『次は~、方会(ほうあい)駅~、方会駅~。
真地町の娯楽が集う、第一地区へお越しの方は~、次でお降り下さ~い。』
今、僕は親戚の来造(らいぞう)義兄さんに呼ばれて、とある町に向かっている。
その町は今まで知る人ぞ知る所と言う感じだったけど、少し前から急激に世間の注目を集め始めていた。
そう・・・「怪獣」が住まう町、「真地(まち)町」だ。
怪獣はそれまで、映画やテレビ番組の中にしかいない、空想の産物だった・・・明らかにフェイクじゃない写真や映像が、この町から発信されるまでは。
怪獣と共に生きている、と断言する人ばかりらしいこの町の人達の働きかけか、発信された写真や映像自体は少なめだけど・・・テレビでも新聞でも、もちろん僕のクラスでも都市伝説が実在したみたいに、毎日怪獣達について噂している。
僕もその怪獣に密かに興味があった所を、来造義兄さんからクラスメイトが怪獣によく遭遇していて、その人と一緒に観光したら怪獣に会えるかもしれないと言われ、言われるがままこの町に行く事にした。
怪獣なんて恐ろしいバケモノだ、と言う大人は多いけど・・・僕はあまりそうは思わないし、やっぱり会えるなら会いたい。
見るだけでワクワクする、そこにいるだけで目を奪われる存在。そんな怪獣達・・・
特に、「黒き竜人」と呼ばれる怪獣・ゴジラに。
『真地駅~、真地駅~。右側の扉が開きま~す。ご注意下さ~い。』
方会駅を過ぎて、そのクラスメイトの人と待ち合わせている、「第六地区」の「真地駅」で降りて改札を出る。
三重県の海沿いにあるこの「真地町」は、町全体が十二の地区に分かれているのが特徴で、地区によってまるで別の町に来たみたいな感覚になるくらい、建物や雰囲気が違う。
方会駅があった「第一地区」は、遊園地やゲームセンターに食べ物屋がギュウギュウ詰めになった、まさに都会みたいな所かと思えば・・・その次に通った「第三地区」は、お金持ちの人達がご用達にしていそうなデパートやお洒落な店ばかりの、いかにも高級そうな町並みだったし・・・電車の窓からちらりと見えた「第五地区」は、キャンプが出来そうな緑と自然が広がる山のふもとだった。
この第六地区も、銀色にピカピカ光る大きな塔を中心にして、役所や病院に会社の建物が幾つか見える、僕の住んでいる所に近い感じのまたまた違う雰囲気の場所で・・・
そうだ、待ち合わせしてる人は・・・
「あっ!貴方が震和(ふわ)さんが言っていた、
章造さんですか?」
(は、はい。)
この人だ。義兄さんが言っていた、クラスメイトの女の人・・・
名前は、確か・・・うっ、年上の女の人とあんまり喋らないから、妙に緊張する・・・
「わたしは、戸枝(こえだ)ひなたと言います。
章造さん、今日はよろしくお願いしますねっ。
ようこそっ、真地町へ!」
その柔らかい声と、差し伸べられた優しい手と、満面の笑顔を見ていたら・・・不思議と、緊張は消えて行って。
こうして・・・僕の、真地町観光が始まった。