日省月試‐典零寺ハルカの気になるあの男子‐
[‐月曜日・聖アンファンテ学園‐
昼休み・2年3組教室]
「ここはこうして・・・はいっ。」
「ありがとう、ハルカ。僕、どうもネクタイ結ぶのが慣れてなくて、よくア・・・いや、親に言われるんだ。練習はたまにやってるんだけど。」
「社会人になったらネクタイを付ける機会は自然とあるから、今の内に慣れておかないとね。」
「そうだね・・・あっ、僕ちょっと図書室に行って来るから、また話そうね。」
「うん。」
・・・ヒロフミ君が図書室に向かったと言う事で、私も図書室へ。
見つからないように、怪しまれないように・・・っと。
[聖アンファンテ学園・図書室]
「お待たせ、チハルちゃん。」
「お待ちしていましたわ、ヒロフミさん。さっ、あちらのお席へ。」
あっ、早速四姉妹の四女・チハルちゃんと話しています・・・
四ツ葉千晴(チハル)ちゃん、1年3組。
姉妹の中で一番お淑やかで、お嬢様らしい子。
末っ子とは思えないしっかり者、誰とでも仲良くなれる巧みな話術、清楚可憐な顔立ちに色白玉肌の持ち主、履歴書に書ききれないくらいの沢山の資格を持っている、と言う話をよく聞く子でして・・・まだ1年生なのに「姉の七光り」と言う評判を全く聞かない、同級生・先輩問わずに勉強以外の事まで相談される事もある、まさに才女です。
更には自分のサイトも開設しているらしくて、どうやら運勢占いのサイトとの事ですが・・・
蝶に例えたら、モンシロチョウかな?
「・・・この小説、面白いね。流石はチハルちゃん。」
「それは良かったですわ。ふふっ。」
ヒロフミ君もチハルちゃんも机に座ってから、黙々と本を読みながら時々ひそひそ話をするくらい・・・
仲が良いのは確かなようですけど、これくらいならまだ友達以上の関係と言うには・・・
「・・・ヒロフミさん、ちょっと来て下さいませんか?」
「えっ?わ、分かった。」
と、チハルちゃんがヒロフミ君を連れて・・・司書室に入って行きました。
チハルちゃんは図書委員もやっていますが、どうしてヒロフミ君も一緒に?
私も、なるべく怪しまれないように司書室のドアに近付いて・・・
「ま、まずいってチハルちゃん。こんな所で・・・」
「こんな所だから、ですわよ?さぁ、早く触って下さいませ・・・」
・・・えっ?
な、なんだか不穏な会話が聞こえて来たのですが・・・聞き間違い、ですよね?
そうですよね・・・?
「で、でも司書さんとか来るかもしれないし、これがバレたらまずくないかな・・・」
「大丈夫ですわ。司書さんは昼休みの終わり頃にならないとここに来られませんし、だから貴方を今ここに呼んだのですから・・・さっ、遠慮なさらずに沢山触ってもよろしくってよ♪」
こ、これってもしかして・・・!?
あの清楚なチハルちゃんが、ヒロフミ君にあんな事やそんな事をさせて・・・!?
「典零寺さん?そこで何をしているの?」
「はっ!い、いえ!何でもありませんっ!」
このタイミングで、司書さんに見付かってしまいました・・・
司書室で何があったのかとても気になりますが、一時撤退です・・・!
[放課後・学園内庭園]
「あの、四ツ葉チハルちゃん?私、2年3組の典零寺ハルカって言うんだけど、ちょっと話を聞いてもいいかな?」
「はい、私は構いませんが・・・」
あれからヒロフミ君に司書室での事を聞く事は出来ず、ですがどうしても気になるので・・・放課後、庭園のベンチに座って本を読んでいたチハルちゃんに、直接聞いてみる事にしました。
話すのは初めてですが、やっぱりそんな如何わしい事をするような子には見えません・・・
とりあえず、図書室での事は聞かずにまずはヒロフミ君との事から、聞いて行く事にしましょう・・・
「ありがとう。話って言うのはね、最近私のクラスに転校して来た弥杜ヒロフミ君の事なんだけど、ヒロフミ君とチハルちゃんが仲が良いって聞いて、本当にそうなのか気になって・・・私、ヒロフミ君とは友達なんだ。」
「ヒロフミさんと・・・はい。私も、ヒロフミさんとは友人の関係です。ヒロフミさんが転校して来た日に、ハンカチを無くして困っていた私を助けて下さいまして、それから。」
「そうなんだ・・・人助けが好きなヒロフミ君らしいね。」
「私もそう思います。その時までは何の縁も所縁(ゆかり)も無かったですのに、あの方は見返りも何も求めずに私のハンカチを探して、見事に見付けて下さいましたの・・・その時のヒロフミさんの笑顔がとても素敵で、入学する前から『四ツ葉家の四姉妹』と呼ばれる身でありながら、つい連絡先を交換していまして・・・」
「誰かを助けて『ありがとう』って言って貰った時のヒロフミ君、とても嬉しそうだもんね。」
「はい!人助けをしている時のヒロフミさんは、本当に素敵ですわ・・・♪でも、ヒロフミさんはあまり目立たないようにしておられますから、あの素敵なヒロフミさんを知っているのは、私と典零寺さんくらいかもしれませんね。」
