‐GREATEST‐応の超獣と七体の大怪獣




・・・ァァォォオン・・・



だが、その黄龍を阻むかの様に、北の方向・・・ちょうど黄龍の真正面から向かって来る一つの影があった。
焔(ほむら)に包まれながら高速の円盤飛行で空から黄龍を目指すそれは、スピードを全く落とす事無く黄龍の周囲を旋回し、黄龍も目で後を追う。
そして、それは黄龍の眼前の地面に着地すると、着地の衝撃で起きた土煙越しに火球を発射した。
この攻撃に、黄龍は体を捻らせて尾を振るい、そのまま尾で火球を受け止めた。
尾は振るわれた間に水に変化し、吹き上がる蒸気と共に火球を打ち消してしまう。



グァヴウゥゥゥン・・・



やがて蒸気の壁が晴れ、大地を踏みしめて黄龍の歩みを阻む、一体の怪獣がそこにはいた。
無数の深緑色の鱗が形成している、堅牢な背中の甲羅。
深緑に加えて玄の色が混じった、小振りな尾と噴出口が付いた逞しい二本の手足。
炎にも似た紋章が刻まれた腹に、黄龍と同じ口脇の鋭い二本牙と、精悍でかつ柔和な雰囲気を持ちつつも、対峙する黄龍を全く怯まずに睨み続ける、翠の瞳が光る顔。
そう、この怪獣こそ北方守護を司る四神「玄武」にして、かつて志真達が年末年始に目撃した巨大な亀の怪獣。
その名は、ガメラ。



「ガメラの攻撃が、全然効いてない!」
「水の元素を使って防ぐなんて・・・一筋縄じゃいかないわね。」



ガメラの後方、一際目立つ傘状の大きな木が立つ広場には、心配そうにガメラを見守りながら手を繋ぐ少年と少女がいた。
夏でありながら長袖の赤いシャツと黒のロングスカートを着用し、7と3の割合で綺麗に分けられた前髪に2つの黄色い髪当てを付けた、翠にも近い黒髪が光るショートカットと大人びた雰囲気を持ったこの少女の名は、守田紀子。
彼女こそが玄武の巫子であり、手には翡翠(ヒスイ)の勾玉「玄冥」を握っている。
彼女の手を握る、ツンツンとした寝癖のような黒髪ショートの、紀子とは逆に年相応の活発そうな風貌をしているこの少年の名は、能登沢憐太郎。
紀子の幼なじみであり、同時にボーイフレンドである彼は巫子では無い、ごくごく普通の少年だ。
しかし、彼は覚醒する前の玄武を「ガメラ」と名付けて可愛がり、本来は黄龍にも似た危険な人格を持っていた玄武を子供を愛する優しい性格に変え、巫子が故に両親に捨てられた紀子を父と共に自宅で引き取り、彼女の心の支えであり続けた。
その影響があってか、彼が自身の強い思いを勾玉に込める事により、巫子と同じようにガメラへ力を送ったり、紀子の負担を軽減する事が可能になっていた。
そしてGnosis達と同じく2人もまた、年末年始に志真達と既に数奇な出会をしてもいた。



「なんとか、あの尾に止められないように攻撃できれば・・・」
「それならまず、牽制の為の攻撃が必要よ。どうする?」
「・・・じゃあ、この技だ!ガメラ!バーナーを使うんだ!」



憐太郎の指示を受けたガメラは両手を甲羅の中にしまうと、そこから黄色い熱線「バーナー」を発射した。
2つの熱線は捉えた獲物へ迫る、二匹の蛇のようなうねりの動きで素早く黄龍に向かい、黄龍の両肩を押さえ付けながら、高熱でダメージを与える。



「よし!行くよ、紀子!」
「うん!」



2人は目を閉じ、心を一つにしながらお互いの手を、勾玉を強く握る。
勾玉は緑色に輝き、その光に呼応してガメラの腹の紋章が赤く光り、全身が炎に包まれて行く。



「ブレイ・インパクトーーッ!!」



そして全身の炎が頭部に一点に集まり、その炎の全てをガメラは烈火球「ブレイ・インパクト」として発射した。
赤い筋をまといながら、火球はバーナーによって動きが封じられていた黄龍へ一直線に飛んで行き、黄龍の体に直撃した後、爆発した。



