日省月試‐典零寺ハルカの気になるあの男子‐











[‐木曜日・聖アンファンテ学園‐
昼休み・2年3組教室]



翌日、今日のヒロフミ君は休憩時間に居眠りも落書きもせず、基本的にスマホを見ていたのですが・・・何だか、いつもよりよそよそしいです。
たまにこうなっているヒロフミ君を見る事はありますが・・・極めつけは昼休みの昼食の時。弁当を開けてから食べ終わるまで、落ち着かない感じでした。
そう言えば、ヒロフミ君の弁当は毎日違う箱でかつ、違う盛り付けがされているのですが、誰が作っているのでしょうか?
まさか、自分で?でも料理上手なんて聞いた事ありませんが・・・



「ごちそうさま・・・」



そう考えていると、昼ご飯を食べ終わったヒロフミ君がこっそり教室を出て行きました。
チハルちゃんかアキミかトウカさんに会いに行くにしては様子が変だと思いつつ、ヒロフミ君を追おうとすると・・・ヒロフミ君のポケットから、一枚紙が落ちたのが見えました。
すかさず拾って、中を見てみると・・・



『今週のなぞなぞタイム!
「チョウはチョウでも、虫じゃないチョウって、なーんだっ?」
お昼を食べながら考えてね☆
答えはこの裏!→』



明らかにヒロフミ君の文字とは違う、女子が書いたような文字でなぞなぞが書かれていました。
本当ならちゃんと考えたいのですが、そうするとヒロフミ君を見失いそうなので、書いた子に申し訳なく思いつつも、すぐに裏を見ると・・・



『答えは「タンチョウ」でしたー!
タンチョウは一番ポピュラーな「鶴」なんだけど、分かったかな?
来週もお楽しみに☆』



あっ、確かに「タンチョウ」って鶴の事だ・・・でも「来週も」と言う事は、前々からこのなぞなぞは続いて・・・と、考える間にヒロフミ君を見失いかけたので急いで目をやると、屋上へ向かって行きました。
屋上は時々男子が階段辺りをたまり場として使っていますが、ヒロフミ君に屋上をたまり場にするような友達はいませんし、そもそも本当なら屋上は立ち入り禁止なのに、どうしてかヒロフミ君は真っ直ぐに屋上の扉を開いて、外へ出てしまいました。
何の為に?私も扉を少し開いて、外を覗いてみると・・・






[昼休み・屋上前階段]



「・・・あれは誰かに見られたらまずいですって。フウナちゃん。」
「そうかもねー?でもでも、生の方がヒロっちはイイでしょ☆」
「いや、今ここでいる事もですけどもしこれがバレたら、僕もフウナちゃんも絶対ただで済まないですよ?」
「まーまー、バレなきゃダイジョーブ!何かのアニメで言ってたけど、バレなきゃ犯罪じゃないんですよー?」
「・・・それ、イカサマじゃなくて?」


design


なんと、ヒロフミ君があの四姉妹の長女のフウナさんと2人で、含みのある話をしていました・・・!
四ツ葉楓那(フウナ)さん・・・トウカさんと同じ3年1組で、学級委員長。
ツインテールがよく似合う童顔と、何処か子供っぽい言動から四姉妹で一番幼く見られると言われつつ、出来ない事が無いと言われる程の完璧超人である、との噂もまた聞きます。
間違い無く、姉妹の中で一番の人気で・・・その人気は「FCFC(フウナちゃんファンクラブ)」なるフウナさん専用のファンクラブの部活が存在する程で、「言葉」で他人と仲良くなるチハルちゃんとは逆に、「行動」で誰とでも仲良くなれると言われるフレンドリーさがあり、フウナさんは積極的に誰とでも話し掛け、遊んでいる内に虜にしてしまうとの事。
その一方でFCFCの監視の目は非常に厳しく、本当は男子は2人っきりでいる事すら許されないくらいですのに・・・!
蝶で言うなら、ナミアゲハかな?



