アイスクリーム シンドローム
ここは京都市内に存在する、とある市民プール。
それなりに規模の大きく、入場料も安めなこのプールは夏になると主に近隣の家族連れや若者達で賑わう、隠れた人気スポットだ。
「んじゃあ、あたし達はなんか飲み物買って来るけど、遥は本当にいらないのか?」
「うん。クーラーバッグの中にまだあるから。」
「流石は遥、本当にいつも準備がいいわよね~。それじゃあ留守番、よろしく~。」
そしてその中に、高校の女友達2人と共にここへ遊びに来ていた遥の姿があった。
売店へと向かった2人を見つめつつ、遥は手に持ったストロベリーのアイスクリームを食べる。
また、8日前に志真・瞬と一緒に来たプールは、同じこの市民プールである。
――本当は勉強しないといけないけど、志真さんに「思い出はどんな事でもいいから作った方がいい」って言われたし、折角の友達の誘いは断れないよね。
それに勉強なら、明日からもっと頑張ればきっと大丈夫!
昨日はたっぷり寝たから、この前みたいに変な夢を見る事は無いと思うけど、はしゃぎ過ぎて疲れないようにしないと・・・
「・・・あっ。」
遥が色々と思案する間に、手に持っていたアイスクリームが暑さで溶け、手に掛かってしまっていた。
急いで遥はクリームが付いた部分を舐め取り、またクリームが掛からないようにコーンの辺りを中心に食して行く。
「危なかった・・・今日はいつもより暑いし、早く食べちゃわないと・・・」
「あら、遥ちゃん!」
「なぁ、次はあっちの方に行ってみようぜ。俺、アイスクリーム食いたいんだよ。」
一方、東京・千代田区。
有楽町マリオンの前で、やけにテンションを高くしながら志真は瞬にそう話し掛けた。
昼前に訓練が終わり、余った時間を利用して珍しく繁華街に行ってみようと思った瞬は、そこで同じ目的で有楽町に来ていた志真と偶然出くわし、彼に捕まってしまったのだった。
「本探し」と言う本来の目的を果たせずにやや瞬は不満気味だが、それを知ってか知らずか志真は先程からこのように、瞬を引っ張り回していた。
「・・・志真、俺はあくまで本の類を探しにここへ来ただけだ。それを何故、お前の観光に付き合わなければならない?」
「いいだろ、別に。よく考えたら瞬と2人だけで出掛けた事なんて全然無いし。前に出掛けた時も遥ちゃんと一緒だったし・・・そういや聞き忘れてたけど、お前遥ちゃんの水着姿を見て正直どう思った?」
「話を逸らすな!それに、別に妃羽菜が水着だろうと・・・」
「それ、遥ちゃんに失礼だぞ?そこらの男と違って、女の子は水着姿にもこだわりがあるもんなんだよ。なのにどうでもいいみたいな言い方したら・・・」
「わ、分かった!・・・新鮮だった。どうも水着姿は扇情的になりがちだが、それをあまり感じない健全さは妃羽菜らしいと思った。」
「おお、よく分かってるじゃんか。やっぱり、遥ちゃんは潔癖なくらいに純粋無垢なのが良いよな。よし、じゃあ次はあっちに行くぜ!」
「ま、待て!会話が繋がっていないぞ!」
――全く、まるで30手前の男の言動と思えんな。
妃羽菜に青春はいつかは終わると言っておきながら、お前こそ未だに青春真っ盛りだろう。
・・・いつまでも放っておけんやつだ。
こちらを顧みず、目的地目掛けて早足で駆け出す目の前の志真を見ながら内心瞬は呟く。
だが、その表情は反して笑みを浮かべており、彼もまた早足で腐れ縁の「友」を追った。