「どうだ・・・?」



言わば「必殺技」である烈火球が直撃したとは言え、2人とガメラは警戒を解かず、爆煙の先を慎重に凝視する。
しばらくして煙が晴れ、そこには「必殺技」をまともに受けたにも関わらず、無傷を保つ黄龍がいた。



「えっ・・・!?」
「私達の思いを込めたあの技を受けて、傷一つ無いなんて・・・!」



あまりの力の差に2人が怯む間に、黄龍は胸の結晶から全く同じ形をした四つの勾玉状のエネルギー体を出し、右手に移して回転させると、それをガメラに向かって投げつけた。
忍者が放った手裏剣にも似たそのエネルギー体はガメラの体を捉え、いとも簡単にガメラは倒れてしまう。



グォアアアウゥゥ・・・



「ううっ・・・!」
「紀子!ガメラ!」



ガメラの痛みが伝わり、その場にうずくまる紀子と、彼女の肩を強く持ちながら、その身を案じる憐太郎。
激痛に表情を歪めながらも、憐太郎を心配させんと、紀子はすぐに作り笑いをした。



「わ、私とガメラはまだ大丈夫・・・ありがとう、レン。」
「紀子・・・たった一撃だけなのに、なんてパワーなんだ!」
「やっぱり私達だけじゃ、かなわないのかな・・・」



ギャァヴォァァァァオォォン・・・



何事もなかったかの様に、平然とした様子で闊歩し、ガメラへと迫る黄龍。
紀子は黄龍との圧倒的過ぎる差に、絶望に打ちひしがれていた。



「・・・まだ、諦めちゃ駄目だ!」



グァヴウゥゥゥン・・・



が、憐太郎とガメラはそれでも希望を捨ててはいなかった。
ガメラはやや腰を落としながらも再び起き上がり、黄龍に向かって口からの火炎噴射を浴びせる。
憐太郎もまた黄龍から目を離さず、火炎噴射を持ってしても黄龍の歩みすら止められないこの状況を見てもなお、彼とガメラの意志は揺るがなかった。



「レン、ガメラ・・・
そうね。レンとガメラがこんなに頑張ってるのに、巫子の私が諦めたら駄目よね。だって、レンと私とガメラの力が合わされば、出来ない事なんてないんだから!」
「紀子!そうだよ、僕達の絆は誰にだって負けないんだ!紀子とガメラがいてくれる限り、絶対に!」
「「いっけぇーっ!!」」



自信を取り戻した紀子の意志が加わり、ガメラの炎の勢いは増していく。
その勢いに黄龍の足どりは鈍くなっていき、遂に黄龍の足は踏みとどまざるを得なくなった。



「レン!紀子!」
「憐太郎君!紀子ちゃん!」



更に2人の耳に聞こえて来た、自分達を呼ぶ男性と女性の声。
それと同時に、それぞれ異なる方向から、黄龍に三つの攻撃が炸裂した。
一つは閃光、一つは竜巻、一つは水流。
この攻撃に黄龍は倒れ、ガメラは火炎噴射を止めて、攻撃を行った者達の気配を確かめる。



グァヴウゥゥゥン・・・



「験司兄ちゃん!」
「蛍姉ちゃん!」



憐太郎と紀子を呼んだ声の正体は、ギザギザ頭の青年と柔らかなショートヘアの女性。
2人は憐太郎・紀子の昔からの知り合いで、同時にGnosisのリーダーである浦園験司と、サブリーダーの光蛍。
年は離れていようとも、彼らは強い信頼で繋がっており、験司と蛍の声を聞いただけで、憐太郎と紀子の心には安らぎが生まれていた。



「2人とも、大丈夫!?」
「うん。今の所大丈夫。」
「ったく、オレ達が呼ぶ前に勝手に来やがって。まぁ、お前らならやりかねねぇのは分かってたけどよ。」
「いても立ってもいられなくなっちゃって・・・ごめん。でも蛍姉ちゃんがここにもいるって事は、他のGnosisの人もいるの?」
「そうよ。それに色んな所から貴方達と一緒に戦ってくれる、仲間も連れて来てるの。」
「仲間・・・?」
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好釦