White Day Mission!







こうして、樹とギャオスによるホワイトデーのサプライズは終わり、遥の元を去ったギャオスは樹を連れて、太陽の代わりに星々と月が照らす夜空を一筋の流れ星のように駆け、上限の夜9時を過ぎる少し前までに、樹は自宅に帰還する事に成功。
見事に有終の美を飾って、計画は達成されたのだった・・・






「樹!上限の時間は過ぎていないとは言え、こんな時間になるまで外出するなと、あれ程言っていただろう!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「お前はこれから1ヶ月、夜6時以降の外出を禁止する!」



・・・父の亨平からの、息子への心配心が込もった激しい叱咤を除いては。
それでも樹は深く反省しながらも、亨平に怒られるのを承知で今日サプライズ返しを実行した事を、一つも後悔してはいなかった。
眼前の「父親」が、自分の気持ちもちゃんと慮ってくれているのが分かっているからだ。



「・・・全く、俺と親父に無駄な心配を掛けるな。以前よりましになったとは言え、お前はまだ体が弱いんだ。無謀な事はなるべくするな。」
「う、うん。分かってるよ。」
「そんなに怒鳴らなくても、良いのにのう?ワシが樹の年の頃にはよく福江を飛び出して、天神やら阿蘇山やらに行っとったわい。可愛い樹には旅をさせよ、じゃぞ?おっと、『かっこいい』方が良かったかの?い~つ~き~?」
「もう、怒られた後にその顔はやめてって。父さんはボクが心配で、怒ってるんだから。でもじいちゃん、ありがとう。お返しに『アレ』を入れるアイデア、すごく福江っぽいと言うかじいちゃんっぽいと言うか、ボクも良かったと思う。」
「じゃろ~?」
「俺も、プレゼントの内容自体は賛成だな。お前の誠意も、きっと彼女達に伝わっているだろう。」
「父さんも、ありがとう。ボクも、そう思ってる。」






その頃、樹からのサプライズ返しを受け取った4人は自室にて、今日の彼の事を思い返していた。
彼女達の傍らには、各人のパーソナルカラーと同じ色の包み紙の中に入っていた、赤鬼が後ろを向いた鎧武者を首から噛みついている・・・もしくは鎧武者が赤鬼に噛みつかれながらも立ち向かっているかのような、独特でかつ何処か荒々しい構図が特徴的な、樹の祖父・元治のアイデアで入る事となった福江島の伝統工芸品「バラモン凧」の手のひらサイズのキーホルダー。
いつもは「花嫁修業」の師範として料理を教わり、料理だけでなく菓子作りにも長けている元治からの指導を受けながら始めて挑戦した、福江島が誇る名産品「玉之浦椿」のオイルを隠し味に丹精を込めて焼いた、勾玉の形をしたクッキー。
そして、樹からのメッセージが書かれたメモ用紙があった。



「樹、お父さんに怒られてないかな?絶対帰りは夜になっただろうし、樹のお父さんって厳しい人らしいし・・・でも、びっくりしたけど今日の樹は凄く男気あったわね!バラモン凧も男気あって、いい感じ!」

ーー良かったですね。穂野香。
樹様からの、真心の籠ったお返しを頂けて。



『このバラモンたこさん、おもしろいな~♪次はわたしがいつきの所に行って、ほんものを見せてもらおっと!あした、マンダにそうだんするぞ~!』



「こう言う感じの勾玉、確か亀ヶ岡遺跡のお土産コーナーにも売ってたわね。それにしても、本人に言ったら悪いけど・・・皮肉にも、樹の女子力は確実に上がっているわ。」



「樹君、お菓子も作れるようになったんだ。凄いなぁ・・・それに、ギャオスに乗って会いに来てくれたのも凄いわ。こんな素敵なお返しをくれるのなら・・・私、来年も頑張って樹君にチョコを作ろっと♪」



各々、今日の樹への感謝の気持ちを胸に抱き、メモ用紙に書かれた樹からのメッセージを見直す。
宛名こそ違えど、添えられた返礼文は同じで、サプライズ返しを含んでの返礼だからか文字の量こそ少なめだが、彼らしい文章としての本心の現れが、そこにはあった。







今日はホワイトデーだからこれ、ボクからのお返し。
チョコをくれたみんな、ありがとう。
これからも、よろしくね。

逸見樹








一方、樹は縁側で星空を見上げていた。
時期によっては天の川がはっきりと見える程に澄み切った、時間を越えて遠い宇宙の果てから届く星々の光が生み出す、満天のパノラマに心を癒しつつ、勾玉を握って樹は今日最もお礼を言いたい存在である「母親」へ、言葉を届ける。



ーー・・・ギャオス、改めて今日は本当にありがとう。今日みんなにサプライズ返しが出来たのも、君のお陰だよ。
・・・日本縦断が出来て、こっちも良かった?そう言えばボク何気に、今日1日で日本を一気に横断したんだよね。でもまだ北海道とか沖縄とか、寄ってもいない所はあるから行ってみたいな。
・・・えっ?連れて行ってやるって?即答してくれて、ありがとう。けど父さんから1ヶ月、夜の外出禁止って言われちゃったからその間は難しいかな。
・・・もう、ダメだよ。父さんにカチコミ、しに行くなんて。ボクが悪い事をしたのも、事実なんだから・・・そうだ。1ヶ月過ぎたらすぐにGWに入るから、GWになったらボクを連れて行って。
・・・うん。これって、家族旅行になるのかな?とにかく今から、楽しみだよ。
・・・またね、ギャオス。



ギャァオォォォォ・・・



同じ星空を見上げながら、樹とギャオスの新たなる計画(ミッション)が今、静かに始動したのだった・・・






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好釦