拍手短編集
「ん~っ、んっ!こんな青空見ながらゆっくり寝転ぶなんて、いつ以来かな・・・」
ある日の昼下がり、志真は何処かの砂浜にシートを敷き、仰向けに寝転びながらくつろいでいた。
気持ちいいくらいに晴れた青空は、見ているだけで心地が良くなりそうなものであり、大気の流れのままに動く雲を、志真はリラックスしながら見ていた。
「お前は毎日、こんな光景を見ながらのんびりと出来るんだから羨ましいぜ・・・なぁ、ゴジラ。」
そう言いながら顔を横を向けた志真の目線に、その全貌が入りきらない程に黒くて大きな影・・・ゴジラが映る。
そう、ここは鍵島だ。
グルルルル・・・
志真は体勢を崩さないままかろうじてゴジラの顔を捉え、砂浜に腰掛けるゴジラは下へ覗き込む形で志真と目線を合わせる。
それから志真のポケットから取り出された「勇気」の結晶が青く光ったのを合図に、彼らの意思疎通が始まった。
――しま、やっぱりそんなにいそがしいのか?
「忙しいなんて話じゃないぜ?休みは俺の知らない所でもう決まってるし、休みの最中だって仕事してくれって言われる事あるし。今俺がお前の所にいるのも、やっと有給が取れたからなんだよ。ほんと、いつ以来だろうなぁ・・・」
――ゆう、きゅう?
「あっ、説明忘れてすまねぇな。有給ってのは、分かりやすく言えば仕事を休んでいいって、同じ仕事してる人が認めてくれる事なんだ。お前で例えたら・・・チャイルドに特訓を休んでいいって、お前がチャイルドに言うみたいな感じ、だな。」
――・・・にんげんって、休むだけでもたいへんなんだな・・・
「まぁ、基本的に仕事しないと生きていけないのが人間だからな。お前達が怪獣と戦ってくれるみたいに、人間だって『忙しさ』って怪獣と戦ってるわけだな。」
――そいつをたおせば、しまはゆっくりできるのか?
じゃあおれが、そいつをたおしてやるよ!
そいつはどこにいるんだ?
「い・・・いや、例えたら怪獣みたいってだけだぜ?ほんとはそんな怪獣いないし、今の所は何とかできてるから、気持ちだけ受けとっとくよ。」
――そうか・・・おれも、しまやにんげんの役に立ってみたいんだけどな・・・
「何言ってんだ。お前がボロボロになってでも、悪い怪獣に立ち向かって、倒してくれる。それだけで俺達は、お前に言葉に出来ないくらいに感謝してるんだ。まだまだ人間だけの力じゃ怪獣を倒すなんて無理だし、お前を悪く言う奴はお前にバラン、モスラがいなかったらこの世界がどうなってるのか、全然分かって無いんだ。そういう奴にお前達の事を分かって貰えるように俺は戦ってるから、安心してくれよな。」
――・・・ありがとう、しま。
おれもチャイルドも、バランもモスラもしまと会えて、ほんとによかった。
「よせよ。照れくさいだろ?それにお前、結構人気者だったりするんだぞ?」
――えっ、おれが?
「あぁ。アンギラスと戦った時に出会った切也君もそうだし、キングギドラが来た時にはお前に頑張れって言ってた子がいたって、瞬が言ってたし。俺だって仕事してたら、お前の事が大好きだって子はよく見るな。」
――そう、なのか・・・
おれ、ちょっと海を泳いでただけでこうげきされたり、いたいこともいっぱいされてたから・・・おれをすきになってくれるにんげんがふえてくれて・・・うれしい。
「とりあえず、子供達はお前の味方だ。その子供達が大人になる時が来たら、もうお前達は人間から隠れる必要なんて無い。俺はもうおじいさんになってるけど、そうなっても俺は協力する。だからあともう暫くだけ待っててくれ、ゴジラ。」
――あぁ。おれもたのしみにしてる。チャイルドとにんげんがあそんでる、そんなときが。
ここにも、きてほしいな・・・
「まずはそれからだな。俺も、楽しみにしてるよ。」
[それから一時間後・・・]
――とうちゃん、ただいま!
「んっ?」
ゴジラとの会話の最中、突然入って来た声。
結晶を介しての意思疎通に入って来る以上、人間の意思では無い事は分かり、一瞬疑問に感じながらも志真は体を起こして目線を海に向ける。
――おう、おかえり。
「あっ、なるほど・・・チャイルドってこんな感じなのか。」
音を立てて海辺を走り、砂浜に向かって来たのはチャイルドだった。
手には無数の緑色の果実が握られており、どうやらこれが島を出ていた目的だったらしい。
志真は結晶を使い、チャイルドに意思疎通をしてみる。
「よっ、チャイルド。」
――あっ、にいちゃん!
