‐バラガミ‐ 今によみがえる飛梅伝説(モノクロ版)







2013年、京都府・北野天満宮付近・・・



「ふっふふっ、ふ~んっ♪」



わたし、嵯峨野さくら。
生まれも育ちも京都の、13歳の中学生です。
趣味は裁縫、トレードマークはこの三つ編みのお下げ。
3月27日、「桜の日」に産まれたから「さくら」って名前になりました。



「ふんふん、ふ~ん♪」



今日、わたしは北野天満宮のすぐ隣にある「桜花神社」に向かっています。
どうして、わたしはこんなに楽しそうにしているか・・・それは、わたしの願い事が叶うかもしれないからです。



「バッ、バッ、バラガミバラガミ~♪」



つい先日、兵庫県の八幡神社に行ったわたしは、そこで赤茶色の松ぼっくりを見つけました。
知ってますか?八幡神社には松の木の神様である「バラガミ」ことバラン様がいて、いつもは別の姿に変わっているけど、神聖な場所に連れて行くと本当の姿になって、願いを叶えてくれるらしいんです。
それで、松ぼっくりと言えば松の木の子ども!
赤茶色の松ぼっくりも全然見た事ないですし、だからわたしはこの松ぼっくりがバラン様の変わった姿だと考えました。
そして、神聖な場所と言えば・・・北野天満宮!
だからわたしは昨日、北野天満宮のすぐ隣にある「桜花神社」にその松ぼっくりを置いて来ました。
天満宮に置いたら、誰かに見つかって取られちゃいそうですけど、桜花神社はそんなに人も来ませんし、わたしだけが知ってる神社裏の穴に置いて来ましたから。



「わたしのねがい、かなえたまえ~♪」



それから、わたしの願い事。
それは・・・遠くに行っちゃった、真ちゃんに会う事。
幼稚園に入る前から仲良しになって、ずっと一緒にいた真ちゃん。
でも、真ちゃんは5年前にパパさんのお仕事の都合で、実家がある福岡に行ってしまいました。
確かに、話したくなったら電話やメールは出来ますし、行き先が海外って言うわけじゃありませんから、二度と会えない程でもありませんが・・・でも、やっぱりまだ中学生のわたしにとって京都と福岡は、届かない遠い場所です。
それに、真ちゃんがいないって思う度にわたしの胸は苦しくなって、真ちゃんにまた会いたいって気持ちが、どんどん強くなっていきました。
だから・・・わたしは、バラン様にお願いする事にしました。
ほんの少しだけでいいから、真ちゃんに会わせて下さい・・・と。



「・・・お願いよ、神様、仏様、バラガミさま・・・」



飛梅伝説の梅さんみたいに、わたしも飛んで行けたらなぁ。
真ちゃん・・・今、どうしてるんだろ・・・










福岡県、大宰府天満宮内・・・



「・・・ってわけで、おれはさくらと仲直り出来たんだ。」



おれの名前は、麻野道真。こう書くと「道真」って見えるけど、じゃなくて真(まこと)って名前。
5年前に京都から実家のあるここに越して来て、普通に暮らしてる普通の中学生。
ただ、一つ普通じゃないとこを言うと・・・



『そうなんやぁ。真はんも、隅に置けへんなぁ。』



おれの目の前にいる、このちっさい女の人。
なんか懐かしい京都訛りで喋る、蝶の羽の模様みたいな振袖を着た、多分15cmくらいのおっきさの、黒髪ロングな京都美人さん・・・でも、誰も見えないし騒ぎもしない人。
そう、おれはこの大宰府天満宮の土地神様にして、飛梅伝説で京都からここに飛んで来た梅の精、「お梅」さんと話が出来るんだ。
なんか、初めてここに来た時に宮内の梅の枝を折った人がいたから捕まえてくれ、って声が聞こえてその人をとっちめたら気に入られて、それからずっと話相手になってる。
・・・あっ、とっちめたって言っても警察に連絡して突き出しただけなんで。暴力反対。



「あ、ありがと。」
『さくらって言えば、もう花が咲く頃やねぇ。平安の都の桜は元気してるかなぁ。』
「今は『京都』だって。まっ、おれの記憶の中じゃ多分きれいに咲いてたけど。」
『そっかぁ・・・懐かしいわぁ。』
「・・・おれが、連れて行ってやろうか?」
『えっ?・・・でも、まだ学生の真はんには無理やろ?大宰府出るんも、きついみたいやし。』
「『福岡』だって。だ、だから・・・おれが、大人になってから。さくらにも、会えるし。」
『ふふっ・・・じゃっ、楽しみにしとくわぁ。』



はぁ・・・色々思い出してたら、さくらにまた会いたくなったな。
このお梅さんみたいに、飛んで会いに来てくれるわけないし・・・早く、おっきくなりたい。
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好釦