「そうやって言うけど、ヒロっちも満更じゃないんでしょー?このアタシのあんな姿やこんな姿、独り占めだもんね☆」
「だから、バレた時が怖いんですけど・・・」
「もー!ヒロっちもそろそろ自信持たないとダメダメだよ?それとも、まだアタシの方からやらないとダメなのかなー?じゃあ、しょうがないにゃあ・・・ここで『生』、シてあげよっか?」
「それは駄目ですって!僕だけじゃなくて、本当にフウナちゃんの立場がやばくなっちゃいますから!」
「そう?ヒロっちと一緒なら、アタシはどうなってもいいんだけどなー?」



な、何だか・・・会話全てが如何わしく感じてしまいます・・・!
調査を始めるまで、ヒロフミ君にそんなイメージなんて全くありませんでしたのに・・・ごめんなさい、ヒロフミ君・・・






「でさー、あの言い訳の仕方は無くない?明らかに不祥事やらかして、ファンとかスタッフとかに迷惑かけてるのにさー!」
「それは確かに、僕も思いましたね・・・あっ、そろそろFCFCの人達に屋上にいるって、突き止められてませんか?」
「うーん、屋上にいるのはバレそうかなぁ・・・とりあえずアタシが先に出るから、ヒロっちはアタシがメッセ送ったら屋上を出ていいよ。」
「やっぱり、僕はしばらく出られないですね・・・」
「そう言わずっ☆アタシを独り占め出来る果報者なんて、キミだけなんだよ?それにこう言う時の為にアタシのなぞなぞとか写真とかがあるんだし、後でお詫びに色々シてあげるから・・・ね☆じゃあ、お先ー!」



それから2人は幸いにも(?)、「生」をする事なく、主に今日のネットニュースの話をした後、FCFCの事を気にしたフウナさんが屋上を出て行ったので、私も慌てて撤退する事にしました。
それにしても、フウナさんが「なぞなぞ」と言っていましたが、もしかしてヒロフミ君が落としたあの紙を書いたのって・・・フウナさん?






そして、紙の一件に気を取られていた私はこの時、全く気付きませんでした。
屋上の踊り場から、急いで教室に戻ろうと階段を駆け降りる私を見る、その視線に。



「・・・ふーん、あの子が噂の典零寺ハルカだねー?」






[昼休み・2年3組教室]



「ヒロフミ君。これ、落としてたよ。」
「あっ!ありがとう、ハルカ。これ・・・そう、隣の家の女の子が毎週弁当と一緒に渡してくるんだ。」
「そうなんだ。その子、なぞなぞとお弁当作りが大好きなんだね?」
「そうそう。僕も毎週、昼ご飯食べながら真剣に考えてるんだけどね。来週はチ・・・ちらし寿司、とか言ってたかな?」



昼休みが終わりそうになった頃、ようやくヒロフミ君が教室に帰って来たので、5時間目の授業が始まる前に紙を返しました。
少し慌てている様子だったので、やはりあの紙はフウナさんが書いた物で・・・と言う事は、今日のヒロフミ君の弁当はフウナさんが作った事になります。
フウナさんは基本的に何でも出来ますから、お料理だって得意でしょうし・・・では、フウナさんとヒロフミ君は少なくとも友達以上の関係で・・・密かに、な、生で・・・!?






[放課後・2年3組教室]



「僕、帰るよ。じゃあね、ハルカ。」
「うん。じゃあね、ヒロフミ君。」



・・・と、そんな事を考え続けている間に今日の授業が終わったのですが、昨日のトウカさんの事があったのでヒロフミ君の後を追って校門を出た、その時でした。



「ねーねー、キミが典零寺ハルカ?多分知ってると思うけど、アタシがあの四ツ葉フウナちゃん、だよっ☆」
「フ、フウナさん!?」
「アタシ、キミと色々シたいからちょっと来て!」
「え、ええっ!?」



なんと、いきなり現れたフウナさんに半ば強引に、ヒロフミ君と逆の方向に連れ出されてしまいました・・・!






