‐GREATEST‐応の超獣と七体の大怪獣







遥が朱雀・ギャオスに会いに訪れた長崎県・福江島にも、破壊者の手が伸びていた。
逸見家に現れたのは、手が膜状の羽・足が鋭い爪・頭が蝙蝠のような形状に変わった黒ずくめの人間、まさに「コウモリ人間」と言うに相応しい怪物であった。



「おのれ、怪物め!一歩たりとも、この家には入れさせんぞ!」



縁側から逸見家に迫るコウモリ人間に対し、樹の父・逸見亨平が護身用の銃で迎撃するが、何発撃ってもコウモリ人間の表皮には通用しなかった。
やがて弾が切れ、亨平はコウモリ人間を睨みながら慣れた手付きで素早くカートリッジを取り替え、再び銃を構える。



「今、樹がその身を賭けて人智の及ばぬ存在と戦っている・・・ならば、あいつのいる場所を必ず守る!それが俺が父としてやれる事だ!バットマンもどきだろうとも、こんな怪物の好きにはさせん!」



亨平の決意の銃口が火を吹き、弾丸はコウモリ人間の右耳を打ち抜いた。
苦しみ悶えるコウモリ人間へ亨平は容赦なく二発目を左耳、三発目が右、四発目が左の足の付け根を正確に撃ち、五・六発目は両羽の手を捉えた。
先程の銃撃で胴体部分への攻撃が効かないと判断した亨平は、弱いと感じた部分を狙ったのだ。



「経験と意地を甘く見るな!必ず貴様を駆逐してくれる!」



もう一度カートリッジを換え、コウモリ人間の左目を目掛けて亨平は銃を撃つ。
だが、コウモリ人間は苦しみ紛れに飛び上がって銃撃を回避し、そのまま亨平に突撃してマウントポジションを取る。



「むおっ!貴様ぁっ!」



体当たりの衝撃で銃をはたき落とされてしまうも、コウモリ人間が繰り出す引っかき攻撃を亨平は手で受け止め、力を振り絞って押し返そうとする。
しかし、コウモリ人間は強引に亨平を地面に叩きつけ、喉元に向けて噛み付き攻撃を繰り出そうとした。



「ぐうっ・・・!」


――い、樹が・・・帰るまで・・・俺は・・・!



と、その時。
寸分の先まで迫ったコウモリ人間の口が、突如止まった。
それだけでは無く、コウモリ人間の全身が硬直したように動かなくなっており、コウモリ人間の目は驚きの感情で見開かれる。



「・・・っ!これは!?」



コウモリ人間の体は黒い無数の触手に絡め取られており、一つ一つの触手の先には太く鋭利な針が付いていた。
更にその針はコウモリ人間の全身を突き刺さり、コウモリ人間は奇声を上げながら亨平から離れる。



『たすけにきたデス、へんみサン。』



コウモリ人間が離れたと同時に亨平の目に見えたのは、あどけなさを感じる少女だった。
濃い褐色の肌と、それに反する白を基調にした長い布とペチコートで出来た民族服を身に纏う姿はインド系列の出身を思わせる出で立ちだが、長い黒髪をポニーテールに括る水玉模様の青いシュシュと、猫耳が付いた黒のカチューシャが風貌と比較してやや浮いており、丸っこい目や小振りな体付きも相まって、何処か子猫が人の姿をしているような印象を与えた。



「き、君は?」
『だから、へんみサンをたすけにきたんデス。』



飄々とそう言いながら、少女は自身の影から亨平をコウモリ人間から助けたあの触手を出現させ、うずくまるコウモリ人間に差し向ける。
だが、コウモリ人間は触手に捕まる寸前に飛び上がり、少女に向かって爪を突き立て迫る。



「君、危ないぞ!」
『・・・へーきデス。』



必死に呼び掛ける亨平をよそに、少女は迫るコウモリ人間を前にしながら避ける素振りも見せない。
そして、コウモリ人間が少女の体を引き裂いた、その刹那。
少女は黒い霧となって消え失せ、コウモリ人間の攻撃は不発に終わる。



「き、消えた!?」



何が起こったのか理解出来ない亨平と、着地して辺りを見渡し、慌てて少女の姿を探すコウモリ人間。
が、次に少女が現れたのは、予想だにしない場所からだった。



『こっちデス!』



そう、少女はコウモリ人間の影から現れたのだった。
完全に不意を突かれたコウモリ人間は少女がいる背後に振り返るも、時既に遅し。
コウモリ人間の全身には自らの影から出て来た、針付きの触手がまとわりついていた。



