アイスクリーム シンドローム
「今日は楽しかった~!アイスクリームスライダー、中々スリルあるぜ?」
「遥もやってみない~?」
「う、うん。考えてみる。」
その頃、帰路に付く遥達はアイスクリームを食べながら、今日の思い出を話し合っていた。
「そういや、流れるプールにいたおじいちゃんが子供に終戦記念日の空について話してたのが印象的だったな。」
「終戦記念日の空?」
「今じゃ考えられないくらい、都会なのにすごく静かな空だったらしいぜ。恐怖の象徴じゃない、普通の空が来たって誰もが思ってたって。」
「それで、今日がまさにその終戦記念日だから、きっとおじいちゃんは偶然空を見上げて、思い出したんでしょうね。」
「うん。私もそう思う。私も昔、おばあちゃんから似た話を聞いた事あるし。」
「そっかぁ。たまにはあたしからのシリアスな話だぞ、って思ってたのになぁ。」
「あらあら、ドンマイ。」
「でも、こんな当たり前な日常こそが、一番大事なのかもしれない。私、最近そう思うの。」
「実感わきずらいけど、確かにそうかもな。戦時中なんかまさにそれが無かった時代だし。」
「こうやってみんなで遊んだり、勉強したり、朝起きてご飯を食べて寝て・・・でも、それが無くなっちゃったら嫌だわ。」
「そうだね・・・ねぇ、2人とも。明日私の家に来ない?今日の埋め合わせもあるけど、部活の話でもいいし、それ以外の事でも・・・とにかく、2人と色んな話がしたいの。」
「おっ、遥からのお誘いなんて珍しいな!よし、乗った!」
「私も行く~。でも、一応課題は持って行くわね。」
「うっ、現実に引き戻されるぅ・・・けど、さっきの台詞で言うなら勉強だって大事だし、あたしも持ってくか。」
「いきなりでごめんね。それから、今日もだけど・・・初めて友達になった時から私に色んな事をしてくれて、ありがとう。」
「よ、よせよ。急にそんなの言われたら照れるだろ!」
「私達も、遥といて楽しいわ。行く大学は違っちゃったけど・・・離れてもずっと、仲良しでいましょ。」
「ってわけだから、これからもよろしくな!遥。」
「・・・うん!」
遥は満面の笑みを浮かべ、屈託の無い笑顔を見せる大切な「絆」を確かめると、アイスクリームを食べきり、宵(よい)の明星輝く夕焼けの空を見上げる。
――私達の「今」は、このアイスクリームみたいにすぐ無くなっちゃう、あっという間な時なのかもしれない。
それでも、私にはそんな一瞬だってきらめいて見える。
大人になっても、おばあちゃんになっても・・・例え戦争になったとしても、私は忘れない。
どんな一瞬も、絶対に。
遥が見上げる空は、彼女の独白が聞こえそうな程に、とても静かなものであった。
・・・今日も、この空は平和です。
そして、それがずっと続いて行くのを、私は氷菓子を片手に空を見上げながら願っています。
あの日見上げた、戦闘機も爆弾も無い静寂の空と、その空に向かって溢れる自由への思いを叫んだ、かつての自分を思い出しながら・・・
終
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