アイスクリーム シンドローム








それから数時間後、東京の男子組は勝鬨橋の付近に来ていた。
橋を一望出来るベンチに座り、近くの店で買ったアイスクリームを味わっている。



「アイスって言ったら、やっぱチョコだよな!」
「ふっ、桐城は単純だな。アイスクリームと言えば日本古来の味である、カスタードアイスだよ。」
「んだと!相変わらずマイナーなのばっかり言いやがって!そんなにマイナーが偉いのかよ!」
「俺はなんか贅沢なバニラチョコだけど、カスタードアイスって日本古来の味なのか?」
「はい。日本でのアイスクリームの歴史は1869年、遣米使節団からの伝えを元に『あいすくりん』として販売したのが始まりですが、その時に使われていた原料が生乳・砂糖・卵黄と、現在もカスタードアイスに使われている原料だったんです。更にアイスクリームの起源は紀元前より・・・」
「だぁーっ!もう黙れ!志真さんも麻生を煽らないでくれ!」
「・・・アイスクリームは、シンプルなバニラに限るな。」



各自、アイスに対するこだわりを語る間に、隅田川の穏やかな水面を夕日が橙色に染めて行く。
その光景に惹かれてか、自然と騒ぎを止めた4人は別の話を始めた。



「そうですか・・・あの事件の裏でお2人が関わっていて、あの怪獣が『四神』だったとは・・・四神伝承は実在していたのですね。」
「青龍と白虎を呼びに行くとか、あんた達すげぇな!」
「俺達もびっくりしたけど、ゴジラのピンチならどんな事でもいいから動きたかったんだ。」
「本来はバラン達を自由にしてやる範囲だったが、最終的にそのバラン達を含めての激闘になったな。」
「あのガメラって怪獣に、レンと紀子。なんか只者じゃねぇ感じがしたけどよ、合ってたんだな!他の四神にも会ってみてぇ!」
「ただ、マジロスとプレシオルが現れた事について気になります。やはりまだ、オリハルコンの影響が残っているのではと・・・」
「麻生。その為に俺達自衛隊と、お前の所属するGフォースがあるのではないか?平和を乱す脅威があるのならば、それを払うのが俺達の使命だ。」
「・・・はい。瞬特佐と共にあの東京決戦に参加しましたが、まだまだ今の僕では瞬特佐の足元にも及びません。1日でも早く胸を張って誰かにそう言える人になれるよう、頑張ります。」
「そうか。その思いと、自分への誇りを忘れない限り、いつかその日は来るだろう。」
「ありがとうございます・・・感慨無量です。」
「それに日本にはゴジラ・バラン・モスラの三大怪獣が、四神がいるじゃねぇか。悪魔野郎が来ようが、絶対に負けねぇよ!」
「ああ。その通りだな、健君。いや、むしろ健君なら俺の拳で全部守る!って感じか。」
「まっ、そうですね。何があっても諦めずに俺が出来る限界の、一歩でも二歩でも先まで全力でやるだけです。俺の家族、翼、みどりがいるこの場所と、あいつのいる未来を守る為に。俺の『ダチ』ならその為に戦いますし、俺もダチと一緒に戦います!」
「健君らしい、力強い意見だな。でも健君なら、不可能を可能にしてまでそれを果たす。俺はそう思う。」
「・・・話を変えてすみませんが、志真さんはどうして『勝鬨橋でアイスクリームを食べる』事を提案したのですか?」
「それはな、これがしたかったからなんだ・・・うおーーーーっ!!」



と、溶けかけていたアイスを一気に口に頬張り、志真が勝鬨橋に向かって突如叫んだ。
橋付近にいる人々はまばらだったものの、それでも不意に聞こえて来た絶叫に辺りを気にする様子を見せる。



「あ・・・あの、志真さん、何をして・・・」
「何って、叫んだんだよ。」
「おっ、じゃあ俺も叫ぶぜ!おぉーーーーっ!!」
「と、桐城!?何を考えているか分かりませんが、そんな事をしたら桐城が・・・」
「・・・そう言う事か。」
「えっ?瞬特佐?」
「麻生、『アイ、スクリーム』だ。」
「アイ、スクリーム?それがどうか・・・はっ!まさか?」
「将治君も分かったか。それじゃあ、You Screem?」
「『私は、叫ぶ』・・・駄洒落ですか。」
「だが、あいつが考えそうな事だ。」
「よく分かりましたね、瞬特佐。なんだか意外です。」
「これでも人生の半分はあいつと過ごしているからな・・・そういえば、今日は終戦記念日だな。」
「はい。日本人なら絶対に忘れてはいけない日です。」
「そう。誰もが忘れてはならない。あの日、自分の心からの思いを叫ぶ事すら許されず、理不尽な炎の中に消えて行った人々を。」
「!!」



「遥ちゃーーん!!受験、頑張れよーーー!!」
「みどりーーー!!睦海ーーー!!今度こそ、会いに来いよーーー!!」



「あいつがそこまで考えているかは知らんが、今日と言う日に思いのままに叫んでみるのも、悪くないかもしれない。」
「・・・僕も、ちょっとそう思いました。」
「おい!お前も叫べよ、麻生!もっとアクティブに行こうぜ!」
「瞬も、こういう時は人に合わせろって!」
「分かった分かった、今行くよ。瞬特佐は・・・」
「・・・俺も行こう。」



こうして、アイスクリームを食べ終わった4人は、隅田川の水面を揺らすかの如きスクリーム――叫び――を、勝鬨橋の先の空に向けて響かせたのだった。






「・・・あっ、みどりからメールだ。」
「手塚さんから?」
「なになに・・・?」
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好釦