拍手短編集







「「新年、明けましておめでとうございます。」」






「参拝終わったし、早く帰ろう!紀子!寒いでしょ?」
「うん、そうね。近くに神社があって、助かったわ。」
「帰ったらお雑煮食べるぞ~!お父さん、意外と作るの上手いからな~!」
「意外に、なんて言い方したら駄目よ。お父さん、結構頑張って作ってるみたいだから。」
「そっか・・・まっ、とにかく食べるっきゃない!」



能登沢憐太郎です。
元旦、僕は紀子と一緒に初日の出を見た後、近くの神社へ早速初詣に行きました。
紀子が寒そうだったので、真っ直ぐ家に帰ったのですが・・・



「あぁっ!レン君じゃなぁ~い!」
「えっ!?」
「うそ・・・」
「なんで、おねぇ・・・」
「レンくぅ~~んっ!!」
「はわっ!ちょっと、くるし・・・」
「お帰りなさぁい!私のレン君♪お姉ちゃん、久々の帰省ですよぉ~♡」
「・・・私、おみくじ大凶だったっけ?」



こうして玄関で僕に抱き付いてる、この人を知らない人も多いかもしれないので、紹介します・・・
この人の名前は、能登沢亜衣琉(あいる)。
僕の、お姉ちゃんです。






「ごめんな、憐太郎に紀子ちゃん。亜衣琉、2人が初日の出を見に行ってから突然帰って来るって電話して来て・・・」
「そうなんだ・・・びっくりしたよ、もう。」
「うふっ。サプライズって言うお姉ちゃんからの、今年一番乗りなお年玉だよぉ。」
「お年玉なら、もうお父さんから貰いましたけど。」
「あらぁ、紀子ちゃんったら新年早々クールねぇ?それとも、私への牽制ってやつかなぁ?」
「違います。」
「まっ、レン君には別にお年玉は用意してるけど・・・はぁい、レン君♪お姉ちゃんからの、お・と・し・だ・まっ♡」
「あ、ありがとう。お姉ちゃん。」
「それ、谷間から出す必要ありますか ?」
「私ならではの、遊び心ある渡し方をしただけよぉ?紀子ちゃんにはこれからも多分出来ないやり方だけど♪」
「・・・はぁ。だと思いました。」
「ま、まぁ紀子ちゃん。亜衣琉も憐太郎に会うのは久々だから、許してあげて。」



みんなで食べるお雑煮はおいしいのに、なんか気まずいです・・・
自称「小悪魔」なお姉ちゃんは昔からとにかく僕にベタベタで、よく今みたいに抱き付いて来たり、毎日のようにお風呂に一緒に入ったり、デートとか言って近所に出掛けたりしました。
紀子と出会ってからもそれは続いて、紀子はそんなお姉ちゃんが好きじゃないみたいですが、お姉ちゃんは「年季が違う」って言って数年前に東京の大学に行くまで続けてました。
僕は・・・スキンシップは激しいけど、いつも優しくっていつでも僕の味方になってくれたお姉ちゃんが好きです。
テストで0点取っても励ましてくれたり、怖い事があったらずっと頭を撫でてくれたり、自転車に乗れるまで練習に付き合ってくれたり、僕がいじめられたって聞いたらいじめっ子の家に乗り込みかけたりして・・・
母さんが病気でいなくなってから始まったと思いますが、お父さんが言うには赤ちゃんの頃から僕にベタベタだったらしいです。
お姉ちゃんはすごくあったかくて、抱きしめられると心から安心するので、昔は嬉しかったんですが・・・



「それにしても、レン君ったらちょっと見ない間にかっこよくなったわねぇ~。でも、やっぱりまだまだ可愛くってたまんなぁい!」
「はわっ!ちょっ、お姉ちゃん・・・くるし・・・」
「・・・あの、まだ食事中ですけど?」
「私はもうお雑煮食べ終わったからぁ、次はレン君を食べちゃおっかなぁ~♡」
「冗談でもやめて下さい!」
「亜衣琉、いくらなんでも冗談が過ぎるよ。」
「分かってるって、父さん♪うふふっ、紀子ちゃんもそうムキにならないのっ。ねぇ、レン君?」
「そ、そうだよ。僕とお姉ちゃんは、姉弟だし・・・」
「・・・だといいけど。」



