日省月試‐典零寺ハルカの気になるあの男子‐











[‐金曜日・聖アンファンテ学園‐
ホームルーム前・廊下]



「ヒロフミ君、今日国語の小テストあるけど、勉強して来た?」
「うん。この前は赤点ギリギリだったから、今回はもう少し点数良くしないとって言われ・・・思って、勉強はして来たから。」
「そっか。それなら、大丈夫そうだね。」
「あら、弥杜君に典零寺さん。おはよう。」
「「藤戸先生、おはようございます。」」
「今日は国語の小テストよ?典零寺さんはともかく、弥杜君は大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」
「その意気や、良し!期待してるわね~。」



翌日、ヒロフミ君との普通の学校生活が戻って来ました。
今日もこうしてヒロフミ君と普通に登校しながら話して、担任の藤戸ミドリ先生に挨拶して、小テストを受けて・・・
ただ、昨日までと違うのは・・・






『おはようございます。ハルカさん。
今日の貴女の運勢は・・・運気快晴。多少の悪い事は寄せ付けない、とても良い運勢ですわ。
それから近々、今後に関わる大きな事が起こるかもしれません。ですが貴女はいつも通り、自分らしく過ごして下さいね。』



『おはよう、ハルカ。
今日の小テスト、ヒロフミは余裕そうだったか?
勉強はあたし達でしっかり教えたから問題無いと思うが、身に付いているかは様子を見ないと分からないからな。』



『ハルカちゃん、おはよ~♪
ねぇねぇ、またハルカちゃんに似合う衣装を見付けたから、来週また被服室で着てみてくれないかな~?
巫女さんみたいな感じの衣装で、すっごく可愛いわよ~♡』



『ルカルカ、おっはー!
あれからヒロっちに勉強教えてて送るの遅れちゃったんだけど、いきなり思い付いて「チュンたろう」のガシャポン使ったおもしろ画像撮ったから、送っとくね☆』






・・・私も、「四ツ葉家の四姉妹」と親しくなった事。
自慢するつもりなんて本当に無いのですが、こうして四姉妹全員から直接連絡が来る生徒なんて、私以外にどれだけいるのでしょう・・・?
ヒロフミ君も、私が四姉妹と親しくなったのを知っているのかな?
知らないのなら、いつか私から言った方がいいのかな?
やっぱり、四姉妹全員と仲が良いのはちょっとまずいのかな?
そう色々と考えながら、昼休みまで過ごしていると・・・






「小テスト、満点取れて良かったね!」
「うん!ありがとう、ハルカ。僕もびっくりしてるんだけど、これもあの勉強の・・・そうだ、明日僕と来て欲しい所があるんだけど・・・いいかな?」
「えっ?別に明日は大丈夫だけど・・・」
「ありがとう!じゃあ、明日正午に与物(よもつ)駅の前で集合で。行く場所は・・・当日のお楽しみ、って事で。」
「う、うん。分かった。」



ヒロフミ君から、お出掛けのお誘いを受けました。
放課後の教室に残って少し話したり、帰りに一緒にホームセンターに行ったりした事はありますが、休日に出掛けるのは初めてです。
何故行く場所が秘密なのかは分かりませんが・・・与物駅に集合、と言う事は町の外に出掛けるのでしょうか?
ヒロフミ君の事だから、変な所に連れて行かれる事は無いと思いますが・・・










[‐土曜日・阿乃護路市‐
昼・与物駅前]



「・・・もうすぐ、正午か・・・」



翌日、私は与物駅の前で約束通りヒロフミ君を待っていました。
ヒロフミ君は遅刻をした事は無いので、もうそろそろ来るはず・・・



「ハルカ、お待たせ。」
「・・・えっ!?」



噂をすれば、のタイミングでヒロフミ君が来たのですが・・・なんと、いかにもお金持ちの人が乗っているような、黒い高級車に乗って来たのです。
ヒロフミ君って、実はお金持ちなの!?



