従ってる、の間違いじゃないですか?私とレンはケダモノじゃないので、結構です。」
「そう?紀子ちゃんはこう見えて積極的だから、レン君と夜のベッドの上でどったんばったん大騒ぎしたいんじゃないの?」
「だから、しませんって!」



・・・口論になるのは、今まで通りみたいです。
それにしてもお姉ちゃん、早く離してくれないかなぁ・・・汗の匂いやべたべたした感じは全然しないんですけど・・・なんか、気まずいです。






ここから十数分は口論した後、居間でお姉ちゃんが自由研究を手伝ってくれる事になりました。
テーマが決まらず、適当に色んな本を見ていたら決まるかと思っていたので、大学生のお姉ちゃんからの話を聞いた方がいいかも、と思ったのですが・・・



「ねぇ、レン君。人体って宇宙のようだって言われるくらい、まだまだ謎と研究課題に満ちているのよ?それって凄いと思わない?」
「う、うん。凄いね。」
「すみませんが、亜衣琉お姉さん。人体をテーマにするのはありだと思いますけど、そこまでレンに密着する必要は無いと思うんですが?」
「あら、そうかしら?今の私はレン君にマンツーマンであんな事やこんな事を教える家庭教師♪もうテーマが決まって、文章を書くだけの紀子ちゃんの邪魔にならないようにしてるだけなんだけどなぁ~。」
「じゃあ、そうやって目の前でさり気無くレンに色仕掛けしているのが気になって邪魔なので、やめて下さい。」
「うぅ~ん。お姉ちゃん、これでも控えてるのよ?今すぐレン君に背中から抱き付きたいくらいなのに~♡」
「そのまま控えて下さい。」
「えぇ~っ。レンくぅん、紀子ちゃんったらちょっと冷たくなぁい?」
「で、でも僕は紀子の邪魔になってるなら、やめた方がいい、かな?」
「レン君まで~?もう、どっちもイケズねぇ。でもお姉ちゃん、レン君がちゃんと自由研究が出来てるかのチェックはしたいから、ちょっと控えめの距離にしよっと♪」



・・・近いです、お姉ちゃんが。
夏だから薄着で(おへそが丸出しのダブルストラップの白いキャミソールに、短パンのデニム!)、もう体型が丸分かりと言うか・・・
ぴったり僕の肩にくっついてたさっきよりは控えめに距離ですけど、前屈みになって寄せられた谷間が丸見えと言うか・・・
前の三が日の時は一応厚着だった分、今は目を背けるのに必死です・・・!



「じゃ、じゃあ僕、お姉ちゃんが言う通り『人体の不思議』にしよっかな!」
「流石レン君!いいテーマにしたわね♪人体の不思議に関する展示会やイベントは割と定期的にやったりするし、優秀賞が取れるかもしれないわよ。それじゃあ、私もサンプルとして協力しないと・・・♡」
「って、お、お姉ちゃん!?なんで服脱ごうとしてんの!?」
「なんでって、人体について書くならサンプルが必要でしょ?本を読むより、お姉ちゃんの身体を見て触った方がいいわよぉ♡」
「もう!お姉さんったら何してるんですか!」
「別に私はレン君にも紀子ちゃんにも見られて平気だけどなぁ、お姉ちゃんのハ・ダ・カ♪」
「ぼ、僕は平気じゃないよ!?」
「レンもそう言ってますから、ストリップは他所でやって下さい!」



・・・やっぱり、こうなりました。
夏の暑さからか、お父さんが店に出す花の仕入れに行っていて今は家にいないからかは分かりませんが、今日のお姉ちゃんは三が日の時以上に積極的な気がします。
一度だけ酷く怒られた事のあるお父さんの前では控えめになるので、もっと大変な事になる前に帰って来て欲しいのですが、夕方までは無理そうです・・・






それから少しして、お姉ちゃんは流石にやり過ぎたと思ったのか、探し物があると言って部屋を出て行きました。
僕の自由研究はお姉ちゃんが書き残して行った題材を元に、紀子がネットで調べてまとめてくれたので、凄くあっさり終わりました。
別にその間特に気まずくはならず、いつも通りの感じで進んだのですが・・・



「・・・ねぇ、レン。私と亜衣琉お姉さんのどちらかにハグされたら、どっちが緊張する?」
「えっ?そ、そりゃ・・・紀子に決まってるよ。お姉ちゃんはあくまでもお姉ちゃん、だし。」
「じゃあ、レンにとっては私のハグの方が恥ずかしいの?」
「う、うん。だって紀子は僕の恋人で、愛おしい存在で・・・だから色々気持ちが湧き上がってくる、って言うか・・・」
「・・・そう、なんだ。」
「・・・紀子?」



