‐GREATEST‐応の超獣と七体の大怪獣








「おっ、到着っと。」



鏡を抜けた志真がたどり着いたのは、地平線まで広がる青い海が見える、太陽が照りつける砂浜であった。
ここは小笠原諸島・竜宮(いせみ)島。
諸島の端に佇む小さめの島で、欧州出身の元貴族「グレイス家」の一族が持つ大豪邸と、豊かな緑があるのみである。



「ここに四神がいるんだな・・・待ってろよ、ゴジラ。」


――・・・でも、よく考えたらここの何処に四神がいるんだ?
ここの住人って言っても・・・あそこくらいしか無いよな・・・?



島の持ち主がいる大豪邸を横目にしながら志真が悩んでいると、タマが志真の指輪の中に入り、志真の脳裏に直接話し始めた。



「うおっ!びっくりした・・・」


――・・・えっ、四神の場所なら知ってる?
あぁ、そうか。お前が全部知ってるんだったな。
それに見られたら大変な事になるから、指輪に入ったんだな?
まぁ俺は気にしてないから、案内頼んだぜ。



指輪をほんの軽めに叩き、志真はタマの案内を受けながら目的地へと向かった。
淡い黒の光を出す指輪が何処か、揺れた気がした。



――暑いなぁ、しかし。
そういや、ここの空気をどっかで感じた事があるって思ってたけど、ゴジラとチャイルドがいる鍵島の空気に似てるんだ。
じゃあ、ここって案外鍵島に近いのかもな・・・



砂浜を抜け、緩やかな傾斜に草花が生い茂る野道を歩き、やがて志真はある洞窟の前に辿り着いた。
入口は5mはある広めの穴だが、その中央には「立入禁止」と書かれた看板が立てられており、洞窟の上には注連(しめ)縄が張られていた。



「な、なぁ・・・本当にこの中なんだよな?」


――・・・やっぱ、そうか・・・
なんか入りずらいけど、この中に神様がいるのかって言われたら、いそうな気がするし・・・
あぁ~もう!怒られるとか、バチが当たるとか、そんなの恐れて「怪獣取材の専門家」が名乗れるか!
やぁってやるぜ!



多少やけになりながら、萎縮した気持ちを発奮させ、志真は洞窟の中へ足を進めた。
洞窟内に灯りは無く、昼間にも関わらず自分の手すらも見えない有り様だったが、「結晶」から出るタマの導きの光が、志真を先へ進ませた。



「あっ!あの先に光が見えるぞ!」



しばらく進んでいると、暗闇の先に光が見えた。
外からの光と察した志真は、洞窟の出口であろうその光を目指し、やや歩を早める。
そして数分も経たぬ内に、志真は光の元に着いた。



「よっしゃ、やっと出口が・・・えっ?」



しかし、志真に待ち受けていたのは彼の予想もしない光景であった。
ドームのように開いたその場所は灯りこそ無かったが、形成する岩壁が蛍光石と同じ原理で外からの紫外線を吸収し、光として全体に放出しており、灯りと大差無い明るさを作り出しながら、大自然のドームを神々しく照らす。
更にドームの半分は純度の高い水が溜まった池に覆われていたが、お碗のような形をしている事が分かる水底は場所によっては百m近くまで下へ続いており、もはや湖と言える深さだった。



「すげぇ・・・こんな所、日本にもあったんだな・・・」



志真はこの神秘的な光景にただ見とれ、慌ててタマが光を出して現実に戻されるまで、ここに来た目的を忘れそうになる程に志真は茫然としていた。



「・・・はっ!危なかった・・・わざわざありがとな。さて、ここに巫子がいる筈・・・」



志真が湖に近付こうとした、その時。
湖から突如、水しぶきを上げながら人影が現れた。



『ぷはぁ・・・』
「わ、わああっ!」
『ん・・・?』



驚く志真を見つつ、湖から上がって来た人影は10歳程の少女であり、黒いセミロングの髪を左右でツーサイドテールにし、均一に切られた前髪はいわゆる「姫カット」になっていた。
水着は着ておらず、ノースリーブのシャツに短パンとアクティブな服装で、色白かつ年かさの割には肉感のある体付きをしており、青い目もあってその顔は欧州人を思わせた。



『あなた、だれ?』
「え、えっと、俺は日東新聞でジャーナリストをしてる志真哲平って言うんだ。ここに『巫子』がいるって聞いたんだけど・・・何か知ってる?」
『わたしが巫子だよ?』
「えっ、君が!?」
『うん。わたし、ジュリア・R(ラント)・グレイスって言うの。』
「えっと、ジュリア、ラン・・・とりあえずジュリアちゃん、だな。『巫子』って言うからには日本人かと思ってたけど・・・」
『わたしのごせんぞさまが巫子だったからだよ。イギリスの「元大貴族」のパパと、その「分家」のママと「けっこん」して、それからずっとこの島でくらしてるの。』
「ジュリアちゃんは日本人とイギリス人のハーフなのか・・・って!大貴族とか言ってたけど、外にある大豪邸はまさか・・・」
『わたしのおうちだよ?』
「へえっ!?」



ドームに来てからだけでも何度目なのか分からない、驚きの反応を示す志真。
そんな志真の一挙一動を、ジュリアはずっと見つめていた。



『おにぃちゃん、びっくりしてばかりだね?』
「そ、そりゃ怪奇現象は人並み以上に慣れてるつもりだけど・・・そんな問題じゃないって言うか・・・そうそう、ここに来た目的を話さないと。」
『どうしたの?』
「昨日、日本にゴジラ達でも敵わなかった黄色い龍が出ただろ?俺、この指輪を使ってゴジラと話が出来るんだけど、まだゴジラは生きてるってこいつが教えてくれたんだ。それでゴジラ達を助けるには、四神の力を借りるしかないって聞いて、ここにいる四神と巫子に会いに来たんだ。」
『ゴジラ、まだ生きてるの!?』
「あぁ。地面の下で、ずっと助けが来るまで耐えてる。でも、それもいつまで持つか分からない。だから・・・ジュリアちゃん。君と四神の力を貸して欲しいんだ。」



ジュリアの手を握り、志真は彼女に懇願した。
ゴジラ達を救いたい・・・その思いが芯にこもる真剣な志真の眼差しに、ジュリアの目も吸い込まれる。



『・・・わたしなら、いいよ。』
「ほ、ほんとに!?」
『マンダもきっとちからになりなさい、って言ってくれるから。』
「マンダ・・・それが四神の名前?」
『東を守る、「青龍」のマンダだよ。ずっと昔からそうよばれてたって、会った時におしえてくれたの。すっごくやさしくって、いつもわたしとあそんでくれるの!』
「そうなんだ・・・」
『だから、わたしとマンダならだいじょぶ!けど、「つるぎ」はダメって言うかなぁ・・・?』
「『つるぎ』?」
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好釦