[阿乃護路市・那実通り]



「あ、あの、フウナさん・・・」
「FCFCなら、今日は違う帰り道を使うって言ってるからダイジョーブ☆それにアタシ、全部まるっとお見通しだよー?ルカルカがアタシのなぞなぞを拾った事も、今日屋上でアタシとヒロっちの事をこっそり見てたのも、アタシとヒロっちが付き合ってるか疑ってる事も、ね?」
「!?」
「あっ、別にそれでルカルカを海に沈めようとか思ってないから安心して☆ただ、残念ながらヒロっちとアタシは付き合ってないんだよねー。FCFCがいるからああしてこっそり会ったり、他の姉妹と交代で弁当を作ってあげてるんだ。それと、多分やらしーく思ってた『生』は弁当と一緒に入れてる『生写真』の事だから、そこも安心してね?こう見えて、ヒロっちとは一応健全な仲だから☆」
「そ、そうなんですね・・・分かりました。疑問に答えて下さって、ありがとうございます。あの、ではあと二つだけ質問してもいいですか?」
「いいよー?」
「えっと、『ルカルカ』って私の事ですか?」
「そだよ☆『ハルカ』だから『ルカ』を取って、『ルカルカ』!『ハルハル』はチハルに使ってるから、ちょっと変なアダ名でゴメンねー?」
「いえいえ・・・それから二つ目の質問ですが、どうしてここに来たのですか?」



そう、フウナさんと話している間に私は、高校の近くにあるホームセンターに来ていました。
このホームセンターは私も昔からよく来ていた馴染みの場所なのですが、だからこそフウナさんのような超人気者のお嬢様が来るような場所ではないのですが・・・



「えっ?アタシ、ルカルカと仲良くなりたいからここに来たんだよー?」
「私と仲良く、ですか?」
「だってここ、この町に住んでるなら絶対一回は来てるでしょ?アタシもよく通ってるし、ルカルカだって来た事あるよね?」
「はい、確かによく来ていますが・・・フウナさんも来ていたなんて、意外でした。」
「アタシだって今をときめくJKなんだから、こう言うとこに行きたいってー!ルカルカの事も妹達から聞いてたし、どんな娘なのか興味はあったんだ☆で、今日ルカルカが屋上にこっそり来てたから、きっかけが出来たって思って連れ出してみたってワケ!」
「そ、そんなに色々と考えていたのですね。」
「こう見えてもアタシ、『四ツ葉家の四姉妹』の長女だから☆ってわけで、今からガシャポンコーナーに行っくぞー!!」
「ガ、ガシャポン?」






[ホームセンター「ひらさか」]



「ガシャ、ガシャ、ポンッと!さぁて、何が出るかな・・・あーっ!またみずいろみがわりくんじゃーん!もう2つは持ってるんだけどなぁ・・・ルカルカはなに来た?」
「えっと・・・あっ!ピンクサファイアみがわりたんです!」
「うっそー!!それ、アタシが喉から手が出ちゃうくらい欲しいって思ってたシークレットじゃーん!!ねぇねぇ、ルカルカさまっ!アタシにピンクサファイアみがわりたんを、どうか恵んで下さいっ!」
「えっと、みずいろみがわりくんは私は持っていませんから、交換しませんか?」
「ホント!?ありがとー!!ルカルカー!!やっぱり、持つべきものは心の友だよー!!」
「はうっ!そ、そんなフウナさん、抱き付くような事でも・・・」
「だって、これでみがわりくんアソート4がコンプ出来るんだよ!?他のはすぐに揃ったのに、ピンクサファイアみがわりたんだけ来ないからネットで買おうか悩んでたんだけど、これでボッタクリ値段で買わなくていいんだから、こんなに嬉しい事ってないよー!帰ったらみがわりくん勢揃い写メ、ルカルカのスマホに送るね☆」
「あ、ありがとうございます。」