そう言った紀子の顔は、何処か寂しそうで・・・この時の僕には、その理由が分かりませんでした。
しばらくして、お姉ちゃんが居間に戻って来ました。



「ん~っ、見つからなかったなぁ。探し物・・・あっ、すっご~い!レン君の自由研究、もう終わりそうじゃない!えらいね~、レンくぅんっ♡」
「はわっ!あ、ありがと・・・」
「紀子ちゃんも資料探し、手伝ってくれたみたいね。流石は紀子ちゃん♪」
「いえ、別に・・・ちなみにお姉さん、レンの部屋で何を探していたんですか?」
「えっ?僕の部屋?」
「紀子ちゃんにはバレちゃってたかぁ・・・仕方無いから白状するわ。私の探し物は、思春期真っ盛りの男の子なら誰でも作ってる、レン君のベッドの下の秘・密・基・地、よっ♡」
「僕のベッドの下の秘密き・・・って、へ、へええぇ!?」
「どうせそうだろうと思いましたよ・・・勉強道具か特撮グッズしかないレンの部屋に、お姉さんが探したい物があるとしたら。」
「名推理ね、ホームズ紀子君♪まっ、今回の捜査では無かったけど、次の捜査で見つかってもレン君を責めたら駄目よ?秘密基地を作るのも、レン君が紀子ちゃんを悦ばせられる男になる勉強の為なんだから・・・♡」
「そ、そ、そんなのする気ないよ!お姉ちゃん!」
「それ以前に、家族でもそんなガサ入れみたいな事をしないで下さいっ!」

[ちなみに「R」はリターンズ、もしくはR指定の意味よ♪]






その後、お姉ちゃんは三日間滞在しました。
もちろん、滞在中もお姉ちゃんは相変わらずで・・・



「レン君、夏休みの宿題もだいぶ終わったし、今日は海に行かない?夏と言えば海、砂浜、そして水着っ!だからお姉ちゃん、レン君を絶対イチコロにするすっごい水着を持って来てるんだ~♡ほらっ♪」
「う、うわぁ・・・」
「・・・もうそれ、水着と言うよりただの布じゃないですか。そんなの着て行ったら、レンだけじゃなくて他の下心丸出しな男の人まで呼び寄せちゃいますよ?」
「大丈夫よ?こうみえて私、そういう時の為に護身術をたしなんでるの♪それにもしもの事があれば、ガメラ君でも呼んじゃえばいいし!」
「そんな事でガメラは呼びません!」






「ふ~ぅ・・・やっぱり夏の昼に入る水風呂って、気持ちいいなぁ・・・でも紀子とお姉ちゃん待たせてるし、そろそろ上がろ・・・」
「レンく~ん♪」
「お、お姉ちゃん!?まだ僕入ってるよ!?」
「知ってる♪でもお姉ちゃん、色々と我慢出来なくなって来ちゃった~♡だからレン君、久々にお姉ちゃんと一緒にお風呂入りましょ♡」
「タ、タオル取っ・・・!?ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃんってば!これ水風呂だし・・・」
「くすっ♪裸のお姉ちゃんに照れてるレン君ったら、なんでこんなに可愛いのかなぁ~♡そんなレン君のアソコも全部、お姉ちゃんにちゃ~んと見せ・・・」
「それ以上は家族でもセクハラになりますよ、お姉さん?」
「の、紀子まで!?」
「あら、紀子ちゃんも一緒に入りたくなったの?」
「違います!犯罪を阻止しに来ただけです!」
「犯罪って、レン君のこの可愛さの事?それならある意味罪かもしれないわぁ・・・♡」
「今そこで性犯罪をしようとしている、貴女の事です!いいから早くタオル付けて出て行って、ください!」
「あぁ~ん、紀子ちゃんのイケズ~!」


――・・・み、見られてないよね・・・?
紀子に、僕の大事なとこ・・・







「やっぱり、夏に食べるかき氷は最高ねぇ~♪レン君と紀子ちゃんも、そう思わない?」
「そうだね、お姉ちゃん。」
「アイスクリーム頭痛さえ無ければ、確かに最高ですね。」
「アイスクリーム頭痛?」
「かき氷やアイスを食べてる時に、頭がキーンってなるあの現象の事よ、レン。」
「ちなみに、この名前で医学的な正式名称だったりするのよ~?」
「そうなんだ・・・そのまんまと言うか、これを自由研究のテーマにしたら良かったかな、って今更思っちゃった。」
「お姉さんの色仕掛けのきっかけにされて、なし崩しに決まったから、しょうがないわよ。」
「紀子ちゃんったら、そう固い事言わないの。アイスクリーム頭痛については来年の自由研究のテーマにしたらいいんだし♪」
「そうする・・・って話してたら、キーンって来たぁ・・・!」
「もう、レンはいつも早く食べるから・・・ゆっくり食べれば防げるから、落ち着いて。」
「起こっちゃった時はおでこか、こめかみを冷やせばいいらしいから・・・紀子ちゃん、ちょっとスプーン借りるわね?」
「えっ、ちょっとおねえ・・・」
「はぁい、レン君♪紀子ちゃんとおでこに、間接キスっ♡」
「あっ、これって紀子のスプーンが僕の・・・はううっ。」
「あっ、レン!?もう、何やってるんですか、亜衣琉お姉さん!」
「う~ん、間接もまだ無理かぁ・・・」