・・・日本女性の理想って言われてる、濡烏(ぬれば)色の長い髪。
本人曰く「G」級の、とても大きくて柔らかい胸に・・・程よくむっちりとした脚。
なんだか甘ったるくて、嗅ぐだけで気分が良くなる体の匂い。
僕をじっと見る色っぽい緑混じりの黒い垂れ目に、今にも口付けして来そうなぷっくりとした唇。
7つも年上のこんな大人の女性に思いっきり抱き付かれたら、多分今の僕じゃなくても、男ならドキドキが止まらないと思います・・・
そして、そんな僕を見たくないから紀子は不機嫌なんだと思います・・・






「紀子、またおみくじ引きに神社行っちゃったし、帰って来るまでどうしよっかなぁ・・・とりあえずバイラス超全集でも読んどこっと・・・」
「レ~ン君っ♡」
「お、お姉ちゃん!?お雑煮の片付け、もう終わったの?」
「うん、もう終わったの。だって私、早くレン君とイチャイチャしたくてしょうがなかったからぁ・・・♡」
「はわっ!」



お雑煮を食べ終わって、部屋で紀子を待ってたら・・・なんとなくこうなる気がしてたけど、お姉ちゃんが僕の部屋に入って来るや、背中に抱き付いて来ました。
うぅ・・・背中から甘い匂いとか柔らかい感触とかが伝わって来て・・・超全集を読むのに集中出来ません・・・



「あらぁ、これってレン君の好きなバイラス君よねぇ。お姉ちゃんも実は『バイラスの名は』を観に行ったの。ストーリーがロマンチックで面白かったわ♪」
「えっ、ほんと!?」
「レン君が大好きなモノだもの、もちろんよ?レン君の喜ぶ顔が見れるなら、お姉ちゃんは何でもするわぁ。」
「お姉ちゃん、昔からそうやって言ってくれて・・・僕も、嬉しいよ。」
「うふっ、ありがと・・・♪あぁんっ!そうやって照れてるレン君ったら、なんて可愛いのかしら・・・♡
ねぇ、レン君。今からお姉ちゃんと一緒に『姫初め』しなぁい?」
「ひめ、はじめ?なにそれ?」
「正月にする、すっごく喜べる事よ♪」
「な、なんかよく分からないから、ちょっと調べて・・・」
「だ~めっ。なんでも携帯で調べたら便利だけどぉ、それじゃあちゃんと覚えられないわ。自分でじっくり体験して、忘れないように頭に刻み込まないと・・・♡」
「おっ、お姉ちゃん!?なんで僕の服脱がしてんのっ!?」
「なんでって、姫初めに必要だからよぉ?」
「いやっ、やっぱり駄目だって!紀子が帰って来たら・・・」
「きっと紀子ちゃんも知らないでしょうから、あの子には実演で教えてあげましょ?さっ、力を抜いて・・・お姉ちゃんがレン君のお洋服、脱がしてあげますからねぇ・・・」
「は、はうぅっ・・・」
「よしよし、いい子ね・・・くすっ♪数年前まで一緒にお風呂に入ってたのに、恥ずかしがってるレン君が可愛過ぎてお姉ちゃん、もうたまんなぁいっ♡
それじゃあこれからお姉ちゃんと姫初め、しましょ・・・」
「・・・すみませんが、姫初めならレン以外の人と他所でやって下さい。それに姫初めは元旦じゃなくて2日にするものですよ?お姉さん。」



・・・そこに物凄く冷静で、今まで聞いた事のないくらい怖い声と一緒に、帰って来た紀子が突然部屋に入って来ました。
大事な所を見られる前で、本当に良かったです・・・



「の・・・紀子・・・」
「あらぁ、紀子ちゃんお帰りなさ~い♪紀子ちゃんったら、思いの他詳しかったのねぇ?それから良かったじゃなぁい、二回目のおみくじ、大吉で♪」

[ちなみに姫初めには姫飯を食べる、と言う意味もありますから。]






それから、僕もやっぱり二回目のおみくじを引こうと紀子にかなり強引に外に連れて行かれ、お姉ちゃんの言う「姫初め」の意味を教えて貰いました。
・・・のっ、紀子があのタ、タイミングで来てくれて、良かった・・・!!
ちなみに、二回目のおみくじは「末吉」でした・・・一回目は「中吉」だったのになぁ・・・