「どどん、どん、かっ、どどどどん、かっかっ、どんっ!
・・・はいっ、パーフェクト!!」
「わぁ、おにむずでパーフェクト・・・!凄いです、フウナさん!」
「ありがとー!アタシもこれは覚えるのに手こずったけど、覚えてしまえばこんなもんよっ☆」
「フウナさんも、よくゲームをやるんですか?」
「そだよ?ポケモンなら図鑑コンプとバトル施設100連勝まで絶対やるし・・・」
「えっ!?そ、そんなにやり込むんですか?」
「アタシ、やりたいと思った事はトコトンやりたい派なんだよねー。それに、これが出来ないって言うのがイヤだから、出来るまで努力は惜しまないし。」
「だから、『完璧超人』と言われるのですね・・・」
「『完璧超人』と言うか、諦めが悪いだけかな?ガシャポンもコンプしないと気が済まないのも、だからだと思うし・・・さっ、次はルカルカの番だよ☆ガンバ!」
「は、はい!頑張りますっ!」






「あっ、『抹茶ソーダ』味とかあるじゃん!買ってみよ☆」
「ま、抹茶ソーダ?美味しいですか、それ?」
「・・・んー!!絶妙にマズイっ!!」
「や、やっぱり・・・正直、抹茶に炭酸が足されても美味しいのかな?って思ってしまいました・・・」
「だよねー?でもこう言う失敗はどっかで役に立つから、アタシは失敗は恐れないかな。諦めが悪いの派生、みたいな?」
「失敗が経験になる・・・格言みたいで、立派ですね。」
「でしょー?そんなアタシを、もっと崇めるがよいぞ☆さっ、じゃあ次は小物コーナーに行っくよー!」
「はいっ!」



こうして、フウナさんと小一時間ホームセンターで楽しんだのですが・・・時々見せる凄い一面以外は、普通に女子高生の放課後の一時と言う感じでした。
でも、悪い気は全くしなくて・・・チハルちゃんと話した時みたいな、いい意味で印象が変わったと言うか・・・まるで押し寄せては引く波のような、心地良い緩急のある楽しさに満ちた一時を通じて、フウナさんが「愛され上手」にして姉妹で最も人気である理由を直に知ったのでした。






「じゃっ、後でメッセ送るねー!ルカルカー!おっさきー!!」
「さようなら~!フウナちゃ~ん!」



そして、フウナさんと別れて・・・計らずも、私は「四ツ葉の四姉妹」全員と親交を持ってしまった事になるのですが・・・みんな四種四様で素敵な、本当に1人1人が蝶のような魅力を持った女の子達で、人気にならないわけが無いと思いました。
そして、ヒロフミ君は全員と少なくとも友達関係なのは間違いないようですが・・・「恋人」なのかどうかは、みんなはっきりと否定していました。
チハルちゃんとトウカさんとの、含みのある会話はまだ気になりますが・・・アキミとフウナさんとの事が勘違いだったように、私の聞き間違いなのでしょう・・・多分。
とりあえず、これ以上のヒロフミ君への調査は終わりにしようと思います。
もう変な誤解はしたくありませんし、四姉妹みんなが間違いなく信頼出来る女子ですし・・・
あっ、ちなみに「フウナちゃん」と呼んでいたのは、本人の強いリクエストです。だから年上の人には敬語を使うヒロフミ君も、「ちゃん」付けで呼んでいたのですね・・・
じゃあ、トウカさんの事を「お姉ちゃん」と呼んでいたのも、本人のリクエスト?






「・・・ルカルカ、いい子だったなー。ホントはアタシとヒロっちの本当の関係を知られたくないから、あえてお近づきになったんだけど・・・ちょっと、みんなにも相談してみよっかな?」
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好釦