the After 「G」 ~「G」が導く明日~
「えー、会場にお集まりの皆様・・・本日はお越し頂き、誠にありがとうございます。司会は私、ジャバンテレビ所属のアナウンサーのホニャララが務めさせて頂きます。宜しくお願い致します。
それでは、本日の主役にご入場頂きましょう!まずは新郎から、どうぞお入り下さい!」
そして司会者・ホニャララがそう言うや、会場が暗転し・・・ファンファーレと共に開いた入り口の扉から、漆黒の礼服を着た男性が入場した。
彼の名は、桐城健。
ゴジラや仲間達と共に10年前の2009年、人工知能「I‐E(インテリジェンス・オブ・エマーソン)」及び、絶対悪魔・ガダンゾーアとの戦いを終わらせた「伝説の元喧嘩番長」であり、長岡市の大学卒業後にG対策センターに入り、現在未希と梓の推薦でアドノア島の観察員となっている。
「全く、何年待たせるんだって話だな。まぁその分、絶対幸せになれよ・・・!」
「私はただ、この時が来てくれた事が嬉しくて嬉しくて・・・幸せになってね、健。」
「あぁ、勿論だ。ここまで俺を育ててくれて、本当にありがとな・・・父さん。母さん。」
健は祝いの拍手と共に威風堂々と聖壇へと歩いて行き、両親の桐城研護・和美夫妻が目に涙を浮かべながら呟いた自分へ祝辞に、足を止めて返す。
暫しして健は聖壇に着き、やや緊張しながらも凛とした表情で新婦の入場を待つ。
「続けて、新婦のご入場です!」
少しの間を置き、純白のウェディングドレスを着た女性が両親と共に入場した。
女性の名は、手塚みどり。
幼少期からずっと健を見守り続けていたみどりは今、母と遥が勤める国家環境計画局に入り、インファント島やアドノア島を中心に自然再生に力を注ぎながら、世界中を飛び回って活動している。
そう、まさに偶然・・・否、運命と言う流れの中では最早必然であった出会いを幼少期に果たしてから、幾多の時間と過程を経て、漸く夫婦となった2人が今・・・最高の人生の岐路を迎えたのだ。
「まさか、ずっと昔に諦めてた娘の最高の瞬間にいられるなんてな・・・」
「そうね。だからあなたはこれからも、世界中の泥棒を捕まえて、あんたは幸せになるのよ・・・みどり。」
「・・・ありがとう。お父さん。お母さん。あたし、健と幸せになります・・・」
『『あの日、私達をモスラの元に連れて行った幼い女の子が、今こうして夫婦(めおと)となりに行くのですね・・・みどりさん、おめでとうございます!』』
先住民族・コスモスからの祝いの言葉の後、母・手塚雅子がみどりにベールダウンを施し、再婚の条件として手塚姓になった父・藤戸拓也に連れられながら、ゆっくりとみどりは再度の祝いの拍手と共に健の待つ聖壇までのバージンロードを歩いて行き、健とみどりはこれまでの自分達の道程・・・ただの幼馴染みから恋人になった、あの日を思い出す。
「・・・・・・
みどり、俺と付き合ってくれ!!」
2011年夏、みどりが訪れた偶然遥が友達と共に来ていた京都のプールでの出来事の後、みどりが先にプロポーズしようと健を呼び出すも、20歳になるまで待ってくれ、と健によって保留され・・・
「・・・もう、どれだけ待たせるのよ。遅過ぎるわよ・・・!そりゃ、あんたもあたしも色々忙しくなったけど・・・これだけ時間あったら、お互い新しい彼氏とか彼女とか出来てもおかしくないんだから!」
その3年後の2014年、弥彦山で改めて健からプロポーズが行われ・・・
「ごめん、それでも俺はやっぱ・・・お前じゃないと駄目なんだ。ずっとずっと昔から・・・俺は、しっかりしてんのかちゃっかりしてんのか分かんねぇ、すぐ俺を年下扱いしやがる、正直苦手なとこもあった・・・けど、俺が最初に超えたい奴って思って、なんだかんだ気になって、俺の事分かって見守って、受け止めてくれる、そんなお前に・・・みどりといつまでも、一緒にいて欲しいんだ・・・!!」