「そうだね!でも、チハルちゃんも大変だね・・・この学校にお姉さん達がいるから、入学した時から変な期待や尊敬を集めちゃって・・・」
「そのご配慮、感謝致します。ですが、私はそれら全てを自分を高める為に、あえて背負って行きますわ・・・お姉様達のような、素晴らしい女性になる。それが私の目標ですので。」
「チハルちゃん・・・」
「あっ、そう言えば典零寺さんはヒロフミさんと、どのようにしてご友人になられたのですか?」
「ヒロフミ君と?えっとね、ヒロフミ君が転校して来てからしばらくして、ヒロフミ君がレポートの忘れ物をして困っていたのが見えて、それで私のレポートを見せて何とかなったんだけど、そこで物凄く感謝されて・・・その時のヒロフミ君がなんかいいって思ったから、友達になったの。」
「まぁ・・・典零寺さんもお優しいですのね♪頼りになるクラスメイトがいると、それだけで学校生活での心の支えになりますから、ヒロフミさんの方からお友達になりたいと言うのも、私は分かります。」
「そ、そう?ありがとう。」
「これについては、私でもどうしようも出来ませんから・・・ちなみに、その時のヒロフミさんのご様子は屈託の無い、可愛らしい感じではありませんでしたか?」
「うん。そんな感じだったよ。だから私も、友達になっていいかなって思って。」
「そうですわよね♪ヒロフミさんのあの笑顔は、あの方の素敵な魅力の一つですわ。誰かが親切を下さると、ヒロフミさんも感謝の気持ちをあの笑顔で返す・・・素晴らしい真心の渡し合いだと私は思いますし、逆にヒロフミさんもそれが見たいから、お友達に親切にして下さるのでしょうね・・・典零寺さんの笑顔も、素敵ですから。」
「そ、そんな事無いよ。チハルちゃんの方が絶対可愛いし・・・」
「いえ、もっと自分に自信を持って下さい。貴女の・・・ハルカさんの純真な笑顔が見たいから、ヒロフミさんはハルカさんと仲良くされているのだと思いますし、私がヒロフミさんでもきっと同じ事をしますから。」
「そっか・・・ありがとね、チハルちゃん。でも、チハルちゃんが可愛いのは本当に思ってる事だよ。」
「ふふっ、お褒めの言葉ありがとうございます。私も『四ツ葉家の四姉妹』の一員ですから、可愛いと言われる事はステータスと言いますか、誉れですので・・・そうですわ、ヒロフミさんから絵を頂いた事はございますか?ヒロフミさんは日頃のお礼として、よく絵をお渡しになるので・・・」
「何枚かあるよ。光る十字架の前に佇む聖女の絵とか、綺麗な蝶の絵とか・・・」
「では、それはヒロフミさんがハルカさんに対して内心思っている印象の抽象画ですね。私は森の中を舞うモンシロチョウの絵や、様々な動物がいる森の絵などを頂きましたの♪」
「そうなんだ・・・でも確かに、チハルちゃんは蝶で例えたらモンシロチョウってイメージはあるし、緑色が良く似合うから森もイメージ通りで・・・じゃあ、私は聖女?」
「聖女のイメージは、私もハルカさんにぴったりだと思いますね。十字架のペンダントを胸元に吊るして、神に祈りを捧げるハルカさん・・・やはり、お似合いですわよ。」
「なんか、照れちゃうな・・・でも、私は神の存在は信じるかな。私の家の近くに、『妃羽菜寺』って言う古いお寺があって、そこにね・・・」
「・・・今日は色々とお話しして下さって、ありがとうございました。また時間を作って、お話しましょう♪それでは、私はそろそろ帰らないといけませんので・・・さようなら、ハルカさん。」
「じゃあね、チハルちゃん!」
ふう・・・気付けばついつい、30分くらいは話し込んでしまいました。
ですが、チハルちゃんの色んな一面が知れて、もう親友になったみたいな気分です・・・
正直、チハルちゃんからは私とは違う世界に暮らしていそうな感じがして、下級生なのに少し話しかけにくかったのですが・・・何でも包み隠さずに自然体で話すチハルちゃんを見ていたら、そんな思い込みもすぐに無くなっていました。
何と言うか、チハルちゃんは思っていた以上に立派で、でも親しみやすくて可愛い女の子、と言う感じでした♪
密かに気になっていたチハルちゃんのサイト「スプリングランド」も教えてくれましたし、占いは私も好きなので後で必ず行ってみようと思います。
それに、私の知らなかったヒロフミ君のあれこれが知れて・・・あれ?と言うか、なんでそもそもチハルちゃんに話かけようとして・・・ああっ!司書室の事!
さりげなくあの事を聞くつもりだったのに、ついチハルちゃんと話すのに夢中になってしまって・・・これが、チハルちゃんの魅力の一つである「話上手」なのですね・・・
もうチハルちゃんは行ってしまいましたし、何だか聞こうと言う気にもなりませんし・・・とりあえず、今日は帰る事にします・・・
「・・・話を逸らすような事をしてしまい、大変申し訳ありませんわ。ハルカさん・・・ですが、私とヒロフミさんの本当の関係を、貴女に知られるわけにはいかないのです・・・」