アキキャン△











zzz・・・









「ん・・・ううんっ・・・」



翌日の早朝。
東の空が明るくなり始めた頃、あたしはスマホのアラーム音で目を覚ました。
眠気眼を擦り、テントから出て流し台で顔を洗って、毎年朝日を見に行っている穴場スポットへ向かう。
他にも朝日が見えやすいスポットはあるが、あたしは毎回ここに行く。
きっと誰も知らない・・・あたしだけの場所。
すぐ近くの小山の頂上より少し下、昔は立派な大樹だったのだと分かる大きな切り株が目印の、林の中の少しだけ開けた所に。






「・・・わぁ・・・!」



木々の中で1人、空が晴れて行くのを待ち・・・やがて山の天辺から、朝日が姿を現した。
水平線から見える朝日も、雲の中から見える朝日も美しいが、あたしは山から昇って来る朝日の姿が一番好きだ。
障害物を陽光で覆い隠しながら、夜空を照らす太陽・・・そんな太陽を見ると、新しいあたしの一日が始まるのだと思えるし、単純にこの朝日そのものが美しい。
見ているものは一緒の筈なのに、いつも町で見る朝日より自然の中で見る朝日の方が、胸に染み入って・・・キャンプに来て良かったと、心から思える。
「命の洗濯」、と言う言葉があるが・・・今この時が、そうなのかもしれない。






「~♪」



朝日が登りきり、テントに戻ったあたしは朝食にする事にした。
フライパンに油を引き、卵を4個入れて塩をサッと振り掛け、箸でかき混ぜながらガスコンロで焼き・・・一度ひっくり返して箸で卵を崩し、全体的に程好く焼けたら、皿に移す。
朝食の定番、スクランブルエッグだ。
加えて、持参したホットドッグ用のパンとハムを用意し、眠気覚ましと朝日を待っている内に冷えた体を温める為の、ヤカンで沸かしたお湯で作ったブラックコーヒーを添えて・・・



「・・・いただきます。」



・・・うん。やはり朝に食べる、焼きたてアツアツの卵は美味しい。
料理自体は家でも作れる定番のメニューぁが、朝日の日差しで暖まりつつもひんやりとした、澄んだ自然の空気の中で食べれば尚更美味く感じる。
混ざり合った濃いめの味の黄身と薄い味の白身が生み出す、シンプルな味わいと食感のスクランブルエッグに、塩が効いて・・・いつ食べても、美味しい。
更にこのスクランブルエッグを、パンにハムと一緒に挟んで・・・これまた、うまい。
柔らかなパンと、歯応えの良いハムの味わいがプラスされて、普通にスクランブルエッグを食べた時とはまた違う美味しさで、口の中が満たされる。
パンに卵焼きやハムを挟むだけで、何故こんなに美味しさが増すのだろう?つくづく、パンは不思議な食べ物だ。
苦く温かいコーヒーも良い・・・全身に熱が伝わって、体が目覚めて行くのが分かる。
ちなみに、あたしは卵料理なら半熟よりも「完熟」の方が・・・んっ?そう言えば、ちゃんと煮えた・焼けた卵をどう表現するのか、まるで聞かないな。
半分熟した状態を「半熟」と言うのなら、全て熟した状態なのだから「完熟」で良い筈だが・・・どうも、しっくり来ない。
「完熟」と聞くと、どうしてもりんごやトマトと言ったフルーツや野菜が浮かんでしまう・・・だからと言って「成熟」は、恐らく違うだろうし・・・
帰宅したら、ちゃんと調べてみよう。



「・・・ごちそうさま。」







朝食を食べ終え、荷物やテントの片付けに入る。
設営がキャンプをしていると思わせてくれる時間なら、片付けはキャンプが終わるのだと思わされる時間だ。これが終われば、後は帰るだけ・・・
初心者や片付けが面倒な者なら、早く終わって欲しい時間だろうが、設営すら楽しむあたしにとっては片付けも設営とさして変わらない。
ただ違うのは、寂しさを感じる事くらいか・・・そう色々と考えている内に、粗方片付けが終わった。
あとは幾つか出たゴミを捨て、バイクに荷物を詰め込んで、管理室へ行って管理人に挨拶をして・・・名残惜しいが、あたし自身への「ご褒美」の終わり、キャンプ場を去る時が来た。
今年中にまた来るかもしれないが、他に行ってみたい所も幾つかある以上、次に来るのは来年になるかもしれない。
それでも、来年になったら必ず行く事は間違いない。ここがある限り。
これは、あたし自身への・・・約束だ。



「また来て下さいね。我々はいつでも、お待ちしていますよ。」
「はい、必ず。」
「それでは、四ツ葉さん。ご利用、ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそありがとうございます・・・お世話になりました。それでは。」



かつても、これからも。
あたしに最高の時間と空間をくれる、このキャンプ場に・・・今はさようなら。
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好釦