「・・・『みらいのぼく。
ぼくはおとうさんにほめられるくらいつよくなって、みどりねぇちゃんをみかえしている。
それで、みどりねぇちゃんをぼくの、およめさんにしている!』・・・か。じゃあ、叶えないとね。あんたの最後の夢。」
「じ、じゃあ・・・」
「・・・宜しく、お願いします。」
そして、5年の紆余曲折を経て・・・
かつて少年だった頃に男が密かに夢見た、
立派な男となった少年との明日を願った女の、
二つの未来予想図が重なり・・・結ばれる日が、来たのだった。
2人の回顧が終わった時、新郎・健の元に新婦・みどりが辿り着き、聖壇の前で幸福な表情で向かい合う新郎新婦の姿に、誰もが2人の未来予想図を夢想した。
「・・・睦海、やっぱりいないな。」
「8年前のあの日から、現れなくなったよね・・・睦海ちゃん。」
「そうだな・・・」
「きっと今日が来るのが、分かったからかな・・・?」
「桐城健君。手塚みどり君。結婚おめでとう。」
と、この場にいない「彼女」の事を案ずる健・みどりへ、牧師が話し掛けた。
相当老いてはいるが、衰えを感じさせない健全な精神・肉体を持っている事が一目で分かる、優しげな雰囲気に満ちている眼鏡を掛けた男性だ。
「「ありがとうございます。」」
「私は、南海サルベージと言う会社の会長をさせて貰っている、尾形秀人と言う者でね。65年前に現れたゴジラと関わった者でもあるんだ。」
「えっ、それって・・・」
「最初のゴジラと、ですか?」
「そう。その最初のゴジラを葬り、23年前に現れたデストロイア誕生の切欠になった水中酸素破壊剤・オキシジェンデストロイヤーを作り、ゴジラと共に海に没した芹沢大助博士は知ってるね?私は彼の知り合いで、彼の苦悩と決意を目の当たりにし、彼をゴジラの元に連れて行った。それ以来、私はゴジラと関わる事はあまり無かったが・・・かつて芹沢さんと共に愛し、私と共に彼の行く末を見守った、山根恵美子さん・・・その孫の健吉君と、24年前に現れた二体目のゴジラに関わった東都日報新宿本社編集長の牧君からの誘いを受け、牧師として関わる事になったんだ。」
「山根さんのお婆様とも、お知り合いだったのですね・・・」
みどりがベール越しに会場を一瞥すると、牧師・・・尾形秀人を招待したが故の緊張から無言になっていた健吉の後ろに座る、見知らぬ人物が目に入った。
理想も真実も全てを見据える瞳をしながら、何処か飄々としたナイスミドルな中年男性・・・彼こそが、まだ一介の記者だった1985年に再び現れたゴジラの脅威に巻き込まれながら、事件の解決に奔走した者・牧吾郎の姿であった。
「牧さんも、中々に粋と言うか・・・因縁とも言えるこんなマッチングを、よく思い付きましたね?」
「ふっ、だろう?たまにはゴジラ絡みに関わらせて貰おう、と思ってね。」
妙に不適な笑みで、牧が健吉からの問いに答える中、逆に健は尾形に問うた。
「どうして、客じゃなくて牧師として来たんですか?」
「・・・昔のゴジラは、核と人類によって怪獣にされた上に安住の地を追い出され、怒り狂いながら全てを破壊する事しか出来なかった、許されざる哀れな被害者だった。でも、今のゴジラは違う。人によって育てられ、人と共に歩む道を選び、人類から許されたこの地球の英雄にして住人・・・そんな今のゴジラと最も近い所にいる、君達の人生の岐路が一つになるこの時を取り結びたいと、かつてゴジラと関わった者として思ってね。
私は愛する人と結ばれる事も、ゴジラと共に生きる事も出来なかったが・・・君達は、成し遂げるんだよ。」
「「・・・はい。」」