拍手短編集







『よう、モスラ。』
『来ましたわね、ゴジラ。』



ここはミクロネシアの外れに存在する島、インファント島・・・の隣島。
この島はモスラが大地の力を蓄える為に定期的に訪れる島であるが、今日は少し・・・いや、かなり事情が違っていた。
島にはモスラの他に何故かゴジラの姿があり、何やら話し合っている。
更に二体は人語を、しかも日本語を悠長に話しており、その会話はまるで人間同士が話している様に見えた。



『いきなりおれを呼び出してどうしたんだ?かいじゅうは来てないと思うけど。』
『・・・退屈でして。』
『へっ?』
『これでもわたくし、ずっとあの島にいなければいけなくて、暇を持て余していますの・・・確かに守護神としての使命は分かっていますし、それがわたくしがお母様から託された事であるのも。けれど、やっぱりわたくしだって時には息抜きしたいですわ・・・』
『うーん・・・「しゅごしん」ってひまな事なんだなぁ・・・』
『貴方は羨ましいですわ・・・チャイルドと言う素晴らしい子供と毎日過ごせるのですから・・・あぁ、わたくしにもそんな娘がいれば・・・』
『でもモスラには「しょうびじん」がいるじゃんか。』
『お二人は確かにいつもわたくしと共にいて下さいますけれど、わたくしの息抜き旅行を阻むのは頂けませんわ。ちょっと遥の所へ行こうとしているだけですのに・・・』
『・・・しょうびじんって、お母さんみたいなんだな。』
『本当は遥達も呼びたかったんですけれど、「彼らは忙しいと思うからやめなさい」と小美人から言われまして・・・人間とは、本当に暇と言う言葉が無い生き物ですのね・・・』
『それはおれも思うな。しまもこの前、「おれに休みをくれ!」って言ってたし。』
『是非、一週間だけでも変わって戴きたいですわ・・・あっ、来ましたわね。』

[わたくしから逃れられると思って?]



さも当然の如く日本語で会話する二体の元に現れたのは、バランだった。
当然顔には「不本意」の文字が見え、バランもまた日本語で二体に話し掛ける。



『バラン、お前も呼ばれてたのか。』
『あぁ。それで・・・何用だ。』
『いえ、少しばかり退屈でしたので、同じ怪獣の貴方達とここで色々話し合おうと思いまして。』
『・・・帰る。』
『えっ、そんな。お待ちになって!』
『下らん。私は御前の暇潰しに付き合う気など、毛頭無い。』
『でも、ぜったいバランだってひまだよな。だって山にいるだけだし。』
『何を言う!ニホンアルプスの地は、私にとって我が故郷イワヤの地に次ぐ楽園だ!有りの侭の大地を踏み締め、大地の力をこの身に味わいながらこの地に住むケモノ達を見る・・・これがどれだけ至福な事か、辺境の地に居座る御前には分かるまい!』
『ふーん・・・と言うか、バランの言ってる事っていつもよく分からないんだよなぁ。なんか、変にかんじばっかだしさ・・・』
『御前は平仮名が多過ぎて、逆に私には理解し辛い!それに二文字以上の単語が絶対に平仮名なのも好かん!』
『しかたないじゃん。バランは長く生きてるからことばをたくさん知ってるけど、おれは生まれてまだそうすぎてないしさ。』
『また御前は平仮名ばかり使いよって・・・是正する!』
『やる気か?そっちがその気ならおれだって受けて・・・』
『おやめなさいっ!!』



臨戦体制になったゴジラとバランを、モスラは光子ネットで制止する。
何処かで見覚えがある様な、そんな光景だ。



『どうして貴方がたはそうやって小さな事で喧嘩なさるの!「世界を守る三大怪獣」と呼ばれている貴方達ともあろう者が、情けないと思わないのですか!』
『・・・ごめん。』
『・・・とんだ醜態を晒した。申し訳無い。』

[私はもっと冷淡(クール)な筈・・・だ!]



『もう・・・今後からはお気をつけなさいませ!ところで話を変えますが、今日は人間達の所で言う「元旦」ですのよ。』
『がんたん?』
『最近冷え込んではいたが、そんな時期なのか。我々カイジュウ達の感覚で比較すれば、取るに足らない期間ではあるが・・・』
『うーん・・・とりあえず、そろそろねむくなるな。チャイルドといつ「ながね」するかそうだんしないと。』
『「冬眠」だな。以前、シュンから質問された。最も、私は普通のケモノとは既に外れている故、関係の無い事だが。』
『やはりバランは物知りですわね。では、ゴジラにもお教えしましょう。元旦とは「一年」と言う大きな月日の移り変わりの、最初の日の事ですのよ。』
『・・・えっと、たんじょうびが来るのがその「いちねん」がすぎたあとだったよな。だからいちねんは・・・』
『・・・貴方の言う誕生日は、元旦から数えて少し経った頃ですわ。貴方の誕生日が来た時には、もう日本は暖かくなっておりますわよ。』
『・・・なるほど。後でチャイルドにもおしえとこう。』
『それで元旦になると、必ず「謹賀新年」と言わなければなりませんの。元旦の合言葉ですわ。』
『きんがしんねん?』
『確かにニンゲンの社会ではこの時期に良く聞く単語だ。しかし、それがどうかしたのか?』
『こうして文化を語り会えるわたくし達は、もう「怪獣」の垣根も超えたと思うのです。でしたらわたくし達も人間達にあやかって、年の始まりを祝いましょう!』
『・・・モスラよ、御前は何時の間にそんなにも俗世間に馴染んだのだ?』
『こっそり行ってるからじゃないか?まぁ、いいじゃん。これでしまと話す時もこまらないし。』
『全く・・・御前達にはとても着いては行けん。早く済ませるぞ。』
『宜しいですわね?では、いきますわよ。せーの・・・!』
『『『謹賀新年!』』』






『・・・と言う初夢を見ました!』
「妃羽菜・・・お前までこんな事で電話してくるなぁー!」

[・・・ねむい。]
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好釦