White Day Mission!












2月14日。
俗に言う「バレンタインデー」であるこの日、様々な場所で多種多様な思いとチョコレートが行き交った。
それは勿論、彼らにも。






「はい、レン。私からのチョコレートよ。」
「や、やった~っ!!今年もありがとう、紀子!!」
「毎年あげてるし、私がチョコを作るのも分かってる筈なのに、レンは毎回もの凄く喜んでくれるね。」
「当たり前だよ!だって、紀子が僕の為に愛情込めて作ってくれたんだから!何年経ったって、おじいちゃんになっても嬉しいに決まってるよ!」
「ふふっ・・・ありがとう、レン。」






「お兄ちゃん!これ、今年の私からのチョコ!」
「っしゃあっ!!穂野香、今年もマジでありがとな~!これで俺、あと一年生きられるぜ・・・!」
「もう、お兄ちゃんったらいつもオーバー過ぎ。そうそう、こっちのチョコはアンバーが作ったのよ。」
「へっ、アンバーが?」
「アドバイスはしたけど、どんな出来になったのかは私も分からないの。だから、まずこっちから食べてみて!」
「お、おう・・・んっ、おおっ!案外うめぇじゃん!あいつも結構やるじゃねぇか!」
「そうなんだ!それは良かった!」


――・・・やったね♪アンバー!

――はい!隼薙に喜んで頂けて、わたくしは心の底から幸せです・・・!






『つるぎ!わたしからのチョコだよ!』
「ありがとう、ジュリア。今回は何だか包みが違うが・・・んっ、これはまさか・・・?」
『いつもはわたしがえらんだチョコを買ってもらってたけど・・・今年はわたしが作ってみたの。はなと、メイドのみんなも手伝ってくれたんだよ。だから・・・食べてみて?』
「そうか、分かった。いただきます・・・うん、美味しい。誇張抜きで、初めて作ったと思えないくらいだ。ジュリア、俺の為に一生懸命作ってくれて、改めてありがとう。来年も作ってくれたら嬉しい。」
『えへへ・・・わたし、らいねんもさらいねんもぜ~ったい作るね!つるぎ、だ~いすき!』
「お、おい。もうお前は中学生なんだから、すぐ俺に抱き付くな・・・全く。」






それぞれ能登沢・初之・グレイス家で、巫子達がいつも傍にいる男達にチョコを贈り、彼らもまたささやかな幸福な時間を過ごした。










それから約1ヶ月が経った、3月10日。
バレンタインデーと対を成す「ホワイトデー」が近付き、バレンタインにチョコを貰った者達が、お礼に何を贈ろうかと本格的に思案・準備し始める頃である。
そして、それは「彼」も例外では無かった。






「ホワイトデーまで、後4日か・・・ボク、どうしようかな?」



福岡県・五島列島、福江島。
逸見樹は自室にて、4日後のホワイトデーへの考えを巡らせていた。
今、樹の前には先月のバレンタインデーに郵送でチョコと共に送られて来たメッセージカードがあり、それぞれ巫子仲間の紀子・穂野香・ジュリア、それに加えて遥から贈られたものであった。
無論、樹もホワイトデーの日に彼女達へのお礼を贈ろうとしていたのだが、限られた貯金の中で何を買えばいいのかを決められずにいた。



「郵送代は父さんに出して貰うにして、紀子も穂野香も高めのチョコだったし、遥さんに至っては手作りだった事を考えると、手抜きなんて出来ないよ。流石にジュリアから貰った、見た事も無い超高級なチョコは無理だけど。でもせめて、誠意は伝わるようにはしたいな・・・」


――だってボクの為に、みんなわざわざ郵送までして、メッセージカード付きのバレンタインチョコをくれたんだから。







もしかしたら、他の巫子達もやっているかもしれないけど、サプライズでチョコを送ってみた。
郵送代は気にしないで。それ込みの、貴方へのお礼として使ったお金だって思っているから。
貴方にまた会える時が来るのを、レンと一緒に待っているわね。
ハッピーバレンタイン、樹。

守田紀子






樹、ハッピーバレンタイン!
義理チョコでごめんだけど、喜んでくれたなら私も嬉しいな♪
あっ、お返しは送るの大変だろうから無くても大丈夫よ。ただ、無事に届いたか連絡だけはしてね。
これからも、巫子同士宜しくっ!

初之穂野香より!






ハッピーバレンタイン!樹!
バレンタインって、女の人が男の人にチョコを送る日だから、樹に送っても大丈夫だよね?
だから、樹にもチョコを送るね!
また、竜宮島に会いに来てね~!

ジュリア・ラント・グレイス






ハッピーバレンタイン。樹君。
直接渡せなくてごめんなさい。だけど、樹君への思いを込めて精一杯チョコを作りましたので、是非食べて下さいね。
また、樹君とギャオスに会いたいな。

妃羽菜 遥








――だったらボクだって、同じくらいの気持ちが伝わるお返しをしないと。
そうじゃないと男がすたる、って言ったらいいのかな?
でもお返しを送るだけなのは質素で嫌だし、こっちもメッセージカードを書こうかな?
・・・うーん、ボクはこういうの苦手だから、何か変な事を書かないか心配だなぁ。
だったらせめて、ボクにしか出来ない事をやらないと。


「ボクにしか出来ない事、それは・・・はっ、そうだ!」



何かを思い付いた樹は家を飛び出し、海岸の方へと向かった。
行き先は福江島に隣接する無人島、姫神島だ。









それから4日後、運命のホワイトデー。
男達によるバレンタインのお礼返しが各地で行われ、樹もまた男としてホワイトデーの責務を果たそうとしていた。
今、樹は朝日を背にして紅く光る勾玉を手に、息を切らしながら碧く美しく輝く福江島の海岸線を走っている。



「はぁ、はぁ・・・もう少しなんだ、これしきで参らないでくれ。ボクの体・・・
あっ、やっと来てくれたね・・・ギャオス!」



ギャァオォォォォ・・・



空を見上げた樹の前には、紅き巨鳥の四神・朱雀ことギャオスがいた。
勿論、ギャオスは樹の呼び声に応えてここに飛来したのであり、これは4日前から既に樹が伝えていた事だった。



――・・・来てくれて、ありがとう。
・・・大丈夫。プレゼントなら、鞄の中にちゃんと入れてるから。
・・・じゃあ、行こう!バレンタインデーのお返しをしに!



ギャオスとの交感を終えた樹は、走る足の勢いを止める事なく精一杯跳躍し、ギャオスの足の間に飛び乗る。



ギャァオォォォォ・・・



ギャオスもまた、樹がしっかりと自身の足に掴まった事を確認すると、樹のいる足先を風の結界で包み、両翼を羽ばたかせて大空へと舞いあがり、翼を畳んだ槍のような姿となって、音よりも速く朝焼けの彼方へ飛び去って行った。
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好釦