アキキャン△







「ふう・・・」



テントの設営と荷物の整理が終わった後、流し台から水道水を1リットルタンクに入れておき・・・準備作業が一息付いたあたしは、こちらも毎回行くキャンプ場内の露天風呂に入る事にした。
設営で少々汗を掻いたし、キャンプ中に入る温泉は秋頃が丁度良い。
夏は外が暑くてまた汗を掻いてしまうし、冬は逆に外が寒過ぎて湯冷めしやすかったりと、温度差に困る事がある・・・まぁ、夏は夏で暑さによる汗を洗い流せるし、冬の寒い時こそ熱い温泉に入りたい、と言うのも事実だが。
ちなみに、あたしがテントを離れる時はスマホと財布以外の物は全て、特注の旅行鞄に入れた状態にしている。
あたしが帰って来るまでにあの鞄の全12桁のロックを解除する、もしくは破壊する事は不可能に近いからな。
何よりも、あたしから物を盗むなどと言う愚か者は地の果てまででも追い、捕らえ、然るべき場所に突き出し、反省させる・・・絶対に。



「・・・」



・・・それにしても、比較的バストサイズがあると言われるあたしが言うと、もしかしたら嫌味に聞こえるかもしれないし、女のあたしが言うのも変かもしれないが・・・最近の同世代の女子は、あたし以上のバストサイズを持っている者が多いように見える。
あたしは各種スポーツをしている都合、胸が大きくても邪魔になるだけで、特段大きい胸が欲しいと思った事はあまり無い。
フウナ姉も、スポーツマン特有の引き締まった綺麗な身体だからこその形の良さがある、と素直に羨望の目でよく見ているし・・・ヒロフミも、胸の大小はあたしの女としての魅力には関係無い、と言ってくれたから。
だが、それでも世間は正直にまるでアニメに登場する女キャラのような、顔は可憐で胸は大きい女を現実に求めている・・・と言う結果を示しているのが、あたしが言う最近の同世代の女子なのだろう。
肩が凝りやすい、激しい運動をすれば揺れて筋肉が裂ける事もある、ワンピース等を着るとスカートの前方が上がって不恰好になる、周囲の男から邪な目線を向けられる、セクハラや性被害にどうしても遇いやすい・・・と、デメリットばかり目立つ筈なのだが・・・それでも絶対的な「魅力」を得られる、と言う事なのだろうか?
まぁ、言われてみればトウカ姉が学園で男子9割から支持されていると噂がある程の人気があって、あたしも羨む程に女として魅力的に感じるのも、あの見て分かるアニメ体型なのも一因かもしれない。
本人も自慢に思っているし、あたしがもし男だったなら・・・トウカ姉に惹かれるだろう。
それにトウカ姉だけで無く、ああ見えてあたし以上のサイズのチハルや、女子高生の平均身長程度ながらあのサイズのフウナ姉も、もっと苦労しているのだろうな・・・



「ねぇ、見てあの人・・・なんか、超かっこよくない?ほんとに女かな?」
「こらこら、この温泉は混浴じゃないわよ~?」
「何より、あのふつくしいカラダとお乳が目に入らぬかっ!」
「そうよねぇ~。でも、胸もだけどお腹も脚も程よく引き締まってて、身長も高そうで・・・イイッ!」
「あれ、あんたってそっちの気あったっけ?だから彼氏とも全然・・・」
「違うから!ただ羨んでるだけだから!」
「まー、確かにそこいらの男より、ああ言う女の人の方が惹かれるとこあるよねぇ♪」
「わかるわかる!正直、うちの彼氏と比べて・・・」



・・・そして、ああして毎回毎回あたしの顔や身体を見ながら、自分か知人か有名人と比較する人が、必ずいる。
悪く言われた事はあまり無いし、日々のトレーニングで作り上げたあたしの身体を褒められるのは、少し嬉しくはあるのだが・・・時々そのまま話し掛けて来たり、口説いているのか?と疑う程に迫って来る者もいるのは・・・正直、対応に困る。






「ん・・・ぷあっ。」



露天風呂から上がって、売店で瓶ラムネを買って飲む。
ラムネは大好きでいつも飲んでいるが、風呂上がりに飲むラムネは格別だ。特に、露天風呂からのラムネは病み付きになる美味しさがする・・・
古臭いと言われようと、「千古不朽(せんこふきゅう)」・・・良いと思えるものは、いつまでも変わらないのだとあたしは返す。
「真理」を定義するとするならば、「悪が栄えた試しは無い」と共にこの言葉を定義したい、そう思うくらいに。






「すみません、『のせのせラーメンセット』を一つお願いします。」



最高の気分のままラムネを飲み終わったあたしは、露天風呂の隣にある売店で昼食を食べる事にした。
能勢の名産品である猪肉が入った味噌ラーメンと、能勢で採れた新鮮な野菜を使った野菜炒め、そして能勢原産の栗「銀寄栗」の栗饅頭がセットになった、これを頼めば能勢の食を存分に堪能出来る「のせのせラーメンセット」。
あたしがここに来たら必ず頼む、定番メニューだ。



「いただきます。」



・・・うん。いつ食べても変わらない、ハズレの無い美味しさだ。
赤身は豚肉に似ていながら豚肉より深い味わいと弾力があり、脂身はさっぱりとした甘味でしつこくなく、とても食べやすい・・・そんな猪肉だが、普通に煮るとどうしても臭みが出てしまう。
その臭みを打ち消す濃厚な味噌が、シンプルな味わいのあるつるりとした麺と、ざっくりとした食感の白菜と共に絶妙な旨味を与えてくれていて、箸が止まらなくなるくらいに美味しい。
合間に野菜炒めを食べて・・・シャキシャキとしたキャベツ、パリっと歯応えのある人参と玉葱、しっとりと柔らかいチンゲン菜、少しぬるりとした食感が口に広がるピーマン・・・この野菜炒めには、多彩な美味しさが詰まっている。
栗饅頭も・・・滑らかな舌触りがして、美味しいな。「銀(お金)を寄せてくれる」と言う理由で「銀寄栗」と名付けられたのも頷ける。
間違いなく、この料理を食べるのもここにキャンプをしに行く理由の一つになっているし、良い食事にはこれから過ごす時間を良くしてくれる力がある。あたしはこの最良の料理を食べながら、そう思った。



「ごちそうさまでした。」
「いやいや、毎年食べてくれてありがとうね、四ツ葉ちゃん!まいどあり!」



あっと言う間に完食し、皿を返して売店を出る。
毎年食べるものだから、厨房の人達にも顔と名前を覚えられてしまった・・・まぁ悪い気はしないし、いつも素晴らしい料理を提供してくれているのだから、あたしがお礼を言いたいくらいだ。
しかし・・・「お浄&るりりん」、最近は人形浄瑠璃をも萌えキャラにしているのか。何でもありと言うか、ユニークな発想と言うか・・・能勢の活性化に繋がるのなら、あたしは一向に構わないが。
3/7ページ
好釦