‐GREATEST‐応の超獣と七体の大怪獣
同刻、小笠原諸島・竜宮島。
青龍・マンダを訪ねて志真が向かったこの島の砂浜にも同じく、怪物が現れていた。
至る所に鰭が付いたグリーンの体、大きく発達した手足の水掻きは魚類を思わせ、大きく裂けた口と半分閉じた目は人の形をしていながら、この生物が人類の定義から外れている事を示していた。
背後に広がる海からやって来た、「魚人」と呼ぶに相応しいこの怪物の名前はラゴン。
目的地のグレイス家の屋敷に向け、たどたどしい足取りでラゴンは歩く。
「・・・やはり来たな。」
と、ラゴンの行き先を塞ぐように、砂浜にはもう1人何者かが立っていた。
招かねざる侵入者を睨み、既に臨戦態勢に入っているその者の正体はジュリアの使用人にして幼なじみ、蘭戸弦義であった。
だが、今の彼は普段は何も付けていない左腰に刀を帯刀しており、彼の持つ刀は通常の刀に比べて柄が長く、太古の中国で使われた「青龍偃(えん)月刀」と言う物であるが、他の偃月刀に比べて刀身が真っ直ぐになっており、青色の鞘には龍のレリーフが施され、何故かジュリアの持つ勾玉と全く同じ物が付いていた。
「たとえ俺の知る竜宮島で無くとも・・・この島の今は、この世界のジュリアは俺が守る!行くぞ・・・羅無蛇(ラムダ)!」
「羅無蛇」と呼んだ青龍刀を脇から外し、両手を使って水平に刀を持った弦義は、ゆっくりと鞘を抜く。
繊細に研ぎ澄まされた、銀色の刀身が露わになり、心なしか刀身が空気を吸っているように見える。
次に鞘を脇に戻し、両手で柄を持った刀を顔の右横に構え、前屈みの体勢になった弦義はこちらへと向かうラゴンをその眼(まなこ)に捉えた。
「いざ・・・参る!」
前に出した左足で砂浜を蹴り、弦義はラゴンに向かって行った。
ラゴンは弦義を近付けさせんと、口から白い光線を出して攻撃するが、弦義はとっさに青龍刀の刀身を使って攻撃を防ぐ。
本来、対象に当たった光線は対象を破壊するか、固い壁に水鉄砲をかけた際の水のように、作用点から放射状に拡散する筈である。
しかし、この青龍刀に当たった光線には破壊も拡散も起こらず、まるで刀身に吸い込まれているかの如く、作用点からそのまま消え失せていた。
「『無吸』の「G」を持つ羅無蛇に、その程度の光線は効かない!一太刀受けて貰うぞ!」
ラゴンの手前まで接近した弦義は足を屈めて姿勢を低くし、ラゴンが再度出して来た光線を回避すると共に、その位置から刀でラゴンの腹部を切り付けた。
ラゴンの腹に左斜め下向きの傷が残り、ラゴンは傷を両手で抑えながら苦しみ悶える。
「光線を止めた隙を突く!そこだっ!」
弦義は跳躍すると同時に体を一回転させ、脇の鞘を取って刀に仕舞うと、鞘の部分でラゴンの脳天を叩き付けた。
昏倒するラゴンに弦義は更に鞘で両手、胸、両足の順に打撃を仕掛け、最後に腹を殴ってラゴンを弾き飛ばす。
砂浜に打ち付けられたラゴンはうつ伏せのまま動かなくなり、弦義はラゴンの生死を確かめようとラゴンに近付いて行く。
「・・・」
弦義がラゴンを覗き込もうとした、その時。
不意に仰向けになったラゴンが、弦義に向けて光線を発射した。
ラゴンが全く動かなかったのは、弦義の隙を作る為の芝居だったのだ。
「やはりな・・・!」
しかしながら、そんな悪知恵は弦義も気付いており、素早く両足で砂浜を蹴って瞬時にラゴンの足元に回り込み、鞘を使った打撃攻撃を繰り出そうとする。
だが、すんでの所で攻撃はかわされ、ラゴンはすかさず海の中に飛び込んだ。
今度は自身が得意とする環境から、反撃に転じる算段だ。
「海に逃げたか・・・!」
――だが、このまま奴が引き下がるとは思えない。
海水に身を潜めて、不意を突いて来るはず・・・なら!
弦義は目を閉じ、聴覚を集中させた。
脈打つ心臓の鼓動すら聞こえそうな、静寂の世界に入った今の彼に聞こえるのは、砂浜に打ち付ける波の音。
しかし必ず、その音を破って我が身を狙う敵意が現れる。そのタイミングを弦義は待っていた。
柄を強く握り締め、波の音だけに意識を集中させ・・・その時はやって来た。
「・・・っ!調子に乗るなぁっ!!」
水飛沫(しぶき)の音を連れて海水から現れ、光線で奇襲を仕掛けるラゴン。
が、それよりも開眼した弦義の察知の方が早く、力強く青龍刀を抜刀した弦義は刀身の切っ先で光線を受け止め、そのままラゴンに向けて突撃して行く。
光線は刀の切っ先から真っ二つに貫かれ、あっという間に接近を許してしまった。
「終わらせてやる!俺の「G」は・・・俺の刀は全てを貫く!」
弦義はラゴンの体を縦に切り付け、素早く左手で鞘を刀身に収めると共にラゴンの肩を鞘で叩き、ラゴンを海中に沈める。
続いて弦義は後ろに飛び上がって一旦距離を取り、抜刀した刀を再び顔の手前に構え、海の中のラゴンに狙いを定める。
真剣を研ぎ澄ましてラゴンを狙う弦義はさしずめ、目標に目掛けて弦を張り詰め、矢を射ろうとする射手の風格であった。
「『通貫』の「G」、受けてみろ!鳴神龍神流剣術奥義!白波!!」
そして弦義はラゴンへ、青龍刀を投げ付けた。
刀は慣性の抵抗をも無視した目にも止まらぬ速度で着水し、スピードを保ったままラゴンの胸を真っ直ぐに貫いた。
ラゴンの体は瞬く間に緑色の液体と化して消え失せ、全て刀身の中に吸い込まれて行った。
「戻れ、羅無蛇。」
ラゴンを吸ってもなお、今度は海水を吸おうとする青龍刀へ、弦義が鞘を穴の開いた方を向けて差し出すと、刀は鞘に引き寄せられるかのように一人でに持ち主へと飛んで行き、鞘に収まった。
「全く、本当に『無窮』の吸引力を持つ魔剣だな・・・ファンロンさんに造って貰った、「G」を抑制するこの鞘があって助かった。これが無ければ、覚醒した俺の「G」が加わって、何処へ行っても平穏を崩していただろう・・・」
――お前との約束も果たさないといけないからな、ジュリア。
異端者の俺が何百年、何千年と静かに世界を見届け続けるには、この力を抑える手段が必要だった。
如何に振る舞おうと、俺が爾落人であり、この「G」がある限りは・・・
しかし、この「G」で守れるものがあるのなら、俺は「G」を振るう。
今もこうして、この世界の竜宮島を守れた。あの時守れなかったこの島を、ジュリアを・・・
青龍・ゴジラ。
そして、ジュリア。
いつまでも、俺の約束の旅を見守ってくれ・・・
勾玉をそっと握り、「もう1人」の弦義は平和を取り戻した島と海を、万感の思いで見つめるのだった。