アキキャン△







「・・・?」



それから、食後の運動がてら秋の自然を感じたくなって、キャンプ場の各地を探索していると、その途中で明らかに助けが必要だと分かる男女2人組がいた。



「な、なんで火が全然点かないんだ!?こんなに着火材を入れたのに・・・!」
「いいから早く点けてよぉ~!私お腹空いたぁ~!」
「ま、待っててよ元気ちゅぁん!今すぐ付けてあげるから・・・」



どうも、焚き火台の火が中々点かずに困っているらしいが・・・焚き火台の中を見て、すぐに理由が分かった。
黄色のペアルックを着ている事から、一目でこの2人がカップルだとも察し、あたしが口出しすれば男の方の立場が無くなるかもしれない、とも思ったが・・・初めてヒロフミと出会った「あの日」から全身に染み付いた、もはや特技の一つに数えている「人助け」精神には、逆らえなかった。



「・・・少し、いいでしょうか?火が点かない原因は、着火材の入れ過ぎです。こんなに敷き詰めたら、逆に火は点きません・・・だから、こうして代わりに木の枝を敷いて火を点けると・・・この通り。」
「「つ、点いた!!」」
「着火材はこれだけあれば大丈夫ですが、不安なら入れ過ぎないよう、適時着火材を追加して下さい。」
「あ、ありがとう!なんとお礼を言えばいいか・・・!」
「礼には及びません。キャンプは助け合いですから。それでは。」



・・・まぁ、このまま楽しいキャンプで無くなってキャンパーを止めたり、最悪破局するより余程良い。
あたしが同じ立場だったら、内心助けて欲しいと思うし・・・お前も、きっと同じ事をするだろう?ヒロフミ。



「あぁ、おっしゃる通りだわぁ・・・!」
「女の子、だよな?なんて立派なんだ・・・俺も男として、なんか情けないな。」
「イケメンで優しいのね・・・嫌いじゃないわっ!」
「げ、元気ちゅぁん!?」






思っているより探索に夢中になってしまい、日が沈み始めた昼過ぎ頃に自分のテントへ戻って来たあたしは、アウトドア用の折り畳み式のローチェアを広げ、自分の焚き火台に火を点ける事にした。
予め用意した、ナイフで木の枝の先端を羽毛のように加工した「フェザースティック」・・・これさえあれば、着火材もあまり必要無い。経費削減とエコロジーを両立した、いいアイテムだ。
そう言えば、初心者の頃はよく着火材か松ぼっくりを使っていたな・・・特に松ぼっくりは、傘が開いていて湿っていなければよく燃えるから、今でも時々使う事がある。優秀な自然の着火材だ。
ただ・・・「コンニチワ」とは言わないか、流石に。あのアニメを見せてくれたトウカ姉には、感謝だな。
焚き火がしっかりと燃えた事を確認し、アルミホイルで包んだサツマイモを一つ、焚き火の中に入れ・・・おやつの準備をする。
一時間は掛かるので、その間はローチェアに座って晴れ晴れとした青空を見上げ、ただ無心になって頭をリフレッシュさせ・・・スマホのタイマーで我に返ったら、トングで焚き火の中のサツマイモを取り・・・あたしの今日のおやつ、焼き芋の完成だ。
軍手を付けてアルミホイルを剥がすと、湯気が湧き出て来た。ちょうどいい焼き具合だな。



「・・・ほふっ、ほふ・・・」



皮ごと口に頬張ると、火傷しそうな熱さと・・・ホクホクとしたサツマイモの甘味が、一気に口の中に広がった。
秋の味覚は多種多様だが、その中でも焼き芋は秋の味覚の代表格であると思っている。
お手軽さと美味しさを兼ね備えた、昔ながらの良さに満ちた一品だ。
キャンプをすれば焚き火をする機会も多いし、焚き火で焼くなら他の野菜を焼くのも良いが・・・やっぱり、焚き火を使って一番「映え」るのは焼き芋だろう。
これもまた、「千古不朽」・・・昔から良いと思えるものは、今でも良いものだ。






「さて、と・・・」



あっと言う間に焼き芋を食べ終え、今度は体を休ませる為にローチェアに座って仮眠を取り・・・太陽が完全に沈んだ夜。
暗がりの中であたしは目を覚まし、腹の虫が鳴る前に鞄から机と調理道具を出して、夕食にする事にした。
今回の料理は、ご飯とサイコロステーキを炒めた「サイコロステーキ炒飯」とミネストローネだ。
まず、半分程水を入れた鍋にパックご飯を2つ、レトルトのミネストローネの袋を1つ入れ、ガスコンロで約30分煮る。
十分煮えたら鍋を外して、10分程蒸らし・・・その間にフライパンで市販のサイコロステーキを炒め、塩コショウ等の好きな調味料を適量入れて味を付けながら、火を通す。
サイコロステーキが焼き上がる少し前に一旦火を止め、パックご飯を開封してフライパンに入れたら再度火を付け、調味料を適量入れつつ一緒に炒め・・・皿に盛り付け、完成。
この「サイコロステーキ炒飯」は、あたしがキャンプを始めた頃から作っているキャンプ飯で、キャンプ飯に限らず様々な料理が出来るようになった今も時々作っている、あたしの自慢の料理だ。
趣向を凝らしたり、店の料理とは違うキャンプ飯感を出す料理を作る者も多いが、こうしたシンプルイズベストな料理も良いとあたしは思う。
たとえカップ麺でも良い。自然の中で食べると言う行為が、きっとスパイスになってくれるのだから。
パックご飯と一緒に温めたミネストローネを、カップに移し・・・夕食の準備、完了だ。
さて、冷めない内に・・・



「いただきます・・・」



・・・うん。やはり、美味しい。
サイコロステーキの油っこさを、ご飯がマイルドにしながらもっちりとした食感で包み込み、その中で塩コショウが効いたサイコロステーキの、ジューシーな肉厚さが弾けて・・・体が満たされて行くのが、はっきりと分かる・・・
釜で直接炊いたご飯なら、もっと美味しいかもしれないが、最近のパックご飯も普通に炊いたご飯に負けない品質の物も多いし、電子レンジが無くとも熱湯で手早く調理出来るのも魅力的だ。時短によって、この後のフリータイムの時間が増えるからな。
最初は調味料を入れ過ぎて味が濃過ぎたり、ご飯やサイコロステーキに火が十分通っていなくて、ご飯が固かったりサイコロステーキが生っぽくなってしまっていたが・・・キャンプ飯が上手く作れるようになったのも、自分の成長の証だと思える事の一つだ。
昼に食べた野菜炒めとは一味も二味も違う、トマトの味が野菜にしっかりと染み込んだミネストローネも、サイコロステーキ炒飯と良く合っていて、あたしの体を温めてくれる。
外もすっかり夜になり、空には無数の星の光が輝き、周囲にも他のキャンプの灯り以外に何も見えなくなって来た中で、ランタンの明かりの隣で食事をする・・・最高の食事だ。
ちなみにあたしは極力ゴミを出したくないのもあるが、キャンプ飯は自分の皿と箸を持参して食べると決めている。
この蒼色の皿と箸とカップとも数年の付き合いで、これを見ればこれまでのキャンプ飯の失敗も成功も思い出せる。あたしのキャンプ仲間のような存在だ。
これからも、宜しく頼むぞ。



「・・・ごちそうさま。」
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好釦