アキキャン△







夕食を済ませ、洗い物と後片付けを済ませたあたしはローチェアに座り、タブレットでドラマを見る事にした。
これこそが、あたしにとってのキャンプの一番の楽しみだと言っていい。
大自然の中で、何者にも阻まれずにじっくりと好きなドラマを見る・・・至福の時だ。
別に、1人の方が好きな訳では無い。あたしにはチハル、トウカ姉、フウナ姉、みく、マサコお婆様、ハルカ・・・そしてヒロフミがいなければ、きっとまともに生きていられなかったのは間違い無い。
人間、1人だけで生きてはいけない・・・それが身を持って分かるからだ。
そもそも1人が好きなら、学校で部活や運動部のピンチヒッターなんてせず、真っ直ぐ家に帰っているし、誰かと繋がりたくないのなら、他人を助けたりはしない。
それでも、自然の中でただ1人・・・あたしと言う存在だけを感じる時もまた、あたしには必要なのかもしれない。
「キャンプはわざわざ不自由になりに行く行為」と聞くが、きっと不自由の先に自分だけの自由がある・・・
見ているだけで心が穏やかになる、パチパチと音を立てながら緩やかに燃える焚き火を見ながら、あたしはそう思った。






・・・さて、何を見ようか?
新エピソードに入った「風都探偵」か、もうすぐベイオネット編が終わりそうな「特捜課物語」か、それとも「スペース「G」」の正体が判明するらしい「Researchers File」か・・・いや、これにしよう。






『ハリーアップ!!ロボット刑事隊だ!』



毎週日曜朝7時から放送している、特撮ドラマ「ロボット刑事隊 J-コップ」。
チハルにひどく推されて、見てみたが・・・子供向けの作品ながら、中々面白い。
少年・ヨンがロボット刑事達の隊長になり、数々のロボット犯罪を取り締まって行く・・・と言う内容だが、警察絡みの描写なら多少五月蝿くなるくらいに刑事ドラマを見ているあたしが舌を巻く程に、各描写にリアリティがある。
だからと言って難解に感じたり、ストーリーがシリアス過ぎる事も無く、子供でも見易い作風なのは、拍手を送りたいくらいだ。
ただ・・・直接的では無いものの、油断ならない描写も少なくない。
警察の腐敗を容赦なく描いたり、犯罪者の中に明らかなサイコパスがいたり、犯罪組織「フルーティーズ」のリーダーのクイーン・メロンノが性的暴行を受けた事があるような描写があったり・・・
勧めて来たチハルは「深夜32時台特撮ドラマには、よくある事ですわ!」と、よく分からない事を言っていたが・・・恐らくは「大人になれば分かる」、と言う思惑なのだろう。
押し付け過ぎるのも問題だが、そんな要素が少しはある作品の方が、大人になっても記憶に残るものだ。
そんな「J-コップ」の今日の話は・・・「殺ス者」・レリックからの挑戦状に、ロボット刑事隊が「事務所」と共に挑み、更に怪盗「我来也」まで乱入する三つ巴戦か。これは面白そうだな・・・






幾つかドラマを見た後、タブレットをしまったあたしは夜空を見上げる。
何度も来ているのに、本当にここは大阪なのか?と毎回思ってしまう。それだけ能勢の夜空は星々が輝いていて、美しい。
焚き火と風と、川の流れる音しか聞こえない中で見る星空・・・今、あたしはたった1人で大自然に、原始の時代に還っているのだと、心底思える。
これこそが・・・キャンプの真骨頂なんだ。



「・・・はっ、流れ星・・・!」



と、流星群が来る時期でもないのに、一筋の流星が見えた。
あたしとした事が、気を緩めていたので願いを掛ける暇が無かったが・・・願いは自分で叶えるものだから、別に構わない。
ただ、叶えて欲しい願いがあるとするならあたしは四ツ葉家のみんなの、ヒロフミが健康に過ごしてくれる事を願う。こればかりは、あたしには出来ない事だ。
・・・だから、あたしが本当に叶えたい願い・・・ヒロフミの花嫁になる願いは、あたし自身で叶えてみせる。絶対に。



「・・・」



・・・なぁ、ヒロフミ。今だけでも、夢見ていいか?
お前の花嫁になって、お前と毎日他愛の無い日々を過ごして、お前の子供を生んで母親になって、お前と一緒に年老いて行く、あたしの未来の姿を・・・






「よし、消えたな・・・」



ひとしきり星空を眺めた後、夜9時過ぎに焚き火をしっかりと消し・・・テントに入って寝る事にする。
今日は出発が早朝だったし、明日は朝日を見る為に早起きをする予定がある以上、確実な睡眠時間の確保の為にもそろそろ寝なければならない。
それに・・・自然に瞼(まぶた)が、下がり出して来た。このタイミングで寝れば、すぐに快眠出来るだろう・・・
そう言うわけで・・・



「・・・おやすみなさい。」
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好釦