拍手短編集
それは、突然の出来事であった。
「・・・あれは?」
その出来事に出くわした者は、瞬。
彼は今日、気分転換にと偶然東京の新宿に足を運んでいた。
基本的に瞬は世間一般に広がる娯楽の類の大半に興味は無く、休日も誘いが無ければ訓練所でトレーニングかランニング、情報収集と称して新聞や図書館の蔵書を読みふけっているくらいである。
テレビもバラエティ番組やドラマは僅かしか見ておらず、ニュース番組や衛星放送で再放送されている歴史・軍事物映画を見ている程度。
ゲームに至っては全く手を付けた事の無い有り様で、最近ようやく部下の勧めで所謂「脳トレ」系のゲームをやり始めたレベルである。
そんな偏屈な程の「堅物」である彼が自身の好まない要素に溢れた新宿に行ったのは、前述の通り偶然でしか無く、あえて目的を探すとすれば自分の知らない「情報」を探しに来たと言え、この国の中でもかなりの賑わいのあるここなら何かしらの収穫がある、と無意識の内に思ったのだろう。
しかし、だからこそ彼は出会ってしまった。
今日ここに来なければ、きっと遭いもしなかったであろう出来事。
偶然が導いた、奇跡とも呼べる産物。
それは・・・・・・
『おいイース、あそこにいるのってまさにヤマトナデシコじゃねぇか?』
『少し清楚そうな女性を見ただけで、勝手に判断するな。ウェイス。』
そう、こちらも偶然新宿に来ていたアメリカ空軍所属の大尉・イースとウェイスがそこにいたのだった。
勿論、傍目から見れば片やきっちりと迷彩柄のハンチング帽を被り、片や耳にピアスに首から髑髏のアクセサリーを下げた軽そうな雰囲気の、2人の金髪の外人が並んで歩いているだけだが、瞬にとっては若干事情が違った。
――・・・何故だ?
何故、あの2人の外人を見ていると俺の頭の中に東と西の姿が浮かぶんだ・・・?
瞬はこの2人から自身の弟子であり、何度も手を焼いて来た東と西に似た雰囲気を感じ取っていた。
無論、この予測については思い過ぎでは無い。
数ヶ月前に起こったキングギドラ事件においても、2人のやり取りを見た遥が全く同じ事を思っており、特に瞬は東・西とこの数年間を共にして来た分、一目でそう思ったのであった。
そしてそれは、次の描写で確信に変わる。
[The conduct as expected?]
『まぁでも、ヤマトナデシコ度じゃハルカに負けちゃうけどな。けどこれがセイシュン!止めるなイース!』
『なっ、お前・・・!』
『そこの嬢ちゃーん!嬢ちゃんは歳いく・・・』
『ファック!それ以上は言わせんぞ!』
目当ての女子を大声で呼び止めようとするウェイスと、それを背後から羽交い締めにして阻止するイース。
呼び止められかけた女子は当然ウェイスを不審者と、ウェイスを押さえたイースを善良な通りすがりとみなして走り去って行き、周りにいた人々の目線はこの2人に向けられる。
その光景を見ていた瞬は最初こそ見なかった振りをして去ろうと考えていたが、2人の台詞と行動は彼の足を止めさせるには十分だった。
――どういう事だ・・・
あの性格にあの動作、それにあの台詞・・・
ますます東と西を思い出さずにいられない・・・
どうして、あんな東しかしない様な突っ込み方をするんだ?
どうして、あそこまで西の様な下らない事が言えるんだ?
何より、どうしてあれ程までに両極端な者同士が組んでいるんだ?
・・・分からない。俺には理解出来ない。
ここまであいつらと似た2人組が、この世に存在すると言う事が・・・!
それに大和撫子で「ハルカ」と例える点でも因果を感じずにはいられない・・・
俺とその周辺の知っている「ハルカ」もまさにその様な人間、こんな偶然が本当にあるのか?
出来過ぎている、これは出来過ぎだ・・・!
偶然の一言で片付けられない、有り得ない程の共通点を持つイースとウェイスの存在に、悩み苦しむ瞬。
彼の頭の中は今、目の当たりにしている非現実的な「現実」を何とか理解しようと必死になっている状況で、たとえ怪獣の存在が理解出来てもこの光景を理解するのは、瞬には数学界におけるミレニアム懸賞問題を解く程に難しい事であった。
――・・・駄目だ。
どうしても、あの光景を偶然で片付ける事が出来ない・・・
これは一体、どうすれば・・・・・・はっ!
立ち尽くしながら混沌の坩堝(るつぼ)に嵌っていた瞬だったが、ここで彼はこの状況を打破する術を閃いた。
閃くや瞬は足を動かし、すぐにイースとウェイスの元に辿り着く。
そして瞬は、2人にある質問を投げかけたのだった。
「・・・おい。」
『ぐうっ、いっ、いてぇ・・・え?』
『貴様、これでもう勘弁して・・・え?』
「・・・お前達なら、俺が酒を呑んだらどうなるのか、当然分かるな?」
『『・・・えっ?』』
[The continuation is unclear.]