「びっくりした・・・よね。こんな登場の仕方で。」
「う、うん・・・私は徒歩か自転車で来るかな、って思ってたから・・・」
「その辺りは後で説明するから、とりあえず車に乗って。目的地に案内するから。」
「わ、分かった・・・」



動揺が止まらないまま、ヒロフミ君に言われて私は高級車の後部座席に乗りました。
ヒロフミ君は助手席に乗っていて、後部座席は余裕で3人乗れるスペースがあったので、私は真ん中の座席に座りましたが・・・余裕がある分、妙に緊張します・・・



「・・・ボールドさん、行って下さい。」
『オッケー、マスター。』



私がシートベルトをした事を確認したヒロフミ君が、「ボールドさん」なる大量のドレッドヘアーとヒゲが特徴的な大柄の外国人男性のドライバーさんに指示をすると、高級車はゆっくりと走り出しました。



「・・・ハルカ、これから行く所はハルカも絶対に名前は知っている所なんだけど、その事は誰にも言わないで欲しいんだ。その場所がこの町の何処にあるのかは、秘密にしておくのが決まりで・・・あっ、決して闇市とか麻薬の栽培場所だとかじゃないからね!?」
「う、うん。大丈夫。今もびっくりしっぱなしだけど、ヒロフミ君はそんな後ろめたい事をするような人じゃないのは、私も分かってるから。」
「よかった・・・ありがとう、ハルカ。流石は、みんなが認めただけの事は・・・」
「みんな?」
「あっ、い・・・いや、何でも。」



しばらくして、車は町の外れにある与物山の方に向かって行きました。
与物山はこの町の名所の一つですが、山を越えて隣町に行くのでしょうか・・・?



「もうすぐ着くよ、ハルカ。」
「えっ、もう?」



・・・が、車は与物山を登る事は無く、何十メートル以上はありそうな白い壁に囲まれた、何処かの施設の扉の前で止まりました。
そう言えば、昔から与物山のふもと辺りに何の施設なのか全く分からない謎の場所があって、あの探偵番組や珍百景番組も取材に来たものの結局門前払いされたと言う噂や、GoogleMapでもここはちゃんと中が映らない事から、様々な都市伝説がまことしやかに囁かれている・・・と言う話を聞いた事があります。
もしかして、ここがその噂の場所?



『レッツ、ワード。マスター。』
「・・・『鉄樹開花』、『烏鳥私情』、『愛月撤灯』、『威風堂堂』。」



すると、ヒロフミ君がボールドさんに言われるままに車のスピーカーに四字熟語を言うや、車のヘッドライトから蝶のようにも四葉のクローバーにも見える形をした紋様の光が照らされて、扉の中央で重ねると・・・扉が開きました。



「わぁ・・・!」



扉の中には、見渡す限りのクローバーの畑が広がっていて、無機質な白い壁の向こうにこんなにも緑溢れる風景があると思って居なかった私は、つい声を出して感激していました。
真っ直ぐ続く舗装された道を車は進み、しばらくして並木林に入りました。
ちなみに扉は車が敷地内に入るや、自然に閉まっていました。扉の開け方と言い、セキュリティは万全なのは確かですが、ここまですると言う事はこの中で何かを保護しているとか・・・?



「この光景、もう何百年・・・いや、何千年も前から同じなんだって。このクローバー畑も、あの並木も変わらずにここにあったんだなぁ・・・って思うと、不思議なノルスタジーを感じるんだ。」
「ノルスタジー・・・うん、その話を聞いたら私もヒロフミ君の気持ち、何となく分かるな。今さっき見たはずなのに、あそこのクローバーもここの木々も、昔見たみたいな気分になったから。」
「ありがとう、ハルカ。そう思ってくれたなら・・・連れて来てみて良かった。さぁ、そろそろ目的地に着くよ。」



並木林を抜けると、見た事も無いような大きさの屋敷がありました。
玄関には車のライトと同じ形の家紋があり、幾つあるか分からない家屋、その全てと繋がっていそうな長い廊下、京都の名所に数えられそうな庭園・・・ここに住んでいるのは、間違いなく名門の家系の人だと私は確信しました。
じゃあ、ヒロフミ君は名門の家系の人?






「お待ちしておりましたわ。ハルカさん。」
「ハルカ、来てくれて感謝するぞ。」
「いらっしゃ~い♪ハルカちゃん♪」
「ルカルカ、びっくりしたでしょー?」


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・・・が、家の玄関から出て来たのは「四ツ葉家の四姉妹」でした。
えっ、じゃあこの屋敷・・・と言うか、「この場所」って・・・!?






「ようこそ、ハルカ。『四ツ葉家』へ。」
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好釦