アイスクリーム シンドローム
その頃、京都の市民プール。
手早くアイスクリームを食べようとした遥に話し掛けて来たのは、彼女が思いもしない2人であった。
「えっ!みどりさんに、睦海ちゃん!?」
「久しぶりね、遥。」
そう、この2人はかの年末年始の大騒ぎの際に、奇妙な形で再びめぐり合っていた、手塚みどりと睦海だった。
2人の手にもストロベリー味のアイスクリームが握られており、みどりは逆の手でビーチボールを抱え、睦海は腰に小さめの浮き輪を付けている。
「ひ、久しぶり。あの時以来だね。でも、どうして2人がこんな所に?」
「睦海ちゃんが旅行に行きたいって言って来たから、女2人で京都に行く事にしたの。」
「健と将治も誘ったんだけど、用事があるから無理だったの。」
「そうなんですか・・・」
「今日帰る予定だったけど、遥ちゃんとこんな所で会えて良かった・・・あっ、アイス溶けそうよ?」
「わっ!す、すみません。今日って本当に暑いですね・・・」
「ほんとにね。日焼けしてないか心配・・・」
「あっ、遥もいちご味のアイスなんだ!わたしとみどりと一緒ね。」
「そういえば一緒だね。私、ストロベリー味のアイスが好きなの。」
「あたしもよ。アイスって言ったらストロベリー味でしょ。」
「いちご、美味しいね。わたしもお気に入り。」
2人は遥の傍に座り、ストロベリーの甘い味わいが口中に広がるアイスを少しずつ、だが溶ける前に舐めて行きながら、トークに花を咲かせる。
「最初見た時に思ったけど、遥ちゃんの水着って可愛いわね~。こんなに黄緑色の似合うワンピースの水着があるなんて。」
「えっ、そ、そうですか・・・?」
「フリフリが付いてて、可愛い~。みどりと水着を買いに行った時こんなの無かったなぁ。」
「遥ちゃん、もっと自信持っていいのよ?最近、ワンピースタイプってそんなに見かけないし、すらっとしたスタイルだから似合ってるわ。」
「あ、ありがとうございます。みどりさんもその水色のビキニがとってもお似合いですし、睦海ちゃんの水着だって凄く可愛い。」
「あら、ありがと♪最近痩せたから買ってみたけど、正解だったみたいね。」
「こう、みどりさんって大人の女性の体付きですし、パレオがそれを引き立ててるなって。私はこういうのを着れませんから、羨ましいです。」
「もう、遥ちゃんったら~。褒めてもアイスは奢ってあげないわよ?」
「それにわたしの水着、みどりが選んで買ってくれたんだ~。」
「そうなんだ。白のタンクトップに、デニムのズボン・・・タンキニね。睦海ちゃんの雰囲気にぴったり。」
「でしょ☆でもね、遥ちゃん。実は睦海ちゃんがあんまりにも地味な水着を持って来たから、ってのもあったりするの。」
「そうかなぁ?競泳用とか、ウェットスーツとか、スクール水着とかでも・・・」
「じ、実用的な水着だね・・・」
「それに、スクール水着は私だからこそ似合うって言われた事あるよ?」
「それはいいの!もう、誰だか知らないけど睦海ちゃんに変な入れ知恵して・・・!ってわけで、あたしがここに来る前に選んだの。新しい水着も買いたかったし。」
「そ、そうですか・・・」
同じ頃、志真と瞬は銀座に移動し、和光の時計台前にたどり着いていた。
しかし、そこで2人は思いもしない相手と出会う事となった。
「あっ、あんた!」
「な、なんと!お久しぶりです!瞬特佐!」
志真と瞬を見付けるや、時計台を見上げていた顔を慌てて元に戻した2人の少年。
それは去る年末年始に、意外な再会を果たしていた桐城健と麻生将治だった。
「おっ!健君に将治君!久しぶり!」
「はい。あの変な年明け以来だったっけ・・・」
「まさか、プライベートで瞬特佐とお会い出来るとは・・・!お2人で観光中ですか?」
「元々は1人で来たはずだったのだが、偶然来ていたあいつに捕まってしまってな。」
「何だよ、その言い草!まぁ、それはいいとして君達も観光?」
「そうです。夏休みと言う事で、桐城からの誘いで東京観光をする事になりまして。本当なら東京タワーを中心にしたコースを考えていたのですが・・・」
『平日は階段を上がれねぇだって?なら、俺は行かねぇ。俺はエレベーターを使って上がる気はねぇ、東京タワーは自分の足で上がるって決めてんだ!』
「・・・と言い出しまして、困ったので仕方なく銀座を中心にしたコースで行く事にしたんです。」
「あぁ、なるほど・・・」
「東京タワーは一度階段で上がってしまうと、上がりきるまでエレベーターは使えない。他の場所を観光するなら避けた方が無難だと思うが。」
「でも、親から貰ったこの足で昇ってこそ、見渡した時の感動があるじゃないですか!まぁ、みどりと睦海がいたら流石にエレベーター使いますけど。」
「そういえば、あの女子2人がいないって思ってたけど、都合が悪かったとか?」
「一応はそうですね。どうも先に手塚さんが睦海を誘っていたらしく、『先着順』と言われて断られました。」
「折角久々に会えるって思ったのによ・・・ちなみにあいつら、京都に行ってるらしいです。」
「京都か~。遥ちゃんとばったり、とか面白いのにな。」
「えっ、あの人って京都の人なんですか?」
「そうだ。しかし妃羽菜は受験を控えている身である以上、恐らく自宅で勉強しているだろう。」
「受験かぁ。今日もまさにプール日和な猛暑なのに辛いな・・・暑いって言えば、まさに俺達もか。」
「ちょっと発汗量が強くなってますね・・・日射病は気付かない内に起こりますし、そろそろ日陰のある場所に移動した方がいいのでは。」
「次は何処に行くんだ?予備コースで行くとか行ってたスカイツリーなら、まだ未完成だし俺は行かねぇぞ?」
「うーん・・・松坂屋にも行ってみたいけど、桐城が好きそうな博品館はこの方角だし・・・」
「あっ、じゃあとりあえず松坂屋に向かって、次はこっちに向かって行くのはどうだ?地下鉄を使えば暑さは避けられるし、この辺りにジョナサンがあったし。」
「そうですね・・・分かりました。そうしましょう。」
次の目的地を決めた4人は、各自タオルで汗を拭いながら時計台を去って行った。
健がもう一度見上げた青い空には、一機のジェット機がまるで空を真っ二つに割るような飛行機雲を出しながら、遥か彼方へと飛んでいた。