アイスクリーム シンドローム







それより少し前、京都の女性組は既にプールを出ていた。
彼女達の手にはストロベリーのアイスクリームが握られており、遥の友人2人は自分の分までアイスクリームを買ってくれたみどりを、羨望の眼差しで見ている。



「あの、本当にあたし達まで奢って貰っていいんですか!?」
「いいのよ。今日は遥ちゃんと遊びに来たのに、遠慮して貰ったし。これくらいはお礼させて。」
「「ありがとうございます!姉御!ゴチになりました!」」
「もう、2人して何言ってるのよ。」
「今日は遥と遊べて、すごく楽しかったです。」
「いえいえ、それは良かったわ~。」
「みどりさんと睦海ちゃんは、これからどうするんですか?」
「もうすぐ新幹線で帰る予定だから、あまり長居は出来ないわね。」
「だから、今日遥に会えて良かった!」
「私もよ、睦海ちゃん。あっ、それでは私達はここで。またお会い出来る日を、楽しみにしています。」
「今日はありがとね、遥ちゃん。じゃっ!」
「皆さん、さようなら。」
「「姉御、さよなら~!」」



こうして遥達と別れたみどり・睦海は新幹線に乗る為、京都駅を目指す。
しかしその道中、真剣な表情に切り替わった睦海が、みどりにある質問をする。



「・・・ねぇ、みどり。本当は健と将治、お出掛けに誘ってくれてたんだよね?」
「えっ?ち、違うわよ?」
「うそ。健と将治なら、どんな用事が入ってたって最優先で来てくれる筈だよ?みどりもだけど、わたしがいるなら尚更。」
「・・・そうね、うん。あたし、嘘付いちゃった。本当は2人から東京観光に誘われてたんだけど、睦海ちゃんと2人でお出掛けしたいって言って断ったの。麻生君にも悪い事しちゃったな・・・」
「それってもしかして、健?みどりは、健の事が・・・」
「ストップ、睦海ちゃん。けど、そこまで見抜いてたか・・・何だか、健に会うって思うと気まずく感じちゃって。でも、最終決戦の時にあんな事をしちゃったから・・・今更無かった事にも出来ないし。駄目よね、あたしが先に仕掛けたようなもんなんだから、あたしこそはっきりしないといけないのに。」
「じゃあ・・・言える時間がある内に言わないと。アイスクリームがすぐ溶けちゃうみたいに時間は待ってくれない・・・後悔したら、もう遅いの!」



声を張り上げてそう返す睦海の言葉に、核心を突かれたみどりの目が見開かれる。
彼女が食べようとしていたアイスクリームはベタベタに溶けており、それを見てみどりは睦海が言った言葉の意味を思い知る。



――・・・そっか。
ほんとに、待ってくれないのね・・・
もういつまでも、幼なじみとしての関係(キャスティング)を演じてなんていられない。
この距離感を続けてたら、あいつの方から離れて行っちゃう・・・なら!


「分かったわ、睦海ちゃん。まだあいつも夏休みだし、改めて会ってみる。もしかしたら、勢いで抱え込んでたこの思いを伝えられるかもしれないし。」
「みどりなら大丈夫だよ。それにきっと、健だって自分の気持ちを伝えようって思ってるわ。」
「うーん・・・そうね、そう願っとくわ。ありがとう・・・睦海。」


――だって、運命がそう決めちゃったんだから。
でも、いいの。
わたしはおじちゃんのおかげで、もうその結果を受け入れられた。そして、目の前の「お母さん」を応援する事にしたから。
さっき遥が言ってた、「どんな些細な思い出でも大切にして、明日を生きる」。
いつか明日の先で「わたし」と出会ったら、もうわたしはみんなの前には来れなくなるけど・・・わたしにはみんなとの思い出があるから、その先の明日を生きて行ける。
だから・・・頑張って、みどり。



数十年先の未来に生き、かつてみどりと同じ想いを抱いていた睦海。
様々な思いが入り交じる、そんな彼女の笑顔に見守られながら、みどりはアイスクリームを一気に食べてしまうと、携帯を出して新しいメールを作成する。



――いつになく、真面目な感じで誘い出してみて・・・もしあんたに会えたら、あたしもあんたみたいに叫んでみよっかな。
幸せは増えたって、減るものじゃない。遥ちゃんが言ってた言葉。
それが正しいなら、この関係が終わっても・・・あんたとこれからも、ずっといれるよね?
だから、覚悟しなさい!あたし!
それから、健!



そしてほんの数秒の間を置いて、みどりは携帯を空に掲げると、メールを送信した。



「未来に向かって、送信!」
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好釦