「あらあらっ、遊樹君と城崎君!お久し振りね♪明けましておめでとう。」
「「・・・あっ、あけましておめでとうございます!!お久し振りです!亜衣琉お姉様!!」」



家に帰るや僕は紀子の勧めで、拓斗・透太を呼んで一緒に外で遊ぶ事にしました。
玄関で久々のお姉ちゃんを見るや顔から爪の先まで真っ赤にした2人は見ていて面白かったのですが、2人が来るまで紀子がお姉ちゃんをずっと睨んでいたので、素直に喜べませんでした・・・
そこから夕方に帰って来るまで、お父さんから聞いただけなので詳しくは分からないのですが・・・紀子とお姉ちゃんはずっと、紀子の部屋で話をしていたそうです。






「・・・あの、もし私があそこで帰って来なかったら、レンと本当に『姫初め』してたんですか?」
「くすっ、それはひ・み・つ・よっ♡」
「そうですか。まぁ、二人っきりにしたら必ず何かすると思ってましたから、わざと早く帰って来ましたけど。」
「私は紀子ちゃんもしたいかな、って思ってわざとしたんだけどなぁ~。」
「まだしませんから!」
「あらぁ、そう?最近の中学生はおませさんだから、もう済ませててもおかしくないのにねぇ?」
「貴女と一緒にしないで下さい!いい機会ですから、ずっと思ってた事を言いますけど・・・貴女、何がしたいんですか?実の姉なのにレンを誘惑してばかりで・・・まさか、本気でレンの事・・・」
「そんなの、私が小悪魔なお姉ちゃんでレン君が可愛いからに決まってるじゃない。可愛さ余って、ってやつ♪それに私、こう見えて紀子ちゃんとレン君との恋を凄く応援してるのよ?紀子ちゃんなら分かってると思うけど、レン君ったら超ウブだから、まだ紀子ちゃんとは手繋ぎしかしてないんでしょ?だからレン君が積極的になってくれるように、刺激的なお手伝いを・・・♡」
「いりません!余計なお世話です!そうやって都合の良い事言って、自分の好き放題したいだけじゃないんですか?」
「・・・じゃあ、いつレン君は紀子ちゃんにキスしてくれるの?」
「っ!?」
「紀子ちゃんはいつレン君がプロポーズしてくれるのか、いつレン君がえっちしようって言ってくれるのか、分かるの?」
「そ、それは・・・」
「あのね、紀子ちゃん・・・人は、 いつまでも『そのまま』ではいられないの。そりゃ、私はいつまでも今の可愛くってピュアなレン君でいて欲しいって思うけど・・・それじゃあダメなのよ。レン君はいつか大人になって、お父さんになって・・・そして、死ぬ。美愛(みあ)母さんが死んだ時に私はそれを悟って、レン君の隣にいつまでも誰かが・・・紀子ちゃんが、いて欲しいって思ったの。
だって私は、レン君のお姉ちゃん。お姉ちゃんが願うのは、弟の幸せ・・・レン君が世界で一番大好きな、紀子ちゃんとの幸せなのよ。」
「お姉さん・・・」
「紀子ちゃんは、早くレン君と手繋ぎより先に行きたいでしょ?でも、紀子ちゃんが大丈夫でも今のレン君にはきっと無理・・・なら私は、私が出来る事をするだけ。紀子ちゃんにしか・・・私には出来なかった事の為に。」






『・・・ねぇ、あいるおねぇちゃん。』
『なぁに?レン君?』
『あいるおねぇちゃんは、ずっとやさしいおねぇちゃんでいて・・・おかあさんみたいに、いなくならないで・・・!』
『・・・うん。大丈夫よ、レン君。お姉ちゃんはいつまでも、レン君の理想のお姉ちゃんでいてあげるからね。だから、泣かないで。ほら、よしよし・・・いい子いい子・・・お姉ちゃんはここにいますよ・・・』
『えへへ・・・あいるおねぇちゃん、あったかい・・・ぼく、あいるおねぇちゃん、だ~いすきっ!』
『うふふっ。私もよ、レン君・・・』






