‐GENOCIDE‐「負」、再ビ ダイジェスト版
――この事実を持ってしても、お前達は絶望しないのか?
「当たり前だ!お前がどんだけ怪獣を復活させようが、ゴジラ達がいる限りまた地獄に送り返してやる!覚悟しとけ!」
天から自分達を見下すバガンに対し、志真は一切臆す事なくバガンを指差しながら叫ぶ。
しかし、バガンもまた一切余裕を崩す事無く逆に志真に言い放つ。
――ゴジラがどうした?ゴジラなど、平行世界に吐いて棄てる程いる・・・
例えば、別の世界に現れたこの「負(マイナス)」のゴジラなどな!
バガンは両手を胸元に持って来ると、両手の掌で見えない「何か」を握り潰し、志真達の眼前の東京湾に放り込む。
――ウジュイカ、レエガミヨ・・・
暫し後、水柱を立てて現れた「黒い影」・・・それは紛れも無く「ゴジラ」であり、志真達が知らない「ゴジラ」であった。
ゴオォグアァァァァァオオヴゥン・・・
体躯はこの世界のゴジラより一回り小さいが、珊瑚礁のように激しく角が突き出た背鰭と、異様に腿部が肥大化した両脚、左頬に付いたケロイド、そして小さくも激しい憎悪に狂った黄緑の瞳。
かつて、異世界の第二次世界大戦後間もない日本に現れ、「無(ゼロ)」から立ち直ろうとした日本人達を「負(マイナス)」のドン底に叩き込んだ、「負」のゴジラとでも呼ぶべき存在が、バガンの殺戮ゲームの「駒」の一つとして、再び現れてしまったのだ。
すると、その時。
「負」のゴジラの尾先の背鰭が青く光ると同時に突き上がり、尾から腰元へ、腰元から背中へと、段々と順序を経ながら青の閃光と背鰭の隆起が上昇して行く。
やがて段階は首元へと至り、隆起し切った背鰭は青の閃光に包まれ・・・「負」のゴジラが勢い良く息を吸った、その刹那。
隆起した全ての背鰭が、意図的に押し込んだかのように一斉に引っ込み、大きく開いた「負」のゴジラの口から、直線状の青い熱線が迸った。
熱線は湾岸線の工場郡に直撃し、展開していた戦車部隊諸共工場は蒼い業火によって塵と化し、一瞬の収束の後に拡散した爆風が工場一帯の住宅街と海原に浮かぶ船舶を飲み込み、悉く破壊して行く。
そして、灰と化した工場郡に巨大なキノコ雲が立ち昇った。
「そ、そんな・・・!?」
「なんだよ、あの熱線・・・たった一発で、あんな威力があるってのかよ・・・!」
「・・・まるで、原子爆弾のインプロージョン方式のようだ・・・確かにあの威力は、原爆並みだがな・・・」
ゴオォグアァァァァァオオヴゥン・・・
自分自身が起こしたキノコ雲に向け、負のゴジラは咆哮を上げる。
しかしその体は強過ぎる力の代償か・・・まるで被爆したかの如く熱線の余熱によって焼かれ、爛れていた。
「・・・ですが、あのゴジラも明らかに熱線の反動で傷付いています・・・自己再生能力が高いから、きっとそれを分かった上で・・・」
「まさに『諸刃の剣』、と言うわけか。」
「そこまでしてまで、あいつは自分の許せないモノ全部、ぶっ潰して来たのか・・・」
ディガァァァァァァァァオオン・・・
「負」のゴジラの後方から響く、もう一つのゴジラの咆哮。
元の世界にて、自らを海の底に葬る「海神作戦」の為に人間が自らを誘い出さんと流していた、自らの叫びの模倣が聞こえては来たが、この叫びは似ていつつも違う・・・いるかも分からない、だが密かに待ち望んですらいた、同族の叫び。
バガンの傀儡である筈の「負」のゴジラは本能からすかさず振り返り、もう一体の・・・この世界のゴジラを目の当たりにする。
本来なら交わる事の無い、異なる世界の同一存在・・・「ゴジラ」同士の対面が、現実となった。
「どうにか、あのゴジラを説得出来るでしょうか・・・?」
「しかし、あのゴジラはあくまでもバガンの傀儡に過ぎない。操り人形に言葉が通じるだろうか?」
「かもしれない。けど、俺は信じる・・・あいつの言葉は、きっと届くって。」
ゴオォグアァァァァァオオヴゥン・・・
ディガァァァァァァァァオオン・・・
・・・が、ゴジラの説得はバガンによって再びただの傀儡にさせられた「負」のゴジラには届かず、威嚇の咆哮を東京湾に轟かせる「負」のゴジラ。
ゴジラもまた、ずっと拒み続けていた同族との戦いを決意し・・・「負」のゴジラにも負けない勇壮なる咆哮を、東京湾に響かせた。
「・・・ゴジラ対ゴジラ、か・・・」
禁断の戦いが今、幕を開けようとしていた。
グルルルル・・・
東京湾を揺らし、二体のゴジラが激しく取っ組み合う。
体格ならゴジラの方が上だが、「負」のゴジラの底知れないパワーは全く引けを取らない。
ゴオォグアァァァァァオオヴゥン・・・
と、「負」のゴジラの背鰭が青く光り、尾から首へ順々に隆起して行く。
再び、あの原爆級の熱線を放つつもりだ。
「まずい・・・!ゴジラ!なんとしても逸らすか、阻止するんだ!それが当たったら、お前も東京もふっ飛んじまうぞ!」
志真のアドバイスを受けたゴジラは、「負」のゴジラにパンチの応酬を浴びせて熱線発射を阻止しようとするが、背鰭の隆起は止まってはくれず、遂に首元に達してしまう。
もはや、熱線発射まで数秒前だ。
ディガァァァァァァァァオオン・・・
「負」のゴジラが口を開き、背鰭を引っ込めて熱線を放とうとした、その僅かな瞬間。
ゴジラは渾身の力を込めて「負」のゴジラの首を掴んで持ち上げ、熱線を空の彼方へ逸らした。
それは空を超えて聳えるバベルの塔の如く、一直線に蒼穹を目指して突き抜ける熱線は青い柱となって東京湾に昇り立ち、凄まじい熱線発射の余波のインパクトに耐えながらゴジラは熱線が止むまで、「負」のゴジラの首を掴み続けた。