アキキャン△











「・・・さて、そろそろ行くか・・・」
「アキミ、おはよう・・・」
「ヒロフミ?おはよう・・・無理して起きなくても、良かったんだぞ?」
「いや、一回くらいは見送りたいなって思ってたから・・・気をつけて、いってらっしゃい。」
「・・・ありがとう。じゃあ、行ってくる。」






ある秋の日の土曜日、まだ太陽が登り始めたばかりの肌寒い朝。
これからあたしは、月一回の自分への「ごほうび」・・・キャンプへと向かう。
キャンプ道具を後ろに詰め込んだ、あたしのキャンプの相棒・・・HONDA・CB250のダークブルーのバイクと、あたしが世界で一番愛している人・・・ヒロフミからの温かい言葉と共に。






「・・・あの山、紅葉が綺麗だな。今度、行ってみるか。」



バイクで風を切りながら走る、この目的地までの移動の時間も、ある意味キャンプの醍醐味だとあたしは思う。
体を伝う風の感覚も、まだ開いていない道の駅の自販機で買う眠気覚ましの缶コーヒーの味も、いつも使う通路の横目に見る川沿いの秋桜(コスモス)も、全てがあたしは今キャンプをしに行っているのだと、思わせてくれる。
キャンプは夏に大人数でするもの、と言う声も聞くが、やはり暑過ぎず少し寒いくらいの秋の頃のキャンプが、あたしは一番好きだ。
あたしがソロキャンプ派なのもあるだろうし、グループキャンプにも違う良さがあるのは分かっているから否定はしない・・・姉妹達やヒロフミと一緒にしたキャンプも、とても楽しかったから。
それでも・・・あたしは、ソロキャンプが一番好きだ。






「おやおや、今年も四ツ葉さんが来る季節になりましたか。今年もご利用、ありがとうございます。」
「はい。今年も、お世話になります。」



数時間して、あたしは大阪・能勢のとあるキャンプ場に到着した。
ここはあたしがキャンプを始めた中学一年生の頃から、何度もお世話になっているキャンプ場で、今やスタッフの人々に顔と名前を覚えられている程だ。
「お嬢様」と言われる立場ではあるが、湯水のように金が使える訳では無いし、金を使えば良いと言うものでも無い。
場所にしろ、道具にしろ、自分に一番合っているか・・・それが、最も重要だと思う。
だからあたしは、このキャンプ場で普通のキャンプ道具を使うキャンプが、一番合っていて好きだ。
キャンプ、と言うより大阪の場所なら能勢は良い・・・ここにいると、ありのままの自然や空気感を強く感じられる。
そんな場所でするキャンプは、言うまでも無く最高だ。






キャンプ場に入り、ここに来たら必ずここをキャンプ地にすると決めている場所を目指す。
川沿いで林が近くにあって、見上げれば空一面の星空がよく見える、最高の場所だ。
しかし、本当にこのキャンプ場は良い場所だ・・・トイレや水道があるのは当然として、敷地面積は甲子園ドームの約4倍の広さで、焚き火用の薪も無料で、電波もちゃんと通っているし、露天風呂や売店もある。
半世紀前から存在するキャンプ場ながら、至れり尽くせりだ。



「・・・あっ。」



・・・が、今回は先客がいた。
キャンプの設営に苦労している所を見るに、初心者のキャンパー達だ。
まぁ、あの場所はあたしだけのものでは無いし、むしろあの場所は初心者でも良い場所だと思う場所・・・それだけだ。
残念だが、あの場所でのキャンプは次回の楽しみにするとしよう。



「・・・あたしの代わりに、キャンプを存分に楽しむんだぞ?」






数分程川の上流へ進んで行き、いつもの場所に極力近い配置のこの場所をキャンプ地として、吊り下げ式テントの設営を始める。
まず、ペグを打ち込んでシートを固定し、フレームを組み立ててシートに通して広げて、入り口をロープで固める・・・
このペグ打ちも、最初の頃は慎重に作業し過ぎて時間が掛かったり、どうしても手に当ててしまったりしたが・・・今は、全く無い。これが「成長」と言うのかもしれないな。
「設営」も面倒な作業と言う人が多いが、この先の自由な時間を楽しむ為の工程・・・醍醐味とまでは言わないが、今あたしはキャンプをしている・・・と、思わせてくれる作業なのだと、あたしは考えている。
入り口が川沿いから見て、風下に来るようにして・・・よし、設営終了。目標時間の15分以内に出来たな。
キャンプ場に立派に建つ、あの無限に広がる青い空のような青と白のコントラストのテントを見れば、あたしだけのキャンプが始まったのだと感じられて、自然と笑顔になる。
さあ・・・あたし自身への「ご褒美」の、始まりだ。
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好釦