『ねぇ、あいるおねぇちゃん!きょうもぼく、のりことおままごとしたんだよ!』
『あら、そうなんだ~。レン君、本当に紀子ちゃんと仲良しよねぇ。』
『うん!ぼく、ずっとのりことほんとのおままごとがしたいな!』
『そうなの~。ねぇ、レン君?レン君は紀子ちゃんとお姉ちゃん、どっちが大好き?』
『え~っ、そんなのおねぇちゃんがだ~いすきっ!で、のりこはだーーーーーいすきっ!!だよ!』
『・・・そう、分かったわ。じゃあ、レン君が紀子ちゃんとず~っとほんとのおままごとが出来るように、お姉ちゃんも応援するわね。』
『ほんと!わぁ~い!!ありがと!おねぇちゃん!』
『ふふっ、レン君。お姉ちゃんもレン君がだ~いすきっ、よ・・・』






「・・・なんて、ね♪そもそもレン君を本気で好きなら、レン君を置いて東京の大学になんて行かないわよ?ライバルになる紀子ちゃんがいるなら余計に。」
「確かに・・・それも言えてますね。」
「まぁ自分で言うのもなんだけど、私って顔も良くってスタイル抜群で運動も勉強も苦手じゃないから、どこへ行ってもなんでも出来るしねっ♡」


――・・・うん、私に向けて言う必要ない事だ。


「・・・でもだからこそ、私は『そんな人ならあれもこれも出来るのに』って言う、可能性や周囲の声に縛られるのは嫌なの。母さんもそうだったし、だから私は私の好きな事をする為にここを離れたってわけ。一度っきりの自分の人生、どうしたいかは自分で決めたいわ。」
「・・・それは一理あります。ですがあえて揚げ足を取るようで悪いんですけど、それってやりたくても出来ない人にとっては、無いものねだりにも見えるかもしれませんよ?」
「あら、そう?無いものねだり、ねぇ・・・だから私って、ついレン君に悪戯しちゃうのかなぁ?」
「えっ?」
「ふふっ、なんでもないわ。とにかく!そこまで言うなら紀子ちゃんにもそろそろ本気出して貰おっかな。じゃないと、私が本気でレン君を奪っちゃうわよ~♡」
「望む所です、亜衣琉お姉さん。それにこう見えて私、レンへの想いなら世界中の誰にだって負けませんから。」


――・・・ふふっ。その言葉が聞けて良かったわ。
レン君には私じゃなくて、貴女がいないといけないんだから・・・頑張って、紀子ちゃん。
レン君の事、頼んだわね・・・






僕が家に帰って来たら、何故か紀子とお姉ちゃんがちょっと仲良くなってました。
僕がいない間に何があったのかは分かりませんが、僕としては2人に仲良くして欲しかったので、良かったです。
紀子もお姉ちゃんも、何だかすごいと思いました。






「じゃあね、父さん。三が日中はありがとう。」
「うん。向こうでも体に気をつけるんだよ、亜衣琉。」
「紀子ちゃんは次来るまでにレン君とハグ、出来たらいいわね~?」
「よ、余計なお世話ですっ!」
「そ・れ・と、レン君♪次こそお姉ちゃんと『姫初め』、しましょうねぇ♡」
「へえぇっ!?そ、そそっ、そんなの出来ないってぇ!!」
「くすっ。冗談なのに本気にしちゃって、レン君ったら最後まで可愛いんだからぁ♡あと、レン君に紀子ちゃん・・・ガメラ君と一緒の怪獣退治、無理だけはしないで。お姉ちゃん、ずっと応援してるから・・・じゃあねっ♪」



そして、お姉ちゃんは3日の夜に東京へ帰って行きました。
どうやらガメラの事も、わざと話してなかったのに知ってたみたいです・・・
久々に亜衣琉お姉ちゃんに会ってみて、お姉ちゃんはやっぱりちょっといやらしくって自由人で・・・でも、綺麗で優しくていつでも僕の味方になってくれる、昔から変わらない・・・僕の大好きな、自慢のお姉ちゃんです。






「・・・レン、そろそろ私も本気出そっかな。」
「えっ?」

[うふふっ、次は春休みに行こうかなぁ♪待っててね、レン君♪]
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好釦