『「反影」の「G」が、ただのばけものにまけるわけがないデス。それじゃあ、やってやるデス!』



少女はガッツポーズを取り、自分の影に両手を入れると、影の中から巨大な鎌を取り出す。
漆黒に染まった鎌は柄尻に付いた鎖で少女の影と繋がっており、刃の部分はかろうじて刃の形状を成している、虚像のようなゆらぎのある不定形な形だった。



『せいっ!!』



少女は跳躍し、一気にコウモリ人間との距離を詰める。
コウモリ人間は太陽を背に大鎌を構えてこちらに向かって来る少女に恐怖すら感じていたが、絡み付く触手は抵抗を許さない。



『・・・ばいっ!!』



そして、少女は大鎌を思いきり振りかぶり、コウモリ人間の体を切り裂いた。
コウモリ人間は最後まで恐怖に顔をひきつらせながら体を真っ二つに裂かれ、黒い粒子となって消えて行った。



――・・・まるで、死神のようだ・・・


『あんたのたましい、いただきデス!・・・ふぁ~っ。』



目の前で繰り広げられた、あまりに非現実的な出来事に驚愕しつつ、亨平は立ち上がって呑気に欠伸(あくび)をする少女に接触する。



「助けてくれて、まずは感謝する。しかし、君は一体何者なんだ?」
『ワタシは「反影」というのうりょく、「G」をつかうとくべつなそんざいデス。ワタシがいたところでは、「爾落人」とよばれてたデス。
「反影」は「反物質」をじざいにあやつったり、「影」のなかにはいれる「G」で、あいつのこうげきをかわしたのは「影」のちから、ワタシのこうげきは「反物質」のちからでだしたものデス。このせかいのぶっしつなら、なんでも「対消滅」させてけせるデスよ。
あともうひとつ「夢現」というゆめのなかのものを「具現化」させられる「G」もあって、この「G」のえいきょうで「影」をとおって「反物質」のせかいにはいれるように・・・』
「ま、待て。言葉を羅列されるだけではさっぱり分からん。それより君は何故ここに来て、俺を助けてくれたんだ?」
『パ・・・ファンロンにたのまれたからデス。たしか「巫子」にあいに、ここにいちどきてるデス。あなたもしってるはずデスよ?へんてこなかっこうしてるおんなのひとデス。』
「巫子に・・・?むっ、少し前に来た怪獣マニアだの言っていた、あの変な女の事か?」
『はい。さっき来たかいじゅうは「黄龍」のさしがねデス。「四神」にかかわるモノを、ぜんぶけすつもりなんデス。ファンロンはそれをさっちしてワタシやそのなかま、「結晶」をもつひとを「巫子」がいるばしょにむかわせたんデス。』
「『結晶』・・・あの娘の事か。」
『まぁ、ばけものについては「黄龍」というより、「黄龍」にかかわっているだれかによるしわざデスね・・・』



そう言うや少女は後ろに振り向き、そこに立っている一本の木をいぶかしげに見る。
木の影には全身が銀色の鱗で覆われた、蛇の頭をした怪人が2人を監視しており、少女が振り向くや否やその場を去って行った。



『とりあえずばけものはたおしたし、「北」のほうはカフカがいるからだいじょうぶデス。ワタシのしごとはいったんおわりデスね。タマ、ミケ、クロ、げんきにやってるデスか?ふぁ~っ・・・』
「そうだ、まだ君の名前を聞いていない。命の恩人の名前だ、聞かせてくれ。」
『はい。ワタシのなまえはチェリィ。ほこりたかきロマのいちぞくデス!』






少女・チェリィが言っていた「北」とは青森県・つがる市の事であり、そこには二体の怪獣が出現していた。
だが二体は争い、今まさにその内の一体が倒された。



コキュャア・・・!



倒された怪獣は蟻のような顔と動物のような二足立ちの胴体、背中から生える二本の長い突起、赤を基調としたカラフルな体色が特徴であり、断末魔を上げて爆発した。



グオオォォォウン・・・



もう一方の怪獣は、赤い表皮に棘々とした金色の鎧を纏ったような身体、右手と同化した強靭な剣、禍々しい顔と雰囲気を持っており、この怪獣こそがチェリィの言う「カフカ」で、彼女の「夢現」の力によって夢の中から具現化された怪獣である。
相手怪獣が出して来た火炎放射を受け止め、かつ自分の技として同じ技を使用し、右手と左手を十字にクロスして剣から出した緑の光線を使ってあっさりと相手怪獣を駆逐したカフカは、役目を終えたとばかりに光と共に消え、その様子を福江島にもいた怪人が悔しげに見つめていた。



「完全生命体・イフだと・・・!あんな怪獣に、アリブンタがかなうわけが無い・・・話が違い過ぎるぞ!」
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好釦