‐GENOCIDE‐「負」、再ビ ダイジェスト版
2013年・7の月。
それは、突如として東京湾の上空に現れた。
青空に不可思議なヒビを入れ、叩き割り・・・赤く染まった空を覆い尽くすかのように上半身を延ばした巨大な「それ」は、牛を彷彿とさせる巨大な二本の角・鼻先から伸びる一本角を頭に、長く鋭利な禍々しい突起を両肩に、剣山のような刺を背中に生やし、灰色の体と鮮血のように紅い眼を持った、悪魔のような二足のドラゴン型の怪獣・・・いや、「魔獣」であった。
『あれは・・・大魔獣・バガン!』
『先代のモスラが、その身と命を懸けて南極の地に封印した筈の存在・・・』
「えっ?それって、モスラのお母さんが死んだ原因になったって、前にモスラから聞いた・・・あのバガン!?」
――ほう・・・この世界では、五次元以上にいる私をギドラでは無く、バガンなる存在で認識するのか。
世界によって顕現する形が違う、否。五次元以上の存在をその世界にとって最も合理的な姿として観測する理屈は、本当のようだな?
――だが、今は高みの見物をさせて貰おう。あくまでも、私は「殺ス」事を愉しみに来たのだからな・・・
まずは、傀儡で遊んでやろう・・・死した怪獣と言う、バガンとしての私が最も作りやすい駒でな!
『瞬殿!沖縄に、プレシオルが現れました!』
「プレシオルが?また新たな個体か・・・?」
『・・・えっ?ちょっと待てよ!すみません、追加です瞬殿!今度は阿蘇山にメガギラスと、とにかく沢山のメガニューラとメガヌロンが!』
「メガギラス達?ゴジラが日本上陸前に倒した筈だが・・・」
『大阪府にはマジロスが、福岡県にはフォライドが・・・なっ!?群馬県にアイヴィラ出現!』
「アイヴィラ、だと!?」
『更に更に、中国にクィーンギドラ!ロシアにカイザーギドラ!アメリカにキングギドラ!それぞれに兵隊ギドラ共も一緒でぇす!!』
「ギドラ一族までも・・・一体、これはどう言う事だ!」
悲鳴にも近い、東と西から伝えられるゴジラ達がかつて倒した筈の怪獣達の再出現・・・と言う名の「蘇生」の報告は、リアリストの瞬にさえも今まさに常識外れの事態、生死の境界をも揺るがすあり得ない物事が起こっている事を理解させた。
「それと・・・志真と遥嬢がきっと側にいる中で少し報告し辛いのですが・・・」
「鹿児島の桜島に、ラドン兄弟が現れてます・・・」
「「ラドンが!?」」
グィドオオオオオン・・・
グィドオオオウン・・・
鹿児島県・姶良市の上空を高速で飛び、衝撃波で町も人も吹き飛ばして行く、巨大な赤と灰の二つの翼。
九州の地が再び、飛翔怪獣・ラドンの脅威に晒されようとしていた。
グァヴウウ・・・
岐阜を跨いでバガンの元へ向かおうとせんバランを突如として襲う、紫の業火の炎。
眼下には町がある以上、今のバランにはどうにか受け止める事しか、選択肢が無かった。
業火炎を受けて全身が炎に包まれながら、バランは神山市付近の山の麓へと落ちて行く。
「折木さん!あれ、見て下さいっ!」
「あれは・・・バラン?」
「ちょっと、なんか燃えてるわよ!?」
「・・・なるほど、『秘鷲羅神』の仕業って訳だね?」
「ひじゅらのかみ?と言うか、データベースが結論を出しちゃうの?」
「出すも何も、結論ならはっきり見えてるからね?ほら。」
神山市のある高校の「古典部」の部員が、部室の窓から麓へ墜落したバランを見る中、全身の炎を風で振り払ったバランが曇天を睨むや、バランの目線の先の雲を引き裂き、朱と黒の巨鳥が灼熱に燃える両足の爪を突き立てながら、バラン目掛けて急行下して来た。
バランの宿命の相手・・・と言うより、僻地の人々から「神」と呼ばれていたと言う点で一方的に因縁を突き付けている厄介者、「秘鷲羅神」と呼ばれし烏の怪獣・ヒジュラスだ。
ヒィジャァァァァァァラァ・・・
「・・・あれはカラスの怪獣、ですか?どうして、バラン様に攻撃しているのですか?わたし、気になります!」
「・・・俺はこれ以上の面倒事も、それに関わるのも勘弁願いたいんだが。」
カクィォォォォォォオン・・・
トラック諸島を出んとするモスラの前に唐突に発生した、激しく雷雨渦巻く嵐(タイフーン)。
タイフーンの中に「悪意」の存在を察したモスラは「アクア」体に変身し、果敢にもあえて嵐の最中へと飛び込んで行った。
クィオオオオオオン・・・
何度も電撃を受け、渦に捕らわれそうになりながら、懸命にモスラは渦を突き進む・・・が、強風に紛れてモスラがタイフーンの中に察したこの嵐の「主」が、モスラに襲い掛かった。
スヴゥゥゥドゥゥゥゥゥゥ・・・
左側の角が欠けた赤い目を持つ猛々しい顔と、猛禽類に蝙蝠の翼を生やしたかのような荒々しい鉛色の体をしたそれは、マヤの神話に登場する「死」「夜」「犠牲」を象りし冥界・シバルバーの悪神と同じ名を持つストームブリンガー(嵐をもたらす者)、カマソッソ。
バガンの手によって冥界から呼び起こされ、世界から光を消し去るべくタイフーンを広げて行く闇の化身・カマソッソは、守護神・モスラにとって絶対に看過出来ない存在であったのだ。