こんにちは・・・って、なんでぼくのあたまのなかにきこえるの?
――それはな、しまがおれたちと話せるようになったからなんだよ。
はるかだって、おれたちと話せるだろ?
――そうなんだ~!
よかったね、にいちゃん!
「今まで一方的だったから、俺も良かったよ。ところで、手に持ってるそれって・・・?」
――えっとね、これ、ちょっととおいところからとってきたんだよ!
はじめていくとこだったけど、こわいかいじゅうがいなくてよかった!
――それ、食べてみたか?
前みたいに、たおれそうなくらいまずいのはかんべんだぞ?
――だいじょうぶ!
ちゃんとたべてみて、おいしかったもん!
「前みたいな?前に何かあったのか?」
――前にチャイルドがとなりの島に行った時に、へんな実をもってきたんだ。
それでたべてみたら、ものすごくまずくて・・・それになんか、あたまがいたくなって、たおれちゃったことがあって。
「そ・・・それって、ほんとにまずいだけなのか・・・?まぁ、それなら疑っても仕方ないよな。」
――でも、たべてみたんだったらだいじょうぶだよな。
じゃあ、いっこもらうよ。
――うん!どうぞ!
チャイルドから数十個程度の果実の塊を受け取ったゴジラは、チャイルドの期待の目を受けながらそれを口に入れる。
口の中で果実を潰し、その味を感じながら潰した果実を喉へ飲み込んだ。
――・・・う、うっ・・・
「う・・・?」
――う・・・うまい!
これ、すごくうまいじゃんか!チャイルド!
食べる前の少しの不安を吹き飛ばす程の果実の味に、ついゴジラはその場で飛び跳ねた。
その振動に砂浜が揺れ、チャイルドにはどうって事の無い震度でも、志真には突然地震が来たような感覚であった。
「う、うおっと・・・!そ、そんなに美味かったんだな・・・」
[そこのにんげんさんも、たべてみる?]
夕刻、志真の帰る時間がやって来た。
既に志真は水上バイクにまたがっており、その後ろにはゴジラとチャイルドが志真を見送らんと立っている。
――にいちゃん、もうかえるの・・・?
「俺だってもっとここにいたいけど、俺にも仕事があるから・・・でも、また来れたら来るから、それまでいい子にしてるんだぞ。」
――うん・・・
ぜったい、またきてね!
やくそくだよ!
「あぁ。今度は、瞬や遥ちゃんも連れて来たいな・・・あっ、そういやゴジラに聞き忘れてた。」
――どうしたんだ?
「当たり前になってたから、ずっと聞くのも忘れてたんだけど・・・何でお前は、人間の為に戦ってくれるんだ?チャイルドと出会う前だって、俺や他の人達を助けてくれたし・・・どうしてなんだ?」
――・・・はじめておれをちゃんと見てくれたのが、しまだったから。
さいしょはあいつを、バランを止めないとってかんじだったけど、しまはおれからにげずに、おれを見てくれた。
だからしまはぜったいに助けたいっておもって、それがにんげんを助けたいってきもちになったんだろうな。
それにひとだすけに、りゆうはいらないだろ?
――とうちゃん・・・
「・・・そうか、そうだよな。お前はいつだって、そういうやつだったよな。そんなの、俺が一番知ってる筈なのに・・・お前の親はまだ分からないけど、お前がそういうやつに生まれてくれて、良かった。」
――・・・ありがとう、しま。
しまにそう言ってもらって、おれもうれしい。
「どういたしまして。じゃあ俺、そろそろ行くよ。俺も明日から頑張るから、怪獣が来たら頼むぜ。」
――まかせてくれ。しまもみんなも、おれがまもってみせる。
――ぼくも、いつかとうちゃんとたたかうからね!
まっててね~!
「待ってるぜ、チャイルド。じゃあな~!!」
ゴジラとチャイルドに力強く片手を振り、志真は夕日の彼方へと去って行った。
改めて互いの思いを伝えあった両者の表情は、とても晴れやかとしていた。
ギュオオオオン・・・?
グルルルル・・・
「いつか、絶対・・・な。」
ディガァァァァァァァァオオン・・・
[にんげんさん、またあおうね~!]