拍手短編集
年の終わりもあと数週間と迫った12月のとある日、ここは何処かに存在する波止場の倉庫裏。
普通なら特に近寄る用事も無い、この場所の壁にもたれ掛かっているのはこれまた周りの風景と不似合いの軍服を来た、瞬だった。
――このシチュエーション、前も何処かで・・・
そんな事を考えている内、彼の元へやって来たのはここに瞬を呼び出した張本人・志真だった。
しかも志真の横には何故か遥の姿もある。
「全く、次は一体何の用・・・なっ、何故妃羽菜がいる!」
「すみません、私も志真さんに連れて来られただけなので、私自身もよく分からなくて・・・」
「・・・どういうつもりだ、志真。」
まさかの遥の登場に軽く面食いつつも、瞬は志真に問う。
志真の方はと言うと何か思う事があるのか、両手の拳を握りながら沈黙したままであり、すかさず遥がフォローを入れる。
「たっ、多分志真さんは何か悩みがあって、それを私達に聞いて欲しいのだと思いますよ。志真さんはジャーナリストだから、余計難しい事が多いと思いますし・・・」
「悩み事か。だとするなら俺達をわざわざこんな誰も来ない所に呼び出す以上、相当な事なのだろう。志真、いい加減口を開いたらどうだ。」
「・・・なぁ、瞬。」
「んっ、どうした?」
「2008年って、色んな事があったよな。」
「ああ。」
「石油価格が高騰したりとか、内閣総理大臣が三年連続で変わったりとか、アメリカの証券会社が経営破綻したりとか。」
「そうだな・・・今年も目まぐるしい年だった。」
「北京でオリンピックが開かれたとか、ノーベル賞に日本の科学者が3人選ばれたりとか、スペースシャトル『ディスカバリー号』の打ち上げが成功したりとか。」
「暗い話題ばかりでしたけど、こういった明るい話題もありましたよね。」
「日本でゲリラ豪雨の被害が続出したりとか、アメリカやミャンマーに台風・サイクロンが襲来したりとか・・・」
「・・・待て。お前は、今年を振り返る為だけに俺達をここへ呼び出したのか?なら、こんな話をここで聞く必要は無い。俺は帰らせてもらう!」
「しゅ、瞬さん!?」
やや怒りを露にしながら、瞬は波止場を去ろうとする。
だがそんな瞬を、志真の手が止めた。
「何だお前は、さっきから何がしたい!」
「まあちょっと遠回しにしちゃったけどよ、俺がお前に言いたいのはここからだ。最後まで聞いてくれって。」
「・・・それを早く言え。」
[後半へ~、続く。]
「じゃあさ、さっき今年起こった事を色々と言ったけど、俺達にとっての今年最大の出来事って、何だ?」
「今年最大の出来事?・・・お前自身がだいぶ言ったと思うが?」
「そうですよね・・・?志真さんが言った事以外の出来事って・・・」
「うあぁーっ!!瞬も遥ちゃんも、もう忘れちゃったのかよ!」
「「えっ・・・?」」
「俺達も出演しただろ!『tha Next「G」』!」
「「あっ・・・!」」
出てくるとさえ思わなかったその名に、2人はつい驚愕の声を上げる。
だが、志真の表情は未だ真剣そのものだ。
「この歴史的な事を、忘れちゃいけないだろ!?」
「た、確かに凄い事でしたよね。まさか私達も出して頂けたなんて。」
「流石に想定外だったぞ・・・だがこの話だろうと、別にここで話す事では無いと思うが。」
「お前と遥ちゃんだけに言いたい事なんだよ。そうだ、瞬!お前って奴は・・・!」
凄まじい剣幕で迫る志真の迫力は、瞬をも後ろに下がらせる。
遥はどう対処すればいいか分からず、困惑しながら2人の様子を見るだけしか出来ないでいた。
「なっ、何だ。俺は特に・・・」
「謙遜してんじゃねぇ!俺は羨ましいぜ・・・!お前だけ、お前だけ全編出やがって!」
「なっ・・・!?」
「ええっ!?」
「よく考えてみろ、俺達は一応は前編でのゲストで、それ以降は良ければ名前だけの出番だと思ってたんだ!まぁ、そりゃ俺も後編に出して貰ったけど、お前だけどうしてさりげなく中編にも出てんだ!」
「・・・俺は自衛隊員である以上、一応作戦に参加する立場だから・・・じゃないか・・・?」
「なにぃ!なら、遥ちゃんはどうなるんだ!」
「わっ、私ですか!?」
「遥ちゃんは中編にも後編にも出ないで、元々の出番の前編だけで抑えてるだろ!それなのにお前はちゃっかりと・・・」
「ま、待て!それはもはや俺の問題では・・・」
まさに「言い掛かり」としか言い様の無い言葉を容赦無く突き付け続ける志真に怒りや呆れを越えて、どうすればいいかも分からない瞬。
が、そこに志真の携帯に電話が掛かって来た。
「こんな時になん・・・・・・・・・。」
「・・・?」
「志真さん?」
暫しの沈黙の後、電話を終えた志真はゆっくりと携帯を下ろし、2人に重い口調でこう話した。
「・・・『前編短編で遥と志真(名前)は出したから、今はこれで勘弁してくれ。出番の割合は本当に偶然だから、瞬を責めないでくれ。作者より。』・・・ってさ。」
――・・・遂に作者まで引っ張り出したか・・・
メタフィクションでなければ、絶対に許されない状況だな・・・
「ってわけで瞬、すまなかった。」
「・・・はぁ。」
ようやく騒動も一段落付き、改めて瞬は志真に対する呆れの溜め息を付く。
「よ、良かったですね。志真さんも落ち着いたようですし・・・」
「まぁ小言はもう言わないみたいだが、落ち着いていく度にやはり、こんな所に呼び出された事への疑問が沸いてくるのだがな・・・」
「ほんと、すまねぇ!心から反省します!」
「まあまあ、こういった機会は滅多に無いですし・・・あっ、2008年と言えば一番大事な事、まだ言ってませんよね。」
「一番・・・」
「大事な事・・・?」
遥の出した意表を突くこの問題に2人はすぐ考え始めるが、中々答えが出ない様子だ。
「2008年の・・・?」
「言い忘れてました。私達の時間の中で・・・ですよ。」
「俺達にとって、一番大事な出来事・・・あっ!分かった!2008年の4月、今は無い神島って所で・・・!」
「そうです!2008年は私達の時間の中で、ゴジラが現れた年です。」
「はっ・・・!」
「あぁ、俺とした事が焦ってそんな事もすぐ出て来なかったのかよ・・・これが、俺達にとって全ての始まりなのによ。」
「私も2008年で他に何かいい事が無いか考えていたら、偶然出てきただけですけどね。でもこんな喜ばしい事を思い出せて、良かったです。」
「この出来事が無ければ、俺はただの軍人のまま生きていたかもしれない。『怪獣』と言う存在を許す事も・・・」
「そうさ、あいつが全ての事と巡り合わせてくれたんだ・・・ゴジラが。」
「だが、謎はまだ残っている。俺達はこれからも『何か』と対峙する事になるかもしれない。」
「それでも私達にはかけがえのない人が、怪獣がいます。どんな事があっても、きっと乗り越えていける。」
「「「と、言う訳で来年も・・・!」」」
[宜しくお願いします!]