「じゃあね、父さん。紀子ちゃん。レン君。また時間を作って、帰って来るわね~!」
「じゃあね!お姉ちゃん!」
「帰り道に気を付けるんだよ、亜衣琉。」
「さようなら、亜衣琉お姉さん。」



こうして、あっと言う間に日にちは過ぎて行き、いよいよお姉ちゃんの帰る時間になりました。
お姉ちゃんとはこの三日間は騒がしくって、いやらしくも楽しく過ごせたと思うのですが・・・何だか三が日の時に比べておとなしいと言うか、物足りなさそうな感じでした。
で、でもだからってお姉ちゃんとあんな事やそんな事なんて出来ないし・・・




「また突然帰って来たかと思えば、きっちり三日で帰るとは・・・気紛れで好奇心旺盛、でも憐太郎にはべったりだった、美愛の血だね。」
「かもしれないね、父さん。紀子も昔母さんに会ってるから、分かるよ・・・あれ?紀子?」
「えっ?えっと・・・そうね。子は親に似るって言うけど・・・」


――亜衣琉お姉さん、きっとこの三日で自分が介入しても私とレンの関係に進展が無かったから、ちょっと不満足そうだったのね・・・
これはお姉さんが脱線してたと言うより、私が特に動かなかったのも原因かもしれない・・・それなら、私に出来る事は・・・!


「・・・紀子?どうしたの?」
「・・・あのね、レン。実は亜衣琉お姉さんが最近変にレンに色仕掛けして来るのは、半分私とレンの為だったの。私、本当はレンに手繋ぎから先の事をして欲しいって、ずっと前から思ってた・・・ハグとか、キスとか・・・でも、ウブなレンはハグでも恥ずかしくて出来ないから、お姉さんがレンにそういうのを慣れさせたくって、色仕掛けをしてたのよ。」
「え、ええっ!?」
「なるほど・・・スキンシップにしては昔より激しくなったと思っていたけれど、何だか色んな意味で、亜衣琉らしいやり方だね・・・」
「まぁ、半分は単に昔みたいなスキンシップの延長の感じもあるみたいで、正直過激で迷惑に思う所は多かったけど・・・私がレンと手繋ぎから先の事がしたいのも、亜衣琉お姉さんが私とレンの恋を応援してくれてるのも本当。私とお姉さんで三が日の時にその事で話し合ったから、急に仲良くなれたのよ。」
「そう、だったんだ・・・分かったよ、紀子。お姉ちゃん・・・じゃあ、いつまでも恥ずかしいなんて言ってられない。お姉ちゃんと、紀子の為にも・・・そうだ、僕は男だ!いつか父さんと母さんみたいに、紀子と結婚するんだ!!時間はかかるかもしれないけど、これからもっと恋人っぽい事が出来るように僕、頑張るよ!紀子!」
「ありがとう、レン・・・じゃあ私、今日こそ本気出そっかな。だから・・・まず始めに、レンのほっぺ借りるね・・・」



紀子がそう言うや、僕のほっぺにすっごく柔らかくてあったかい感触が伝わって来ました・・・
お姉ちゃんのと違う、これは・・・まっ、まさか・・・!?
の、紀子の・・・のりこ、の・・・!!



「・・・ばたん、きゅー・・・」
「えっ、レン!?やだ、鼻血出てる!?」
「あぁ、憐太郎もやっぱりこうなるか。これは確実に私の血だろうなぁ・・・実を言うと、私と美愛も手繋ぎ以降の事は美愛の方からやって来たんだ・・・」
「じゃあお父さんの時も、恋愛関係をリードしてたのは美愛さんだったんですか?」
「恥ずかしながら、ね。いやはや、困った所が似たものだよ・・・」
「やっぱり、私がちょっとずつ本気を出してかないと駄目みたいね。悔しいけど、亜衣琉お姉さんの言う通り・・・それでも、私はレンともっと恋人らしい事がしたいから・・・一緒に頑張ろうね。レン。」



・・・もう、紀子が何を言ってるのかが、分かりません・・・
お姉ちゃんにも、同じ事をされてるはずなのに・・・紀子がするだけで、やっぱりドキドキし過ぎて、倒れちゃうなんて・・・
ま・・・まだ、僕には・・・
紀子と結婚する資格は・・・無いみたい、です・・・










「・・・ちゃんと物陰から見せて貰ったわよ、紀子ちゃん♪レン君がああじゃまだまだ時間はかかりそうだけど、レン君にもやっと本気スイッチが入ったし、キス出来る日もそう遠くないかも!それまでファイトよ、紀子ちゃん☆」

[うふふふっ、次はいつ帰ろっかなぁ♪また来るわね、レン君♪]
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